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3/9

偽りから始まる本気の予感。

 王立恋愛学園の朝は早い。


 というより、騒がしい。


「ヒュウガくん! 今日の愛情度ランキング、27位だったよ!」


「昨日、耳打ちしてたのが加点対象だって! やるぅ〜!」


「次は、抱きしめ演出を見せてくれたら100票入れるから!」


「やらん! やるかッ!」


 登校するたび、モブ生徒(主に女子)に囲まれる異世界生活にも、そろそろ慣れてきた。


 いや、慣れたくはない。だが、契約恋人の存在がそれを許さない。


「おはよう、ヒュウガくん」


「……おはよう。今日も演技頑張るか」


「そうね。ふふ、さっさと手を出しなさい。手を繋ぐの、当然でしょう?」


 そうして俺の右手を奪ってくるのは、ルクレシア公爵令嬢——ミラ=ルクレシア。


 今日も完璧な笑顔。どんな距離感でも演技でこなす、まさにAランク〈恋愛演技〉スキルの化け物だ。


 だが最近……俺はちょっと気づいてしまった。


(……この手の温度、なんかおかしくないか?)


 完璧な演技にしては、ミラの手は少しだけ震えていた。


 冷たいようで温かくて。


 不安のような、期待のような、微妙な鼓動が伝わってくる。


 


==== 


 


 その日、学園では特別アナウンスがあった。


『今週末、愛情度試験〈アフェクション・チャレンジ〉を実施します!』


『テーマは、理想の恋人演出! 全校カップル参加必須です!』


『高得点カップルには、王都主催パレード出場権を授与!』


「ふざけてんのか、この国はあああああッ!!」


 教室の隅で叫んだ俺を、皆が「またか」といった目で見ていた。いやマジで。


 だが、その後ろで、ミラは表情を変えずに一言。


「……出るわよ、当然でしょ?」


「は!? 出るの!? 俺ら契約カップルだよ!?」


「逆に、契約だからこそ出るのよ。政略結婚を避けるには実績が必要なの」


「うっ……」


「……それに」


 そこで、彼女は少しだけ声を落とした。


「……あなたとなら、少しは……楽しく演じられる気がしてるから」


「……ミラ?」


「なんでもない。ほら、練習するわよ、ヒュウガくん」


 


====


 


 その日から、俺とミラは恋人演技の特訓を始めた。


 とはいえ、普通に手を繋ぎ、目を見つめ合い——


「ちょ、ちょっと距離近すぎないか!? ミラ!?」


「うるさい。愛情度は物理的距離でも加点されるのよ」


「でも、おま、顔近っ、息あたってっ……!」


「耳が赤いわよ、ヒュウガくん。演技にしては反応が素直すぎるわね?」


「演技だって言ってるだろッ!?」


 ——なんなんだこれは。


 これは修行か。羞恥プレイか。いや、甘い地獄か。


 だけど、不思議だった。


 演技と言われれば、それまでのはずなのに。


 ミラと目を合わせるたび、何かがチクチクと胸を刺してくる。


 


====


 


 その夜、寮に戻った俺は、思い切って聞いてみることにした。


(……やっぱ、気になる)


 魔導通信の簡易チャットを開き、ミラへメッセージを送る。


──


【廉】:今日の練習、ありがとうな。

【廉】:ちょっと聞いてもいいか?


【ミラ】:何かしら。


【廉】:……あの演技、なんでそんなに真剣なんだ?


【廉】:お前、恋なんて信じてないんだろ?


 ——既読が、つかない。


 少しして、やっと返信が来た。


【ミラ】:……誰かに、信じられてみたかったのかもしれない。


【ミラ】:でも、それって滑稽よね。演技しか知らない私が、何言ってるのかしら。


【ミラ】:おやすみなさい、ヒュウガくん。


 


====


 


 試験前日。愛情度ランキングが更新された。


 第1位:演技型・茶番カップル(キス連打型)

 第2位:自撮り多投カップル(映え狙い)

 第3位:王族パフォーマンスカップル(政略色強め)


 ……第28位:ヒュウガ&ミラ(契約カップル)


「なにこの茶番世界……」


 俺は頭を抱えたが、その横でミラは目を伏せていた。


「……恋が全部演技だって思ってた。……でも、あなただけは——」


「ミラ?」


「……明日、私、ちゃんと演じるわ。本気でね」


「お前……」


 その言葉が、本気の演技なのか。

 それとも、演技に見せかけた本気なのか。


 ——もう、俺には分からなかった。


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