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15(ク)


夜の帳が完全に降り、

小屋の中はラテスの寝息だけが響いていた。


今日も大量の食料を平らげた。

けど珍しいことに、俺の分まで残してくれていた。俺はそれを黙々と食べ終え、そっと瓶を取りにきた。


ラテスの寝顔を見ながら、ミルクを絞った。

今日は俺のイメージだけ送って、すぐに出た。


白く濃厚な液体が瓶に溜まっていく。

栄養補給、栄養補給。

依然香りは薄くて量も少ないが、昨日よりマシな気がする。


一口飲む。


『……魔力が増えたのう。

昨日が10なら、今日は14じゃ』


神の声が頭に響く。


微妙な伸びだけど、上がっている。

ラテスの体調が回復している証拠である。


魔力の補充が終えて、俺はそっと小屋の外に出た。月の光が大部分が木々に遮られてる。

今日の夜は暗い。

昼間に見つけたあの小さな魔物を呼び寄せる。


――リノ一号。


そう呼んだ10秒後、

「チュッ!」という声が聞こえる。


『来たのじゃ!』


神はドキドキにそう言う。

俺が手を伸ばすと、リスが腕の上に飛び乗ってきた。頭をなでなですると、気持ちいい。

操作したとは言え、ここまで懐くとは。


「チュチュ」、と可愛らしい鳴き声を上げながら、リスの目がキラキラ光っている。


ふわふわの尻尾が小刻みに揺れているその姿が、とても愛らしい。


『名前だってわしに付けさせたんじゃないか、飼うのじゃ!』


神はすっかり魅了されてた。

でも普通に余裕ないし、

魔物だから、ごめんな。

飼うことはできない。



『そんな...』


「チュ?」

リノ一号は首をかしげる。

そしてくるっと一回転。


何がしたいのかよくわからない。


「チュ」


リノ一号がぴょんと跳ねて、地面に降りる。

くるくるくるっと、その場で三回転。

尻尾が遠心力でぱたぱた揺れて、最後に着地でよろける。


……可愛すぎる。


『のう...もしかして、リノ助は何かを伝えたいのかい?』


え?いや、何も操作してないんだけど?

そんなことってあるの?


リノ一号は「チュチュ」と一声鳴くと、

また立ち上がり、倒れる仕草をする。


俺は目を細め、リノ一号の脳を解読し始めた。


数分後、意味を理解した俺はハハっと笑った。


『なんじゃ?何か言ったのかい?』


俺はリノ一号を抱き上げて、頭を撫でる。

毛が柔らかい。


知りたい?


『知りたいのじゃ』


でも後悔するかもよ?

やっぱりこの子は魔物だってことさ。


『なんじゃ?』


――金なら、人を殺して奪えばいいって


腕の中で、リノ一号はぴょんと片腕を上げ、尻尾をぱたぱた振って、キラキラな目でこっちを見た。


「チュ!」


『ま、また何を言っておるのか?』

神の声が、ちょっと怯えてように聞こえる。


えっと、リノ一号は昔数十人もの人間を殺したことがある、そして肉ーーーつまり人間と人間の持ってる食料を奪ったことがある

なのでもしリノ一号が腹が空いたら、人間を食うって


『あかんやん、この子、普通に魔物じゃ』


そうだね。


しばらく沈黙の時が過ぎた。



地面で走り回るリノ一号を眺めると、考える。

普通に凶暴な魔物だ。

普通に人を殺したことのある危険な奴だ。


『のう、わしは考えたのじゃが、

別にそれでよくないか?

この子に任せて、君が無理して人間と戦わずにすむ。それに、君のいない時間にあの子も守れる』



リノ一号は後ろに転がって、仰向けにひっくり返る。腹を見せて、手足をばたばたさせる。

とても危険な魔物とは思えない。


『じゃから、処分は...その』


魅入られた神は言う。


俺はリノ一号に聞く。


ーーーどうやって人を殺したの?


「チュ!」

【私の爪は、人間が擦った程度でも殺せるほどの毒がある。むかし母が人間に殺され、私はその復讐をした時に発見した】


悲しき魔物であった。


ーーーじゃあ、何で普通に俺の言う事に従って来てくれたの?


「チュ?」

【何を言っている?こんな"気持ちいい"ことをしてくれてるんだ、死んでもついていく】


ん?

気持ちいいってどういうこと?


『あ...そういうことじゃったのか』



神、どういうことだ?


『簡単に言えば、

魔物は悪魔より魔力の質が荒い、

じゃから悪魔の魔力をその身に触れると気持ちよくなる。

君の世界じゃと、そうじゃな。


ドラッグのようなものじゃ』



つまり、俺が操るだけで気持ちよくなるってこと?え?俺をドラッグの提供者として思われてるの?


神は気まずくなり、黙りこんだ。


『その、すまんのう、わしもやっと思い出したわ』


胃が痛い。

小屋の外で、リノ一号は俺の足をぺろぺろと舐め始める。

チュと言う鳴き声と共に、

【うまい!うまい!】と言う。


捨てたいけど、なんか殺されそうだけど。


――どうすんだよ、神!


『こうなればどうすることもできないんじゃ、わしもそうやってドラゴンに飼われる時だってあったし、レイプさえあった。


だってサキュバスは無力な悪魔じゃから、好き放題されるじゃ...』


言ってるそばから、何かを思い出したのか、

神は俺の頭の中で大声で泣いた。



トラウマかよ、だから覚えてないのか



リノ一号を操作して、森へ帰らせる。


正直処分したい。でももし抵抗されたら、勝てないと思う。だって人を殺したことあるし。



神の声が、静かに響いた。


『……別に君に危害を加える気はないんじゃ、

このままでもいいじゃないかのう?』


どういうこと?


『5年にかけて、君は弱くなる、それなら早めに自分自身を守る術を身につけたほうがいいじゃろう』


それなら自分自身を鍛えたほうがいい。

でもそうだな。使い魔って強そうだしな。


今日も霧の固定化を鍛え、二秒から三秒、約五秒ほど持った。


疲れがたまり、俺は小屋へ戻って寝た。



実験体のことは適当にあしらうか。

操作すれば気持ちいいらしいから、

脅威になる魔物とかの駆除を頼んだ。



————





二週間もの間、ご飯を買って帰って、

ラテスからちょっとミルクを絞り、霧の術を鍛えるという生活が続いた。


日々が過ぎるにつれて、ラテスの体は目に見えて回復していった。

骨が浮き出るほど痩せ細っていた体が、毎日大量の食料を平らげるごとに、少しずつ肉がつき始めた。


一番喜ぶべきは、やはりミルクの供給が良くなったこと。神もそれで喜んでいた。


「なあ、クライスが買った食料、

金はどうやって稼いだの?」


二週間後のある日、いつものように買い出しに出かける時に、ラテスは聞いてくる。


言うか迷ったんだけど、体がだいぶ良くなったから、俺も素直に答えた。


えっと、たまたま拾ったんだ、結構の大金を、

それを村に預けて、毎日食料だけ受け取ってんだ


「いつまで持つの?」


三ヶ月って言った。


「そうか。ごめんな、僕のせいで、クライスに迷惑をかけて」


脳が繋がってるから、ラテスが何を考えているのか、俺には手に取るようにわかる。


"出ていきたい、クライスの迷惑にはなりたくない"と思ってるようだ。


仕方ないから、俺はラテスそばに座って、頭を抱きしめた。


ーー


馬鹿が、感謝しても、謝るな、

俺が悪いことをしてるみたいだろう。

お前は俺の友達だ。

見捨てるわけないし、迷惑なんて思ってない。

安心して体を休め、体を治って、それで未来のことを考えればいいさ





真心を込めて放った一撃でも、やはりそれでもラテスの罪悪感みたいな感情は消えなかった。

というか、自己嫌悪になってる。


常に自分のことが悪いって考えてる。


俺がラテスの頭を抱きしめたまま、しばらく動かないでいると、ラテスの肩が小さく震えている。


「……ありがとう」


俺は抱きしめる腕を緩めて、顔を覗き込む。

目がまだ死んでる。


「クライス...僕は弱い、

クライスを守ることは、できない」


ーーー知ってる。

でも平気だ、これからは、俺がラテスのことを守るんだ。



ラテスが驚いたように目を見開く。


「え……

無理じゃないかな」


ラテスは俯いた。


「……だって、クライスは弱し、頭もそんなに良くない」


ひどい言われよう!


「……クライスに“守られる"のは、嫌だ」


俺は少し黙ってから、床に背中を預けて座る。


小屋の中は静かで、

外の森の音だけが微かに聞こえる。



ーーええ....


呆気に取られた俺は、ラテスの顔をじっと見る。



ラテスがどう思うが、俺はラテスを養うよ。

ダメ人間になっても、俺は構わないさ。



「クライス...」


ラテスは視線を落としたまま、

何か言おうとした、でも口にはできず、唇を噛んでいる。


体は徐々に治ってるけど、メンタルはまだまだのようだ。

そう思いながら、俺はラテスを抱き寄せた。

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