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第2話「初顔合わせ、その前に古橋鈴音について」

 皆さんは、古橋鈴音という探索者をご存知だろうか。

 レベル5の一員・古橋桜牙の実妹で、レベル4の探索者で、公式探索者順位ではまだ五位で、ダンジョン配信者で、SNSのフォロワー数は二億人を超えていて(咲良はその四倍くらいだ)、ポニーテールで、兄と同じような茶髪で、右耳だけに兄とお揃いのピアスを付けていて、咲良と同じ年齢で、私の親友・七瀬咲良の元ライバルで、私と同じような人間――しかも私よりたちが悪くて、常識に欠けていて、多分異常者で、『熱量操術』という固有魔術を持つ非常に優れた探索者――それが古橋鈴音という探索者であり、人物。


「そんな認識かよ、アイツ……まぁ、お前と似てるっていうのは否定しないが」


 出来ればそれは、桜牙さんに是非とも否定してもらいたかった部分である。


「オレから言わせりゃ、アイツは普通の人間だよ。少なくとも、レベル5の連中とは違う」


 桜牙さんは言った――レベル5の連中は基本的に、基本がおかしいんだと。


「非公式探索者を抹殺するのがオレ達の仕事だが、おかしくなきゃ人は殺せない」


 最もだった。しかし、無意識――というかいつの間にか人を殺してしまっていた私は、この場合『おかしい』のだろうか。訊いてみた。


「故意か偶然かなんて関係ない。例え殺意を持っていなかろうと、人を殺せば人殺し。人殺しはおかしい――おかしいから人を殺すんじゃなくて、人を殺したからおかしいんだ、という言い方をすべきだったな」


 その点で言えば、鈴音は確かにおかしいさ――桜牙さんは言った。


「アイツは時々オレ達レベル5の仕事を手伝ってくれるんだが、その理由が面白くてな……『人を殺したいから』だってさ。アイツは確かにイカれている」


 でもな、と桜牙さんは続ける。


「快楽のために人を殺す人間と、仕事のために人を殺す人間――どっちの方がウケるか、ってことなんだよ。結局のところはな」


 ……そんなもの、断然前者なんじゃ? と私は思った。

 しかし、桜牙さんはそう思っていないらしい。


「他人のために人の命を奪う人間は、良くも悪くも普通って感じだ。自分のために――快楽のために人を殺す人間だって、まぁ納得は出来る。でも、仕事のためだぞ? 自分のためでも他人のためでもない。他人のためにやった、とかならまだ自分に言い訳出来るし、自分のためなんだったら言い訳の必要もない。でも、仕事のために人を殺す――そこに自分の意思も、他人の意思も介入しない。自分含めた、誰のためでもない殺人なんて、おかしい以外の何物でもないだろ」


 そこら辺の価値観について、私と桜牙さんでは随分と違うようだ。しかしこの場合、ズレているのは両方だろう。

 仕事のための、殺人――正直言って、全く気乗りしない。

 鈴音さんは『人を殺したい』という理由でレベル5の仕事を手伝ったりしているようだけども、そんなの意味わかんないし、怖いし、おかしいよとしか思えない。


「……レベル5になったからと言って、絶対に仕事をしなければならない、って訳じゃないからな」


 そんな私の内心を見破ったのか、桜牙さんはそんなことを言った。


「そうなんですか?」


「殺人の強要とか、どんなブラック企業だよってなるだろ……それに、第一位に関しては人を殺したことがないからな」


 人を殺したことがない、レベル5――恐らくそれはとんでもないイレギュラーなのだろう。

 確か、公式の探索者順位第一位の名前は、『ヒイラギ』……なんだっけ。


「下の名前は公表されてないぞ」


「あぁ、そうでしたね」


 なんなら、苗字の漢字表記すらはっきりしていない。普通に考えれば『柊』なんだろうけども、『平義』とか『姫良姫』の可能性だって否定は出来ない。する必要がない。


「まぁ、なんでもいいんですけども……」


「アイツ、お前と同い年だから。だから、出来れば仲良くして欲しいんだが」


「え、同いどしなんですか? 私と第一位が?」


 恐らく、この世で最も強い人間である第一位が、私と同い年?

 冗談みたいな話だ。普通にマンガじゃん。


「冗談でもマンガでも小説でもない現実だが……いや、もしかしたらこの世界は漫画や小説の世界なのかもしれないな。オレ達が気付いていないだけで」


「もしくは、自分以外はみんな知ってるのに、自分だけはいつまでも知らないまま、みたいな……」


「そういうの、結構想像しちゃうよな」


「ですね」


 そう言えば知らず知らずのうちに桜牙さんと仲良くなった気がする。

 一週間ぐらい前に初めて話したのに。いきなりカーテン開けてきた人なのに。


「とりあえず今日、ほかのメンバーと顔合わせをするんでしたよね」


「あぁ。まぁ、そんなに硬くなる必要は無いぞ。アイツら、別に怖い人間じゃないから……」


 それなら鈴音や七瀬の方がよっぽど怖いぞ、と桜牙さん。どうしてそこで咲良の名前が出来るのか不思議でならなかったが、私はその不可思議を無視することにした。


「第一位は用事があって休んでるけど、それ以外のメンバーは全員居るからな。一応、しっかりと挨拶しておけ」


「はい、わかりました」


 第一位はいないらしい。用事っていうか、私と同い年なら多分高校生だろうし、今日は平日だから多分学校だろう。

 というわけで、初顔合わせ。緊張するはずもないが、やはりドキドキはしてしまう。

 知っているのは名前だけ。


 第一位・ヒイラギ。

 第二位・舞沢まいざわ凜音りんね

 第三位・古橋桜牙。

 第四位・舞沢まいざわ静凛しずり

 レベル5の面々――話によると、男は桜牙さん一人だけなんだとか。第一位も女の子なのか……。


 ちなみに、私はまだ探索者免許を持っていない。本来なら即刻死刑になるレベルの重罪を犯しながら一週間以上生き永らえたけども、そろそろ免許を取らなければ。

 最近のダンジョン庁は何もかもの判断をレベル5に委ねているらしいから、私は何とか今も生きている。今を生きている。私をレベル5にするという判断も、今のレベル5達が行ったんだとか。

 これらは全て桜牙さんの談であり、その情報が信用できるかどうかについては置いておく。


 そして第五位は古橋鈴音で、第六位が七瀬咲良――前までは、そうだった。

 今、咲良はいなくて……代わりに私がいる。代わりにはなれないけども。

 第五位・相浦夕夏。鈴音さんは第六位……。

 ……上位、女の子ばっかりだね。


「昔は男の方が多かったんだけどな。オレがレベル5に加入した当時は、男が四人と女が一人、ぐらいだったし」


「そんなじきがあったんですか」


「あったぞ。まぁ、凜音が加入してから俺以外の男は全員居なくなったけどな」


 凜音――第二位・舞沢凜音。

 男嫌いなのだろうか。桜牙さんの言い方だと、その凜音さんが男探索者達を追い出したみたいに聞こえるのだけども……。


「まさしくその通りだ。ただ、別に男が嫌いって訳じゃなくて……単に、自分に性的な目線を向けた男を追い出したんだよ」


 つまり、桜牙さんだけが凜音さんに性的な目を向けなかった、ということか。

 しかし、かなり厳しい気がする。男の子なら、女の子をえっちな目で見るのは当たり前のことだし、しょうがないことだと思うけども……。


「男の目線に立ってくれる女はモテるぜ」


「ありがとうございます。なら、女の子の目線にたってくれる男の子もモテるんじゃないでしょうか」


「オレのことか?」


「ちがいます」


「社交辞令には社交辞令で返すのが社交辞令だろうが」


「はぁ」


 桜牙さんにわざわざ社交辞令を返す必要はないだろう。


「失礼な奴だな」


「しつれいいたしました」


 ていうか、そんなことはどうでも良いのだ。

 話題転換に、私は気になっていたことを訊いてみた。


「静凛さんって、凜音さんのいもうとさんなんですか?」


「あぁ、そうだぞ。愛しの妹だ」


 第四位・舞沢静凛――姉妹でレベル5か。とんでもない。

 

「ちなみにだが、静凛もお前と同い年だぞ」


「……そうですか」


 第一位と第四位が同い年か。今の第五位も同い年だし、第六位だった咲良もそう……上位、高校二年生ばっかりだ。

 探索者の平均年齢は二十一ぐらいだった気がするんだけども……。

 あ、そういえば。


「そういえば、桜牙さんって何歳なんですか?」


「オレ? オレは二十一だぞ」


 何となくそんな気はしたが。

 私達が今歩いている場所は、東京にあるダンジョン庁の総合施設だ。探索者は基本的に各都道府県にある役所のダンジョン窓口で様々な手続きを行うらしいのだが、レベル5は別らしい。何かある度にわざわざ東京に来なければならない。

 ここまで桜牙さんの運転で来たし、桜牙さんは運転中にタバコを吸っていたので、二十歳以上であることはもう分かっていた。顔は高校生に見えるけども。探索者はどんな軽犯罪でもやった時点で重い処分なので、処分する側のレベル5とは言えど、未成年喫煙なんてする筈がない。


「未成年喫煙とか、飲酒ごときで死刑とはならないけどな。どんな処分を下すかの判断は基本的に処分を担当するレベル5メンバーに委ねられるんだよ」


 どんな重い罪を犯したとしても、担当が身内ならどうにかして無罪に出来るかもしれない、というわけか。思ったよりもガバガバというか、なんというか……。


「まぁ鈴音は相手の犯した罪がどんなに軽いものだったとしても、またどんなに同情の余地があったとしても、問答無用に躊躇いなく全員殺すけどな」


 ……この国で探索者の犯罪が減少したのは、恐らく鈴音さんのお陰だろう。

 一番恐ろしいのはレベル4だったか。


「オレは基本的に殺人以外の罪は見逃してるよ。酷い暴行や傷害とか、被害者が大きなダメージを負うような行為については例外だが」


 まぁ、そのくらいが丁度いいのだろう。


「一応ルールでは『犯罪を犯した探索者と、その一族を抹殺せよ』ってのがあるんだけどな……そんな決まり、鈴音以外は皆無視してるぞ」


 ……私は何となくの違和感を覚えた。

 私は訊いた。


「なんで鈴音さんはそんなに厳しいんですか? そんなの、人を殺したいから、って理由ではたりない気がしますけども……」


「……まぁ、個人的な事情もあるんだろうが」


「個人的なじじょう?」


「オレ達の両親は探索者によって殺されたんだよ」


 探索者の犯罪に対する、過剰なまでの処罰の理由――か。


「案外、人を殺したいから――というのもただの言いわけなんじゃ?」


「それは本音だろうよ。例えどれだけ同情出来る過去があろうとも、アイツの本質は悪だからな」


 同情出来る過去。なんだか、酷く他人事のようなセリフを吐く桜牙さんに、私は思わず黙ってしまった。言葉を失ったわけではないが、なんというか。


「……反社会性パーソナリティ障害」


 私が黙ったのを見てか、桜牙さんがふとそんなことを言った。


「……なんですかそれ?」


「反社会的で、攻撃的で、反抗的な行動――人の感情なんて考えない、暴力的で無責任。アイツの年齢だと、行為障害っつーのが正しい言い方なんだけどな」


 鈴音はそんな診断を受けた――と桜牙さんは言った。


「オレ達の家庭は普通だった。学校でも、イジメられていたなんてことはなかったらしいし……おかしいのはアイツだけだったんだよ。クラスメイトを何の理由もなくイジメたり、飼っていた猫に暴力を振るったり、万引きや空き巣、更には放火――薬物を売り捌いたりもしてたらしいけど、そこは知らない。嘘吐きだし、家出なんてしょっちゅうだった。かといって、仲間外れにされていたとかそういうわけでもないらしいが」


 ……桜牙さんは年齢について何も言わなかったけども、多分、それは鈴音さんが小学生ぐらいの時の話だろう。

 社会化型行為障害――十八未満の場合は、反社会性パーソナリティ障害とは区別されるもの。


「その攻撃性は、オレ達家族にも向けられた。それでも両親は鈴音を愛していたし、行動がアレなだけで、鈴音も両親のことが好きだったんだろうよ。だから、両親が居なくなった瞬間――アイツは突然普通になった」


 ……普通? なってないじゃん。

 とはいっても、私は鈴音さんのことを知らない。一度会っただけで、鈴音さんの異常性とは桜牙さんの話を通してでしか触れていないのだ。

 桜牙さんが鈴音さんに対し何らかの偏見を持っている、という可能性だってある。もしくは全部嘘なのかもしれない。


「反社会的な行動を取らなくなった。人を尊重し、動物を愛すことが出来るようになった――表面上はな。両親が死んだ、というのが鈴音にどんな影響を与えたのかは定かじゃない。オレは何も知らないし、知ろうとは思わないが」


 しかし、その代わりに――と桜牙は続けた。


「アイツは探索者を目指すようになったんだよ。自らの両親を殺した探索者が、何の処罰も受けなかった――という事実を知った途端な」


 恐らく、その当時のレベル5と、桜牙さん達の両親を殺した探索者は、繋がっていたのだろう……。

 そしてそれを知った鈴音さんは、探索者を目指した。

 ……人を殺すために。

 自らの両親を殺した、探索者達と同じ立場に上がるために。

 そして――


「ちなみにその頃、オレは既にレベル5の探索者だった」


 合法的に犯罪を行うために。

 鈴音さんのキャラが段々よく分かんなくなってきましたね。

 桜牙さんは本当に本当のことを言っているのかな?


 四谷入りだよ。

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