本気で恋した俺たちに、未来はあるか。
恋愛審問会から一夜明けた朝。
王都はまるで、別の国になったように静かだった。
浮かれていた民衆も、興奮のあまり徹夜したのか、今は夢の中だろう。
だが。
「ミラ様を、こちらにお渡し願おうか」
ルクレシア家の直属兵が、王宮前に現れたのは、そのわずか数時間後だった。
「無効になった政略結婚など関係ない。我が家は家訓に従い、彼女を帰国させる」
「……まだ、諦めてなかったのかよ」
廉は王宮の庭先で、その報告を受け、無意識に拳を握りしめる。
「廉、お願い。冷静に……」
「ミラ、ここで譲ったら、何も変わらない。あんたの意志を、また誰かに奪われるんだぞ?」
ミラは目を伏せた。
彼女の表情には、もう迷いはない。
「だったら、闘いましょう。今度は、言葉じゃなく——心で」
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午後、王都広場。
魔導塔により、王国全域同時中継が開始された。
題して、《恋愛至上国家 最終決戦》
その内容は——
「恋愛偏差値」ではなく、「愛情度∞」が生み出した本気の恋が未来を決めるのか?
ミラを取り戻そうとするルクレシア家。
それを阻止しようとする廉とミラ。
国王・カルロス三世が提案した“最終選択イベント”は——国民投票だった。
「この国の主権は恋にある。だからこそ、恋の未来は、国民の手に委ねようじゃないか!」
完全にノリと勢いで喋っているが、それを許す空気になっているのが、この国の凄いところだった。
廉は正直、胃が痛かった。
「なんだこの国……真面目にやって損した気分になるな……」
「でも、真面目にやったから、ここまで来られたのよ」
ミラの横顔は、静かに輝いていた。
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【投票スタート】
王国全土に広がる魔導パネルが、一斉に開票を始める。
《質問:ミラ=ルクレシアは、恋愛至上国家の自由な恋愛を象徴すべき存在か?》
YES → 廉との未来へ。
NO → ルクレシア家へ返還。
開始数分。最初はNOが上回った。
だが、徐々に流れが変わり始める。
「俺、あの告白、録画で見たけど……あんな目、演技じゃ無理だわ」
「政略より、自分で決めた恋を応援したいよね……」
「何より、あの二人の手のつなぎ方、ガチすぎる……」
市民の声が、次第に熱を帯びていく。
やがて、パネル上のゲージが大きく揺れ、【YES】が50%を超えた瞬間——
【新ステータス発動:共鳴愛情度】
魔導モニターが、またしても輝きを放ち、廉とミラの心拍がシンクロしていくように、光が彼らを包んだ。
「これが……俺たちの答えなんだな」
「うん。演技でもスキルでもない。心がひとつに重なった証よ」
そして、最終投票結果が告げられた。
【YES:74.2%】
勝利。いや、解放だった。
ミラはもう、誰にも縛られない。
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王宮にて。
カルロス三世は、スコーンを齧りながらニヤニヤしている。
「いや〜、想像以上だったよ、君たちの恋は! 面白い! 感動した!」
「お褒めに預かり光栄です……陛下、服の前開いてます」
「おっと、失敬。いやあ、恋って偉大だねぇ。国の法律よりも強いなんて!」
彼のノリで何もかも進んだ感は否めない。
だが、それでも——
「ありがとう、陛下。貴方のおかげで、僕たちは……自由になれた」
ミラが深く頭を下げる。
その夜、二人は王宮のバルコニーに立った。
星々が、まるで祝福するように輝いている。
「……まだ信じられないな。こんな世界でも、本気の恋が通じるなんて」
「私も。あの時、恋なんて全部虚構って思ってた」
「……今は?」
「今は、君だけは本物だって、胸を張って言える」
二人の視線が重なり、そっと手が伸びた。
もう、演技じゃない。
触れた手は、まるで心そのものだった。