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10(ク)



転移された場所は、山の奥だった。


どこなのかもわからない場所、ダンジョンではないにしろ、

怖いに代わりはない。そもそも村にいた時も山など行ったことない。引きこもるばっかだな俺は。


水の流れる音が聞こえる。今度こそ飲める奴だろう。

斜面には低い木がまばらに生えていて、

ところどころ岩が露出している。


それを下って、やっと道が見えた。

足元の土は踏み固められていて、獣道か、人の通った跡か、判別がつかない。

けど歩けるから、それでいい。

風が吹くと、葉が擦れる音がする。


川が目の前、普通の川だ。


幅は広すぎず、狭すぎず、流れも急ではない。

水は澄んでいて、底の小石が見える。

飲めそうだが、恐らく腹が下る。

光が当たると、水面がきらきらと揺れる。


ぼうっと見つめる。

上流の方へ目を向け、何かが流れてくるのがわかった。

人だ。金髪の、少年。


緩い流れはその体を運び、徐々に近づいてくる。


「……あ」


声が勝手に漏れた。


ボロい布に包んだその細い体。

水に浸かっているその顔。


ラテスだ。

何でここにーーー


考える前に、体が動いていた。


ーーーー駄目だ


靴を脱ぐのも忘れて、川に入る。


ラテス!


肩を掴んで引き寄せる。

反応がない。

目も開かない。呼吸してない。


首に手を当てる。

——脈は、ない


ああああーーー

駄目だ駄目だ駄目だーーー!!!


クソ!クソ!


急いでラテスを岸にあげて、昔やってたCPRを試した。

やったことはあるが、成功したことはない。


涙を流しながら胸骨に手を当てて、圧をかける

ラテスの口から水が漏れた。

ラテスの首を横にして、心肺蘇生を始める。

意味がない。死んでるだから、五分が人間の生存限界。


もうラテスは死んでるかもしれない!!


何で、何で死んでるの?

何でいきなり死んでるの、ないだろう!!こんな!


どれくらいになるか、はっきりわからない。

俺はただコイツが生きてることだけを信じて、心肺蘇生を続いた。


生き返ることはなかったが。

涙が乾き、その行為を繰り返して繰り返して、

神の声が聞こえた


『哀れな子じゃ。

わしの力を使えば、その子は生き返らせる』


生き返、るのか?


そう聞いた。縋るように、俺はその言葉を信じた。


生き返らせるの?


『そうじゃ、だがわしはあくまで力を貸すだけ。

あの子は今もギリギリに死んでいない、君のおかげでね。

じゃがもう持たないさ』


どうやったら生き返えらせるの!?教えて!!


『奴に君の血を飲ませろ、わしの魔力を与えよう。


そしたら感覚でできるようになる。

わしも昔こうして腹上死した奴を助けたのじゃ

血で体を操り、脳を蘇らせる術でな』



そうか。それで助かるのか、

騙してないよな?



ハサミを取り出し、手首に当てる。


力を込めて、温かいものが滲む。

不思議に痛くない。


ラテスの冷え切った顔を抱き寄せ、

すぐにラテスの口を開ける。


——ああ、クソ、クソ!


俺は自分の頬を叩いた。

落ち着け。


俺は躊躇わず、手首を彼の口に当てる。

血が彼の口に入るが、中には入れない。

飲み込むという反射がない。


『それでいいんじゃ、血を使って上を目指せ、脳に侵入して、蘇らせろ』



わかった。



特に説明されてないが。

なんとなく、体が理解していた。

血がラテスの中で蠢いて、俺の指示を待っている。


——これが俺のちから?


『早うやれ!』


わかってるって!!


血は溶けて、鼻を通じて、脳の方へ上った。

そして始まったのは痙攣。

拒絶反応。


『よし入ったじゃのう?

じゃあ、脳細胞に自分の魔力を与えろ。

コイツは今呼吸できない状態だから、君の魔力を通じて、直接養分を与え』


そんなこともできるの?


『サキュバスの基礎スキルの応用じゃ!

想像しろ、血が彼の脳に入るイメージで!』


神の言葉に従って、血がさらに溶かされて、

物凄い数のナニカの中に入った。繋がる。


間違いなく繋がった。

そのままラテスの意識を読み取ろうとしたが、阻止された


『わかってないから警告するが、意識を読み取る即ちその人格を干渉すること、

つまり廃人になりかねないのじゃ。助けたいなら馬鹿なことはするでない』


悪い。

『さっきのアレ、今度は脳を意識しながらそれをやれ』


心肺蘇生のことか?



脳へ干渉したからかわからないが、

明確にラテスの血の流れを手に取るように分かる。


ラテスの脳の中にエネルギーが満ちていくのを感じる。

そっか、今までの心肺蘇生はそもそも血を脳に行ってないのか。


繋がって数分、心肺蘇生が効いたのか、

ラテスは"けほっけほっ"と水を吐き続き、遂に息をし始めた。

彼の体を支えながら、首に手を当てる。

脈が戻った。


まさかほんとに生き返えたとは....


けどそれでも重症を負ってる。

脳が外傷を負ってるし、さっきの心肺蘇生で骨も幾つか折れかかってる。


『血を与えて、その部分を埋めれば良いじゃろう

わしもそれで勇者様に何回か助かってもらったのじゃ』


とりあえず何処かに運んで休ませないとな


さっき下ったとき小屋みたいなのを見た、そこにいくか。


そう思って、ラテスを抱き上げようとするとき

ラテスは微かに目を開けた。


「けほっ」血を吐きながら。


『参ったのじゃ、動き出すと脳への供給が途切れる

それにひどい出血しておる』


おいおいウソだろう!?

せっかく助けたのに、まさか死ぬとか言わないだろうな!


おい、起きろよ!死ぬなよ、ラテス!


「あ"...死ぬ直前の夢だとしても、これは狡い」


声が聞こえた。弱々しい、だが紛れもない、ラテスの声だ。


ラテスは手を俺の顔に添えて、近寄りたがってる。

俺は泣きそうに震えて、自分から彼に近づいた。


俺の頬を抱いたまま、

ラテスは、ゆっくりと、俺の唇に、彼の唇が重ねてきた。

避けてもできたが、そんな気も起きなかった。


は、お前っ


涙を堪えて、好きにさせた。


「愛してるよ、クライス」


その一言に、ラテスは目を閉じた。


『なんじゃ?お主ら、恋仲じゃったか?

君の記憶ではただの友人だっていうのに、

大して重い感情じゃのう』


ハア...っるせえ


脳とのリンクを繋がったまま、エネルギーも脳に流れ込んでる。

このままだと動けない。

体温が下がってるラテスをこのままだと低体温症で死ぬ。

動いても出血してるから、損傷が増えて死ぬ


どうすれば...血か


『なんじゃ、考えついたのか

その通り...といいたいのじゃが、

失った血は戻れない、それにもし君が魔力切れが起きれば、

今度は君が死ぬ』


そうか。躊躇わずに手首を切って、ラテスの口にぶち込む。



『よいのか?君が死んだら、彼は悲しむぞ?』


どうでもいい。


『自己中じゃのう、こんなに告白されてるのに、

一人にさせるのかい?』


...魔力って奴、どうやって回復するんだ?


『ひっひひ、まあまあ、後で、彼が起きてから教えてやる

覚悟があるかって聞いてるだけじゃ』


サキュバス、魔力。

定番なら精液とか、そんなところ?


『正解、じゃが不愉快じゃ、

楽しみがないとつまらない


前の奴らのほうが揶揄いの甲斐があって面白かった』



そうかよ。



ラテスの血管を通して、出血する所を一箇所ずつ止める。

栄養不足もあってか、小さい傷口も治ってなかった。

よっぽど悪い生活をしてたのだろう。


お嬢様はどうしてコイツをほっといたんだ?



いや、今はもういいか。


「……っ」


ラテスを抱きかかえる。

重い。重いぞ!

息切れした俺は一度ラテスを地面に置いて、その場に座り込む。


いや、血が足りてないだけか...

休憩。しても意味はない。


抱えて進み、休んで進む。

ようやく小屋についた。


中は誰もいない。クモの巣が本棚に作ってあるし、

恐らく誰も使ってない。


ラテスをベッドに運んで、遂に俺は体力切れした。


はぁ...はぁ...あれ?

でも、神と出会ってから、ずっと腹が鳴ってない。


『そうりゃそうじゃ。

君はわしと半分同族になったんじゃ、

飯は無くても餓死はしない』


そうなのか?え、でも神ってーーー


『その代わり精液もしくは男性の体液は必須になる

さっきのキスで条件が満たしたので、しばらくは餓死しないで済むだろう』


俺、サキュバスになったのか?


『なってない。

半分と言ったのう、ご飯を食えばちゃんと栄養になるぞ?

つまり食生活に新たな選択肢を得たんじゃ』


そうか。少し疲れたから、ちょっと寝るわ。


服を脱いで、ラテスの隣りで横たわる。

体を触ると、ラテスの体温が、少しずつ戻ってきたのが分かる。


……ラテス


呼ぶと、

彼の眉が、ほんの少しだけ動いた。


ちゃんと生きてる。


俺はラテスを抱きしめたまま、

静かに目を瞑った。

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