恋の覚悟、君となら。
観客席が揺れるほどの歓声の中、ステージに立つ二組のカップル。
左側——王立学園恋愛科の誇る黄金ペア、ジル=クローンとエレナ=ミストラル。
右側——恋愛偏差値最下位から這い上がってきた、誠実力ペア、日向廉とミラ=ルクレシア。
「まもなく、推しカップルグランプリ決勝戦を開始しまーす!」
司会を務めるのは、例の軽ノリ国王・カルロス三世。
貴族も平民も関係なく、国中が注目する恋の祭典は、今、最高潮を迎えていた。
「廉……緊張してる?」
「正直、死ぬほど。……でも、お前が隣にいるから、大丈夫だ」
ミラは微笑んだ。
かつては演技でしか人と向き合えなかった彼女が、今は本当の自分でステージに立っている。
開始の鐘が鳴る。
第一ラウンドは、「愛情度計測ステージ」
「ではまず、エレナ様、ジル様の『公開イチャイチャタイム』です♪」
ジルがエレナの手を取り、甘い言葉を次々と繰り出す。
完璧なタイミング、絶妙な距離感、観客の「尊いー!」コールが鳴り響く。
「これが恋愛戦術よ。学園恋愛科主席の名に恥じないわね……」
と、実況席のユフィが解説する。
が、ミラはそれに微かに眉をひそめた。
「ねえ、廉。あれって、本当に恋だと思う?」
「……正直、うまくできすぎてる。心じゃなく、戦術で動いてる感じがする」
「……そうよね」
彼らの愛情度スコアは、なんと【92】。
会場が沸いた。
「続いて〜、日向廉様&ミラ=ルクレシア様のターンです!」
二人が中央に立つ。観客の視線が集まる。
「廉、私に言葉はいらないわ」
「……ああ」
二人は何も言わず、ただ、手を取った。
ぎゅっと強く。
愛情度スキャンが発動——画面に数値が表示される。
【……97】
「!? 演技ゼロで、この数値……?」
「お、おおーっと!? これはまさかの大逆転数値です!」
会場がどよめく中、ミラが口を開く。
「私はかつて、恋を演技だと信じていた。でも、変わったの。彼に出会って——」
言葉は、静かだった。
けれど、震えるような熱を秘めていた。
「私はこの人を、本気で好きになったの。誰に笑われても、それだけは偽れない」
廉がミラを見つめ、続ける。
「恋愛偏差値が低くたって、演技が下手でもいい。俺は、心からこの人を大切にしたいって思った。それが、俺の答えだ」
観客席が静まり返る。
誰もが、言葉の真実に息を呑んでいた。
「最終ジャッジ——共感度ステージへ!」
観客による投票が始まる。
手元の魔導端末に「心が動かされた方」を入力する、というルールだ。
投票が締め切られ、結果が掲示板に浮かぶ。
【ジル&エレナ:38%】
【廉&ミラ:62%】
勝敗が決まった瞬間、歓声が爆発する。
「……勝ったの?」
「ああ。俺たちの恋が、本物だって、認められたんだ」
ミラは信じられないという表情のまま、涙をこぼした。
「……こんなにうれしいの、初めて」
廉が微笑んで、彼女の頭をそっと撫でた。
演技なんかじゃない、真実の温もりで。
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控え室に戻ると、そこにはカルロス三世の姿があった。
「いやあ、見事な恋だった! 王様、久しぶりにキュン死しそうだったよ〜!」
「……相変わらずうるさいですね」
「まあまあ。とにかく、君たちが、本物だってことは、国民が証明してくれた」
そして、彼は重々しく告げる。
「次は、ミラ嬢の政略結婚の無効化手続きだ。まだ戦いは終わっちゃいないよ?」
——そう。次は現実の障壁だ。
だが、廉とミラはもう迷わない。
恋はゲームじゃない。本物の想いは、誰にも否定できない。
その覚悟を胸に、二人は次の戦いへと進む。