第七話 決勝
実技試験会場に入場したアーリアは、試験監督に指示され広大なスタジアムの中央に立った。ざわざわとする観客席を見て大会かと思うほど緊張していたアーリアは、体をカチコチに固めていた。一方観客席では緊張し過ぎのアーリアを見て苦笑いするマヤたちであった。
相手が入場の時、アーリアは驚愕した。あの子だ。ヘレナと教会にいた夜、アーリア達を襲ったあの…
“快凛”…!!
これには観客席から見守っていたマヤも驚き言葉を失った。
「あ、あの時の子じゃん。やっほ〜。」
「快凛…!なんであなたが…!」
「なんでって…この学校に入りたいからだよ?」
それはそうだ。それ以外にどんな理由で来てると言うのか。アーリアは快凛をじっと見つめた。一方快凛はニヤリと笑い、準備運動をした。
「先に魔力がなくなり、戦うことが不可能になった方の負けとなる。しかし、過度に相手を攻撃してはならない。では。」
そうアリーシェル先生が言うと同時にスタートのホーンが鳴った。アーリアは少し反応が遅れてしまったが、マヤから貰った杖を握る。そして快凛は宝石を取り出し、掲げた。
「魔力よ、俺に従え。」
そう快凛が唱えると宝石が光だし、彼のナイフが魔力を授かった。魔力を取り込んだナイフは青く光り、彼の手に舞い降りた。
「さあ俺のナイフちゃんの血が騒ぐぜぇ。」
狂気の笑みを浮かべ構えるその姿は恐怖そのものだった。アーリアはとてつもない緊張を感じながらも魔法を唱えた。
「いでよパチェ…!汝の力を与えたまえ!」
パチェを召喚したアーリアは早速パチェへ号令を出した。
「パチェ!ドリームラベンダー!」
ドリームラベンダーはパチェの固有能力で相手に夢を見せることができる。しかし、あの快凛がその程度で屈するわけがない。快凛は相手の攻撃を跳ね返す技、「マシェードインパクト」を発動した。この魔法は闇属性の技で魔力を大量消費する代わりに相手の技を跳ね返すことができる。跳ね返された技を喰らったパチェはだんだん眠りに落ちてしまう。アーリアはこうなったら自分が戦おうと杖を振りかざした。
「レンテオール、零!!」
愛属性の固有魔法で自分も莫大なダメージを受けてしまうが相手にも莫大なダメージを与えられる、いわば最終手段だ。アーリアはこの段階でこの技を使ってしまったが今のアーリアにそんなに考える力はなかった。とにかく目の前の敵を倒すこと、それだけに集中してしまっていた。
「アーリアちゃん!!」
思わず叫んでしまうマヤ。しかし聞こえるはずもなく、アーリアはこのままでいけるのか…
数分の戦い、快凛とアーリアはお互いボロボロで魔力も尽きてきた。
みんなの思い、諦めない。
その言葉だけが脳裏に浮かんだ。アーリアは傷ついた体を痛めながらも立ち上がった。
「快凛、私が勝つから…!」
杖を突きつけ、アーリアは高らかに宣言した。それを見て快凛は面白いと呟き、鋭く青く光るナイフを突きつけた。ここから一騎打ち。アーリアは息を呑んだ。どちらが先に出るか、もし快凛が先に出ようものならどうするか、アーリアは思考を巡らせ考えた。
案の定、快凛が先に出た。人間には不可能のような速度と小柄な体格で即座に後ろに回り込む。アーリアは一瞬怯んだが、即座にしゃがんで避けた。まさに無意識だ。アーリアが避けた瞬間快凛の顔から笑顔は消え、舌打ちをしてアーリアにナイフを振りかざした。
アーリアは攻撃を受けた。アーリアは痛みに顔をしかめながらもふらふらと立ち上がった。
「嫌だ嫌だ...!!私は...!!負けない!!」
アーリアの執着に苛ついた快凛は魔力を最大限に込めた。その時、
「アーリア、ぼくが行くっきゅん!」
技を跳ね返され眠ってしまったパチェが目を覚ましたのだ。アーリアはパチェを杖の上に乗らせ、必殺技に力を込めた。
「魔法必殺、ベルグラーチェ!!」
杖から光線を放ち、それと同時に時間切れとなった。アリーシェル先生が前に出てきてアーリアの腕を掴んだ。
「勝者はアーリアさん。」
アーリアは目を輝かせ小さくガッツポーズをした。快凛はアーリアを睨んで意味深な笑みを浮かべ、いつの間にかいなくなっていた。
退場後、アーリアはマヤに勢いよく抱きしめられた。
「やったねやったよアーリアちゃん!おめでとう!!」
マヤとの勉強の成果が実ったと感じたアーリアは静かに涙を流した。
次回、第八話 召喚士[サモナー]として