そうきたか。
二日酔いで目を覚ました僕の、三階の部屋の窓をコンコンと叩くものがあった。
「すみませ~ん。開けてくださ~い。」
天使だった。
「どうもどうも遅くなっちゃって、最近混み合っててねえ、どうも。」
「あの・・・・。」
「山田さんでしょ。あ、これね!はい!」
天使は有無を言わせず僕に三十センチ角位のダンボールを渡した。
「確かに・・。山田ですけど・・。こ、これは・・なんですか。」
「えっ?何って何よ?天使の輪に決まってんじゃない。」
大丈夫。これは夢なんだ。昨日呑み過ぎたしなあ・・・。
四軒目は行かなきゃ良かったんだよなあ・・
「ちょっと!何ブツブツ言ってんの!早くハンコ!ハンコ頂戴よ。」
「ハンコ?」
「そうだよ。受け取りのハンコ!知ってんでしょ。あんたいくつで死んだの?全くもう。」
「あの僕は・・」
「いいから早く!」
そうそう、これは夢なんだ。何でもいいや、ハンコ押して早く帰ってもらおう。
天使は受け取りにハンコを押すと、
「まいどー。」
と、ご機嫌で帰っていった。
天使が帰った後もなかなか夢から覚めないので、僕は窓を閉めてダンボールを開けてみることにした。
するとそこには天使の言った通り、丸い蛍光灯のような天使の輪と「使用上の注意」という冊子が入っていた。僕は冊子を取り出してパラパラと捲ってみたがバカバカしくなってもう一度寝ることにした。
変な夢だ。後で夢占いでもしてみよう。
そして僕が布団に潜り込もうとした時、またコンコンと窓を叩く音がした。
「すんませーん。開けてくださ~い。」
また天使だ。仕方なく僕は窓を開けた。
「いやあ、すいませんねえ。私間違えちゃって。」
「はい?」
「お宅山田さんっていうからさあ。」
「それが何か?」
「違うんですよ、もう。四階の山田さんだったの!あなた三階の山田さんでしょう?」
「ええ、まあ・・・」
「どうりで輪郭が濃いと思いましたよ。あん、早速ですがねさっきの天使の輪返してもらっていいですかね。」
「あ、は、はい。じゃこれ。」
僕がダンボールを渡すと天使はそのまま窓を出て四階へ向かったようだった。
夢だよな・・。まあいいや、寝よう。
目が覚めると部屋は薄暗くなっていた。随分寝てしまったな。
その時ピンポーンとチャイムが鳴った。 まさかさっきの夢みたいにまた天使だなんていうんじゃないだろうな。 僕は一人クスリと笑って、そしてドアを開けた。
そこには一人の男が立っていた。
「あのお・・。四階の山田ですが…。」
「えっ?あ、どうも。」
「すいませんが、先ほど天使が忘れてった『使用上の注意』を返して頂けますかねえ。
使い方が良く分からなくて、まだ天国に行けないんですよ。」