表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

転生したら恋愛至上国家でした。

 目を覚ましたとき、俺は空を見上げていた。


 ……青い空、白い雲、草原の香り。そして、視界に表示された謎のウィンドウ。


 〈ステータス〉

 名前:ヒュウガ・レン

 年齢:17歳

 種族:人間(転生者)

 スキル:〈誠実力ピュアハート〉 Lv.1

 称号:異世界転生者/純情騎士見習い/恋愛偏差値:?


「……は?」


 俺は思わず声を漏らした。

 これは夢だろうか。いや、草の匂いも風の感触も、やけにリアルすぎる。


(落ち着け……思い出せ。最後に見たのは……)


 信号無視のトラック。跳ね飛ばされた感覚。血の気が引いた。つまり、俺は——


「死んで、異世界に転生した……ってことか?」


 まさか、自分が、なろう系の主人公になるとは思わなかった。しかも。


 〈ステータス画面を確認しますか? YES/NO〉


 無意識に「YES」を選んでしまうと、さらに詳細な項目が現れた。




〈恋愛ステータス〉

恋愛偏差値:E-(評価不能)

愛情受容度:低

恋愛スキル一覧:

誠実力ピュアハートLv.1:

真心から発せられた言葉だけが人の心を動かす。嘘をつくとスキル無効。

・ モテ力:0

・ 口説きテク:未習得

・ デート適性:評価D(訓練次第)




「……なんだこのゲームみたいな世界観は!」


 しかも、全項目が、恋愛に関するものばかりだ。レベル、魔法、武器……そういったファンタジー要素は一切なし。


(この世界、まさか……)


 そのとき、俺の前に現れたのは、豪華な装飾の制服を着た美青年だった。


「やあ、転生者さん! ようこそ、アルシェ王国へ!」


「お、お前誰だよ……」


「私は王立恋愛学園の入学案内係! 恋愛偏差値を測るためのスカウトを担当してるんだよね。キミ、すごいスキル持ってるよ?」


「いやいや、俺、恋愛とか興味ないから! てか恋愛偏差値って何だよ!」


「えっ? まさか、知らないの? この国はね——恋愛こそすべてなんだよ!」


 


====


 


 ──俺が召喚されたこの国、アルシェ王国は、恋愛ファースト主義によってすべてが動いていた。


 経済活動も、政治も、進学も、就職も、結婚はもちろん、なんと税率までもが「恋愛偏差値」によって決まるという。


(ふざけんな。なんで俺はこんな国に……!)


「恋愛スキルが低い人は、社会的信用も低くなるんだよ? 結構ヤバい立場だね、キミ」


「やめてくれ、俺にとって恋愛は……トラウマなんだ」


 ——そう、俺はもう二度と恋なんてしないと決めたんだ。


 転生前、俺には好きな子がいた。中学からずっと想い続けて、やっと付き合えた。でも、あっけなく裏切られた。


 信じていた分、傷は深かった。

 だからこそ、俺は決めていた。


「この世界でも、俺は……軽々しく人を好きになったりしない」


 


==== 


 


 ——しかし、そんな俺の意思とは裏腹に、なぜかこの世界の女子たちが寄ってくる。


「きゃーっ! あの人が転生者!? 本物よ、本物ぉぉっ!」


「誠実力って、伝説級のレアスキルじゃない!? しかも顔も普通にかっこいいんですけどー!」


 どこに行ってもモテまくり。意味がわからない。


 どうやらこのスキル〈誠実力〉、この世界ではかなり貴重らしい。


 曰く「嘘の言葉に溢れた恋愛社会の中で、唯一真心で語れるスキル」らしい。


(そんなの、当たり前の感情だろ……)


 でも、この世界では「嘘でも愛を語れる人」のほうが高評価らしい。スキル〈甘言巧語〉や〈モテ演技〉なんてものがSランク評価だったりする。


 おかしいだろ、この国……!


 


==== 


 


 そんなある日——


「そこのあなた。少し、いいかしら?」


 俺に話しかけてきたのは、一人の少女だった。


 長く、銀糸のように光る髪。ルビーのような瞳。高貴な雰囲気と、どこか冷たさを感じさせる完璧な美貌。


 少女の名は——ミラ=ルクレシア。


「私と、恋人のフリをしてくれない?」


「は?」


「演技で構わないわ。期間限定、契約恋人ということで」


 彼女は公爵家の令嬢で、政略結婚を避けるために、恋人の存在が必要らしい。


「報酬はあなたの望むものを。資金でも、身分でも、情報でも……」


「俺にそんなこと頼んで、メリットあるか?」


「あるわ。あなたの〈誠実力〉は、今この国で一番信頼されるスキルだから」


 なるほど……俺のスキルは、嘘がつけない代わりに、信じられるという効果を持っている。


(演技でいいなら、俺にもできるかもしれない)


 恋愛じゃない。ただの契約。嘘の恋人。


 それなら——


「……わかった。演技の恋人、引き受けよう」


「ありがとう。あなたなら、嘘の恋を演じる資格があると思った」


 


====


 


 そして俺は、ミラ=ルクレシアと契約恋人になった。


 だが——


 その夜、彼女が誰もいない部屋でひとり、静かに涙をこぼしていたのを見たとき。


(この子、本当は——)


 俺の心に、小さな違和感が芽生えた。


 嘘のはずだった契約のはずが。

 この国で一番本気じゃないはずの関係が。

 ——なぜか、心に刺さってくる。


 


 恋なんて、もうしない。そう決めたはずなのに。


 俺の再会は、演技から始まった。


 けれど、その涙が、誰よりも真実に見えてしまったのは——


 ……俺のスキルのせいだけじゃない気がする。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ