恋愛イベント、強制参加ですか!?
週末。恋愛至上国家が誇る伝統行事——
愛情度試験〈アフェクション・チャレンジ〉当日。
「ミラ、本当にこれ、出るのか……?」
「当然でしょ。ここで愛情度を稼げなければ、私たちの契約の意味がないもの」
王都の広場に設けられたステージ。観客は数千人。審査員は恋愛研究家、国王推しカプ評論家、そして国王本人。もう訳がわからない。
「我らが愛しきカップルたちよぉ〜! 本日のお題はっ!」
司会が奇声のような声で叫ぶ。
「『理想の恋人デートコース♡再現チャレンジ!』!」
「……デート、だと……?」
なんなんだこの世界。
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前半戦、参加者たちは好き勝手に恋愛芝居を始めていた。
「ふふん、はいア〜ン♪ 今日のランチは手作りハート型オムライスよぉ〜!」
「ダーリン、キミの瞳に映るボクが見たいッ!」
「チュッチュッ……(秒間キス7回)」
観客「うおおおおおおおおお!!!!」
「全ッ部嘘じゃねーか!!」
俺は叫んだが、横でミラが冷静に分析していた。
「……おそらく、愛情度の計算式には、演技パラメータが高く影響している。つまり——」
「真剣なほど、点数は取れないってことか」
「……ええ。でも、私はもう演技だけの恋は嫌」
「……!」
ミラのその一言に、俺の中で何かが変わった。
たぶん、あのときから気づいていた。
彼女の完璧な演技の中に、時折見え隠れする本当の孤独。
(だったら……俺がその演技を、本気に変える)
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出番直前、俺はミラに言った。
「なあミラ。今日、俺たちがやるのって、演技のデートじゃないよな」
「……ええ、本気の恋人ごっこよ」
「じゃあ……信じてみる。お前の手も、言葉も、全部」
ミラが目を見開いた。そして——
「……ありがとう」
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いざ、ステージへ。
テーマ:王都での休日デート再現
ミラが用意した小道具により、仮想のカフェ、街路、公園などが再現されていた。
観客の声はざわつく。
「なに? どこにも派手な演出がないぞ?」
「しかも地味……っていうか、なんか……リアルすぎ?」
だが、俺たちはただ普通にデートした。
「なあ、あの時の本読んだ?」
「読んだわ。泣いた。あれ、最後で抱きしめるシーンあったでしょ?」
「……あんな感じでさ、今日も演技じゃなく、そういうの……したいって思ってる」
「……バカね、廉」
最後、公園のベンチに腰かけて、ミラが俺に寄りかかってくる。
「今の私は、ちょっとずつだけど……あなたに演じてない自分を見せられてる気がするの」
「俺も……そう思ってる」
——その瞬間、空気が変わった。
「……ん? 今、愛情度ゲージ……跳ねたぞ?」
「まさかのナチュラル感が加点対象……だと?」
「……いや、違う。あれは——本物だ」
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結果発表。
愛情度スコア部門——第5位。
だが、特別賞として、最も感情を揺さぶられたカップルに選出された。
副賞:王都広報誌の表紙掲載。
「ええ!? 広報誌って、俺らの顔載るの!?」
「よかったじゃない。どんどん国民に見せつけていきましょう」
「演技じゃないんだよな、それ……?」
「……さあ、どうかしら?」
そう言って、ミラはふっと笑った。
その笑顔だけは、どこまでも——本物だった。