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18(ク)


翌朝、ラテスに抱き枕にされて俺は、無意識に鼻をラテスの頭に近づき、クンクンした。


やっぱり微妙に酸っぱい。

昔を思い出す。


病気を患う前、知人に「お前、臭いぞ、風呂キャン界隈だろう?」って言われた。

ーーー具体的になんて臭い?

と俺は聞く。


知人はしばらく考えて、答えを出した。


「ドブみたい」


その日以来、あんまり顔を合わせなかった。

合わせる顔などない。

ドブだし。


頑張ったが、それでも風呂には三ヶ月に一回くらいしか入れなかった。

金も尽きかけた、風呂に入る気力なんて湧くはずもない。


ともかく。

ラテスから、当時の俺の臭いがする。


俺はあんまり臭いに敏感な方じゃない。

しかし、酒場の一日中汗まみれのおっさんと比べて、ラテスの方が臭う。


まあ、分かるだけで、なんというか。

何故か嫌とは思わん。


『当たり前じゃ、脳がリンクしとるからのう

君はこやつの嗅覚と一緒じゃ、自分の体臭に嫌がる人おるか』

神はダルそうにあくびをした。


そういうものか。


ーーラテス


彼の耳元で囁く。


ラテスは目を開いた。


「...もう朝か?」


...早く起きて。


「そんなに急がなくてもいいじゃないか....」


背伸びするラテスに、俺は話しかける。


今日、大事なことがあるんだ。


「大事なこと?」


小さく頷く。

ラテスは意味不明な顔で眉を寄せる。


「なんだよ?」


人は病気になれば、あっさりしぬ。

そうでしょ?


「...まあ、そうだな」


でもどうやって病気にならないのか、

つまるところ、清潔にあるんだ。


「はあ、それで?」


今日はラテスを清潔にする日なんだ。


「...へ?」

ラテスは戸惑って、すぐに顔が赤く染まる。


「もしかして、僕って臭うのか?」


いや?全然いい匂いだよ。


鼻を近づけて嗅ぐ。


うん、いい匂い。

ラテスの健康が気がかりなんだよ。

ほら、ご飯も食ったけど、健康に気をつけるべきだろう?


「あ、え、まあ、そうだな。

クライスの言う通りだ。

鉱山の奴隷仲間も何十人が病気で死んだし」


そうでしょう?

じゃあ川にいって、一緒に体を洗おう。


「...おう」

ラテスの顔はなんかバツが悪そうだ。


俺はラテスの手を引いて、小屋を出た。

ラテスを拾った川だ。

朝の空気は冷たくて、木々の葉ずれが心地いい。ラテスは俺の後ろについて歩くけど、時々足がもつれる。あんまり外を出てなかったせいだな。

引きこもった奴は、弱い!


『何言うとる...こやつそもそも此間で外出る体力もないぞ?』



川辺。

水は澄んでて、腹くらいの深さ。結構えぐい、落ちたら一発でアウト。

水の中に踏み込んでみたら、岩がごろごろ転がってて、滑りやすい。

水の中で洗ってあげたかったが、これは無理だな。


ちょうどいい岩の上に座って、服を脱ぐ。


服を畳んで、ラテスも服を脱いだ。

奴隷服の下、傷だらけのラテスの肌。

見つかった日から結構経つが、俺の力でも、古い傷はどうにもできない。




『これでも命は拾ったんじゃ、

贅沢はよくないぞ?』




.......わかってる。


——————ギギギギギ


何処からか、妙な音が耳に伝ってくる。


深呼吸。



「クライス、どうしたんだ?

ぼうっとして」


ぼうっと....?


神と会話してるときって、ぼうっとする顔になるのか?今度は気をつけよう。


いや何でもない。

そうだラテス、チュビさんからもう一着の服を貸してもらったんだ。

着てみる?


「念のために聞くが、どんな服?」


ウェイトレスの服だが?


「何でだよ!!」


ラテスが顔を赤らめる。

細身だけど、しなやかな筋肉がついてる。

一見女装には合いそうだが。

嫌ならしょうがない。



じゃあ洗い終わったら、俺の服を着てくれ。

俺は女装でも平気。



ため息をついて、自分の服も脱ぎ捨てた。

ラテスは俺の上半身のまじまじと見つめる。




「な、クライスさ。

なんか肩薄くなってないか?」



目線の先は俺の肩だ。

神曰く俺の女体化はゆっくり進むらしい。

細胞レベルでちょっとずつ変わるため、当然一ヶ月は効果は出ないが。

確かに肩が微妙に縮んだかもって思うくらいにしか変わってないが。


俺でさえわからないのに、よく気づくな。

さすがラテスだ。

俺は意識しても変わったのか全然わからないのにな。ともかく、女体化のことはラテスには伝えるべきか迷った。

その観察力なら二年足らず察してしまうかもな。

神のことは喋っても駄目だろう。



ラテスの手を引いて、水の中へ。

冷たい水が足に当たって、ビクッとした。

ラテスは俺の肩を遠慮なく触る。


「んーーー気のせいか?」


ーーそうでもない。

話せば長くなるが、俺は魔女のせいで、徐々に女体化されるという呪いを受けてる。


俺は川の水を掬って、ラテスの髪にかけながら、指で梳く。金髪が、濡れて張り付く。


ラテスは目を閉じて、じっとしてる。

体が震えてる。


「....そうか」


ラテスは落ち込んだようで、俯く。

汗と埃が溜まってた部分が、泡みたいに白く浮かぶ。石鹸はないから、流す程度でいいか。


「クライス、すまん。

僕が無理にクライスを王都に連れたばかりに、こんなことが....」



阿呆。どう考えてもアイツは天災に属するタイプだろう




ラテスを回して、一瞬ぞっとしたが、

手を止まらず、丁寧に背中を洗う。


背中の傷跡がひどい。

グロいと言うか、なんというか。

肉の形そのものが変わってる。

救ったときはあんまり気にしなかったし、あれ以降は背中見てなかったから。


グロい。裂ける肉が長く分厚く。

触れば触るほど俺の呼吸が荒くなる。




奴隷に鞭打ちは歴史を習ったときは"へえー"としか思わんかったが、なるほど。

そりゃ痛くて抵抗できないわ。



ラテスの体が少しずつリラックスしてくるのがわかる。


気持ちいい?


「……うん」


ラテスの声が小さい。胸がざわつく。

胸、腹、脚、彼を洗い終わると、次に俺の番。


髪はいつも最後にしてる。

それに毎日洗ってるから、特にしなくていいか。

ラテスはぎこちない手で俺の背中を洗おうとするんだけど、力加減がわからないみたいで、結構痛い。


「クライス、どう?」


痛いって。

俺は鉱石じゃないぞ?そんなに力むなよ。


「え?別にそんな力強くしてないけど?」


うん?そうなの?


ラテスは力を少し弱めにして、再び背中を洗うと。今度は痛くない。


「どうだ?」


うん、ちょうどいい。


「そっか。」


水面がキラキラ光って、周りの木々が風に揺れる。ラテスの濡れた髪が俺の肩に触れる。


「クライスの肌、触り心地がいい」


ラテスは言う。

ホモだといいたいが、どうだろう。

女体化してる今、確かに自分の皮膚のことは触り心地が良くなったかもしれない。

よくわからないけど。

異性だと分かれば尿も飲む猛者だって、元の世界にいるわけだから。



「あのさ、クライスーーー」


手を止めて、ラテスは躊躇ったか、俺の名前を呼んだきり、何もしゃべらない。


なんだよ?


「ーーいや、ただ何でそんな呪いを受けたのに、僕と一緒に寝るのかって」


あ、うーん、もしかして嫌だった?

ラテスが嫌なら、俺は床にでも寝るが...


「そういうことじゃない!!!」



大声で怒鳴られた。

俺はびっくりして、体が強張った。


が、ラテスはそれ以降何も喋らない。

しばらく待って、ラテスは俺の肩を掴んで、

彼の方へに向けさせた。


ラテスは悲しそうにつぶやく。



「クライスはわからないだろうが、

僕はずっと我慢してんだ。

なのにクライスは何も気にしない。

女になるってのに、ちっとも警戒しないんだな」


だ、だから、どういうことだよ?


ラテスは俺の顔をじっと見つめて、息を吐く。


「馬鹿」


え……?


言葉を返す間もなく、ラテスの手が俺の肩を強く引き寄せる。

俺の体が自然と前傾みになってーーー


ラ、ラテス……? 待っ……


ラテスの顔が近づいてくる。

何が起ころうとしているのか、

俺の脳は理解してる。

しかし体が依然強張ったままだ。頭が真っ白になる。


そして、救ったあの日のように、

ラテスの唇が俺の唇を塞いだ。


押しつぶすように、重なる。

ラテスの手が俺の背中に回って、抱き締められた。濡れた肌が密着する感触が、ぞわぞわする。


これで終わると思ったが、ラテスはそこで止まらない。唇の隙間から、舌が滑り込んでくーーーない。


舌が俺の唇を撫でるが、入ってはこなかった。

ぬるっとした、温かくて、湿った感触が、唇から脳に伝わる。


頭がぼうっとする。


ぷえ?


変な声が漏れた。



『男同士がキスしとる!!!

うっひょーーー!!!!』


神の言葉を聞き流して、ラテスにしがみつく。

なんか体に力入らないけど、どういうこと?


『君はコイツを拒絶できんぞ?脳がリンクしてるから、彼が求めたら、君の体はそれに応じて応えるように行動するのじゃ

いわば自慰行為!』



なんだそれ?



何分経ったか、ようやく離れてくれた。


緩くなった口から唾液が垂れる。


はあ……はあ……


「これで分かるだろう?

僕のことは、もうほっといてくれ、

僕は...僕は...クライスのことが、」


言葉が続かないラテスに、

俺は頷く。



いや、まあ、わかってるよ?

俺のことが好きなのが。




「は?」


てか、一回キスしただろう。

あの時言ったじゃん、俺のことが愛してるって。ほら、前ラテスを川から拾ったとき。


「っえ、あれって、夢じゃなかった....?

でも、それならなんでーーー」



さては、馬鹿はお前だろう。

俺は嫌じゃないってだけさ。



そう答えると。

ラテスは震えながら、俯いた。



小屋に帰って、ラテスは裸のまま俺の隣りで寝た。すっごいタってるが、まあ後で処理するとして。




ーーーー


ラテスを殺されそうになったこと。

鞭の跡のこと。


寝れない。

すっきりしない。もやもやする。

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