君の嘘が、本気に聞こえた。
王都の中央広場にあるカフェ「パルフェ・ロマンス」
名前からして、恋愛脳全開のこの店は、カップル以外の入店が禁止されている。
……が、今、俺はその真ん中のテーブルに座っている。目の前には、銀髪の美少女。
「ミラ、ここで話があるって……何なんだよ、改まって」
「……話というより、確認よ」
「え?」
ミラは静かに、俺の目を見て言った。
「廉。あなたは、恋愛を信じてる?」
「……は?」
唐突すぎて言葉を失う。だけど、その目は本気だった。
「私はね。恋愛なんて、全部虚構だと思ってるの」
「……」
「誰かの愛してる、も。大切だよ、も。大体が都合のいい演技。自分の価値を上げるためのツール。それが、この国での恋愛」
「……それ、どうして俺に言うんだ?」
「……あなたが、本気になりそうだからよ」
「……!」
心臓が跳ねた。
それは、喜びでも、ときめきでもなく——怒りだった。
「ふざけんなよ」
思わず、声が出た。
「全部演技? 嘘ばっかり? それが、この国の常識だってんなら……そんなもん、俺は認めねぇよ」
「廉……?」
「俺は……本気で誰かを好きになることを、くだらないなんて思いたくない。信じてた人に裏切られたって、傷ついたって、もう一度信じたいって思ってるんだ」
言葉にした瞬間、俺のスキル〈誠実力〉が脈動する。
店内の空気が静かになった。聞き耳を立てていた周囲のカップルたちでさえ、息をのんでいた。
ミラは目を見開いて、俺を見つめていた。
その表情は、今までで一番、素の彼女に近かった。
「……やっぱり、あなたって……」
言葉を詰まらせたミラが、カップの影に顔を隠す。
「そんな真っ直ぐに言われたら……私、どうすればいいのよ……」
小さく、震える声だった。
演技じゃない。本気で揺れてる声だった。
「ごめん、怒って。俺……ただ、お前が信じられないって言うのが、悔しかった」
「……いいの。怒ってくれて、嬉しかった」
ミラは顔を上げた。少しだけ、目が赤くなっていた。
「でもね廉、私はまだ、怖いの。好きって言われても、それがいつか嘘になるんじゃないかって。誰かを信じた先に、また裏切られるんじゃないかって……」
それは、かつての俺そのものだった。
俺も、裏切られた。だから、信じることが怖かった。
でも——
「俺は、逃げない」
「……え?」
「ミラ、お前が、信じる勇気を持てるまで、俺はここにいる。そばにいる。……だから、一緒に戦おうぜ。この、ふざけた演技の恋愛だらけの世界で、俺たちだけは本物でいよう」
その言葉が、彼女の中の何かを変えたのが、わかった。
ミラは俯き、小さく笑った。
「……本当に、バカみたいに真面目ね、あなた」
「昔からな」
「でも……そういうバカ、嫌いじゃないわよ」
そして、彼女はカップを持ち上げ、俺のグラスと軽く合わせた。
「乾杯、レン。本物の恋人ごっこに」
「……ああ、仮でも、全力でやってやる」
——けれど、その仮は、もう本物に限りなく近づいている気がした。
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その夜。学園掲示板に、新たな情報が掲載された。
《次回、恋愛偏差値公開ランキング更新&最終決戦イベント開催決定!》
《テーマ:「あなたの愛、本物ですか?」》
ミラがそれを見て呟いた。
「……愛の本物度なんて、点数で測れるものじゃないわ」
「でも……測られるなら、俺たちの愛を見せてやろうぜ」
二人は、すでに演技を超えた場所へと足を踏み入れ始めていた。