第一話 グランダリア
風が吹く夜の屋上、一人の人物が立つ。艶やかな黒髪ショートに街を見下ろす赤い瞳。そしてこの世界は今、彼によって乗っ取られようとされていた。
アーリア・エイフェーノはとある国に住む平凡な学生。夜の散歩が日課だ。今夜も玄関を開け、一歩踏み出したその時、アーリアは気づいた。街が異様な闇に包まれていることを。怖くなったアーリアは急いで家へ入る。息を殺しながら小さくなって震える。しかし闇は迫り、ついにアーリアは闇に呑まれ奈落の底へ落ちる…何百メートルもありそうな深い深い闇の底へアーリアは放心状態で落ちるだけだった。
目を覚ますとそこは明るく、雲ひとつない快晴だった。すると突然優しい声が隣からした。
「お目覚め?」
そこには漫画で見るような魔法使いがしゃがみ込んでアーリアを見つめていた。
「ぎゃああ?!魔法使い?!」
アーリアは声を上げる。それを見た魔法使いはクスッと笑い、口を開いた。
「私マヤ。しがない魔法使いよ!」
しがない?この世界ではそんな程度レベルなのだろうか。呆然とするアーリアを見つめてはまたクスッと笑うマヤ。
「ここはグランダリア、魔法も、魔物も、なんでもできる最高の世界よ!」
手を広げて興奮気味に話す。それを聞いたアーリアは困惑の顔をした。
「は、はぁ…」
「なんです?!その顔…!」
苦笑いで話を進めるマヤ。簡単にいうとこうだ。ここは異世界、あの闇はこの世界の人間の仕業だということを知らされた。そしてマヤは顔を近づけて言った。
「てことで、あなた、この世界を冒険してみる気はない?」
よくわからないが絶賛厨二病発症中のアーリアからしたら最高に好奇心をくすぐられる展開だった。
「はぁ…やってみます。」
そんなこんなでマヤと探索していると後ろから足音がした。その人物はあ、と声を上げてマヤの肩を軽く突いた。
「あ〜!マヤ〜!久しぶり〜!」
そこには白髪で膝まであるような長いローポニーテールにローブを着た百八十は超えてるであろう身長の持ち主だった。
「キミはマヤのお友達?」
ニコニコで話しかけられるが人見知りのアーリアは、はいとしか答えられなかった。その人物はリザレテクと名乗りマヤからはリザと呼ばれているらしい。リザは商人らしく、回復薬も何から何まで取り扱っている何でも屋だった。アーリアはその回復薬を買ってみることにした。
その後、リザに街を連れまわされ、いろんな所を案内してくれた。その間マヤは置いてけぼりだったが…
そしてアーリアは近くの食堂でお昼をリザとマヤで食べることになった。異世界の食事はどんなものかとワクワクした様子のアーリア。現実世界にあるようなものもあるが、異世界にしかないようなものもあった。
料理が届き、食事を始めた途端、リザに電話がかかった。
「あ、ちょっと出てくるね〜」
そう言ってリザは食堂の外に行ってしまった。
「ただいま〜ちょっと仕事の電話でね〜」
そう言って戻ってきたリザ。いつものようにニコニコしているので深刻な電話ではなかったのだろう。食事が終わり、食堂を出る三人。別れの挨拶をし、リザは仕事へ、マヤは魔法学校へ勉強に行ってしまった。その間、アーリアはこのグランダリアという世界を旅してみることにし、空を見上げ一歩踏み出した。
次回、第二話 訳あり修道女