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恋愛偏差値ゼロからの逆襲。

「……最下位?」


 


 学園中に貼り出された『恋愛偏差値ランキング』の紙を見て、俺は絶句した。


 一番下の行に、しっかりと記されている。


 


《第300位 日向廉 恋愛偏差値:9》


 


「9って……小数点じゃないよな……?」


「……健闘した方じゃないかしら? 恋愛偏差値ゼロから始まって、今は9。成長してるわよ、ちゃんと」


 


 横で声をかけてくるのはミラ。淡々とそう言う彼女の手には、いつもの紅茶缶。


「いや、それフォローになってないからな?」


「でも本当に、私との恋人契約がなかったら、偏差値マイナスもあり得たと思うわよ」


「それってつまり、俺はお前といるおかげでギリ人並み扱いってことじゃ……?」


「違うわ。人並みに届いてすらないということよ」


「傷口に塩を塗るのやめてくれない!?」


 


 周囲の生徒たちは、俺の偏差値9を見て笑っている。


「なんだよあいつ、転生者のくせに全然恋愛できてねぇじゃん」


「モブ女子に囲まれてたくせに、あれ全部スルーしてたからな……」


「誠実っていうより、空気読めないって感じ?」


 


 わかってる。俺はこの世界じゃ、完全に浮いてる。


 でも、それでも——


 


「……いいよ、別に。笑われても。俺は、俺のやり方で行くから」


 


 誰かに媚びて、好かれようなんて思わない。


 本気じゃない恋のフリなんてしたくない。


 誠実力は、俺の唯一のスキルで、誇れるものだ。

 それで恋愛偏差値が底辺だろうが、構わない。


 


「強くなったのね、廉」


 ふと、ミラが呟くように言った。


「最初は、恋愛なんてくだらないって、全部拒絶してたのに……今は、自分で歩いてる」


「……お前のおかげだよ」


 


 ミラの目が、少しだけ見開かれる。


「……え?」


「お前が、俺に誰かを、好きになる勇気を思い出させてくれた。俺にとっては、それだけで偏差値100超えてる」


 


 その言葉に反応して、空気が震える。


 周囲の生徒たちがザワつき始めた。


 


「なんだ……? 今の、本音ポイント反応じゃないか?」


「あの偏差値9のくせに、誠実力で場の空気変えやがった……」


 


 そう、俺の〈誠実力〉は、真心の言葉だけが人の心に響くスキル。派手な演出も、甘いセリフもいらない。ただ、本気で語れば——この世界に届く。


 


「……廉。来週、『恋愛偏差値決戦イベント』があるわ」


「知ってる。あなたの愛、本物ですか?ってやつだろ」


「それに……私たち出場が決まった」


「……は?」


 


 ミラがスマホ風の魔導端末を取り出して見せる。通知にはこう書かれていた。


《出場決定通知:日向廉&ミラ=ルクレシアペア》


《対戦相手:恋愛科トップペア「アレク&セレナ」》


 


「ちょ、待て! 相手、あの演技特化型カップルじゃん!」


「ええ。演技だけで愛情度を稼ぐ、茶番の王者よ」


「俺たち、偏差値9と演技派ヒロインの仮カップルだぞ!?」


 


 動揺する俺に、ミラは静かに笑った。


「仮じゃないわ。私たち、ちゃんと向き合ってる」


「……!」


「演技で稼ぐ恋なんて、もうたくさん。私は……あなただから信じてみたいと思ったのよ」


 


 それは、ミラのスキル〈恋愛演技〉を、超えた本心の言葉だった。


 


 静かに、その場の空気が変わる。


 恋愛偏差値じゃ測れない、真実の想いが——世界を動かし始めていた。


 


「よし……やってやろうじゃねぇか」


 俺は拳を握った。


「偏差値9だろうが、ランキング最下位だろうが……本気の気持ちが勝つって証明してやる!」


「ええ、一緒に」


 


 そして二人は、歩き出す。


 仮の関係を、本物に変えるために。


 ふざけたこの異世界で、真剣すぎる純愛を、世界にぶつけるために——


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