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 第七話『新たな目標が生まれた日』

「・・・」


――やっぱりそうだったんだ・・・。


心のどこかで、レヴェナントさんと『デイズペア』を重ねている自分がいた。5年も前に起こった出来事だからって、暗い洞窟の中で瞬く間に起こった事だからって――記憶は正直だ。私はその予想を無意識に蓋して隠していた。


「・・・私は5年前、師匠に『デイズペア』から助けてもらって・・・2年ちょっと鍛えてもらった時期がありました。『地雷(ランドマイン)』の基礎を叩き込まれて・・・『デイズペア』を超えるくらい強くなることが最初の目標でした」


「貴女の魔法は物理系ですよね。『デイズペア』には効きません」


「はい。だからですかね・・・師匠からは『デイズペア』の生態と、如何に戦いを回避するか、どうやったら上手く仲間をサポートしながら戦えるかについて徹底的に教わりました」


そこで悟った。私がいくら『デイズペア』を憎み、研鑽を積んでも――1人では絶対に倒せない。それに――


「私の命を危険に晒した『デイズペア』はもういません。復讐キャラは沢山いるらしい他の人に任せて、私は『世界の悪性(ウェルトマリグナント)』第6幹部のシーグリッド・トゥルースとして生きるって決めたんです」


――もういいやと思った。だって私は生きている。生きたお陰で・・・大切な人と、私を必要としてくれる居場所ができた。恋心だって芽生えたんだ。仮にまた『デイズペア』が私を襲うことになっても、師匠が助けに来るまでの時間稼ぎができるくらいには強くなった。


「図太く前向きに生きるのが私のモットーです。面接の時、それを言ったら笑われちゃいましたけど」


「貴女は本当に生粋の馬鹿ですね。疑うのが馬鹿らしくなってくる」


「馬鹿みたいに気弱なハース様に言わ・・・あ、わ、すいません今の無しで!」


――危ない危ない。ハース様と仲良くならないとレヴェナントさんに会いにくくなる。


私の中ではギリギリセーフだったが、ハース様にとってはがっつりアウトだったようで・・・。


「やはり燃やしますか・・・」


「すいませんでした」


即座に頭を下げると、青筋を浮かべた彼はわざとらしく溜息を吐いた。


「とにかく、それはそれ。これはこれですよ。師匠がその話をしなかったのは、きっと話す必要がないって分かってたからだと思うんです」


私は帰り支度を終え、荷物をまとめて立ち上がった。


「それに気味が悪いって・・・『悪魔の(デモニック・)起爆装置(デトネーター)』なんて二つ名つけられた私にそれを言いますか。私はロジオン様のことも、レヴェナントさんのことも気味悪がる程弱くないんで」


「それは私に対するマウントですか」


「だって師匠が、ハース様は自身が認めた人以外は名前で呼ばないって・・・ここで幹部としてやっていくからには、早いとこ『6番目呼び』から卒業したいんですよ」


不遜を承知で言い切ると、ハース様は虚を突かれたような表情を浮かべて目を逸らした。


――ハース様は人見知りで友達が少ない臆病者・・・うん。こうしてみるとハース様が何か可哀想な人に見えてきて憎らしさが軽減される!


「ビビるのはほどほどにしないと疲れますよ・・・『冷厳なる(ストリクト・)悪魔術師(ゾロアスター)』様?」


「6番目の分際で無礼な・・・上司をおちょくるとはいい度胸ですね」


「じゃっお先に失礼します!レヴェナントさんにもよろしくお伝えください!」


遠慮なく好き勝手言い、最後は逃げるように退社する。昨日の任務で運命の出会いを果たし、今日の任務では大きな収穫を得た。


――獣人・・・動物が人の特徴を併せ持って生まれた種族・・・。


『動物だけじゃなくて、この世界には鳥人とか魚人・・・竜人とかもいるよ。彼らは人の姿をしていても、元の習性や特徴はそのまま能力として有してるんだって』


私は師匠の言葉を思い出す。そして彼等にはもう1つ大きな共通点があった。


――獣化・・・動物化?普段は人の姿形をして生活しているけど、彼らには獣化という性質が備わっている・・・。


知り合った獣人達からも獣人について色んな事を教えてもらった。擬人化すれば四足歩行の動物が2足で立ち、私達と同じ言葉を喋る。獣化すると普段は抑えられている能力を最大限解放できるらしい。


――もしその性質がレヴェナントさんにも適応されれば・・・!


身体に稲妻が走り、視界が煌めく。私は今までにない発想に酔いしれていた。


師匠が言う『種族の違い』について・・・私は大丈夫だとしても、レヴェナントさんが同じ考えとは限らない。というか絶対に無いと思う。流石にね。


――でもでも!レヴェナントさんが擬人化すれば・・・私を恋愛対象として見てくれるんじゃない!?


私は今日、犬が人間になれることを知った。ならば――魔物が魔人になる可能性だってゼロじゃない。


「うへ・・・えへへへへ・・・」


ひとりでに笑みが漏れ、今日もぐっすり眠れた。そして3日目――


「仮にだけどさ、シーグリッドが魔物化してレヴェナント君にアプローチかける手はないの?」


「嫌だっ!可愛さで見積もったらぁー魔物化するより今ままの方がまだマシだと思うんです」


「清々しい押し付けっぷりだ・・・!」


――私は敵が来るまで師匠と雑談していた。今日はナンバー5であるリップマン様と、とある研究施設の警備を行う予定・・・だったんだけど。


「で、何で師匠がここに?任務はどうしたんです」


「最近のシーグリッドの方が色々と気になるから。それに今丁度暇してそうだったから来ちゃった」


――確かに待機中だから手持ち無沙汰ではあるけど・・・。


「なら最後までいてくれると助かります」


数日前、この施設で研究に没頭している(マッド)科学者(サイエンティスト)が自身の研究に役立てる為、再生魔法の使い手である幼女を誘拐したらしい。もうその内容だけで回れ右して帰りたい。


当然幼女側についた冒険者パーティーが出没し、奪還作戦を立ててこの施設に乗り込んでくるそう。(マッド)科学者(サイエンティスト)と懇ろな関係である私達(世界の悪性)は急遽敵を迎え撃つ刺客として派遣されることになった。


――今回の任務は『研究施設の保護と侵入者の撃退と(マッド)科学者(サイエンティスト)の守護』・・・敵が何人で来るかも分からないのに、私とリップマン様だけで大丈夫なのかな・・・。


一抹の不安を抱いていたところに師匠が現れた。来てくれたからには是非とも数合わせでいてもらいたい。


「既に地雷は沢山仕掛けたんでしょ?私の出る幕無くない?侵入者は4人だけなんだから」


何で知ってるんだこの人。


「えっまさかもう来てます?」


「うん。今はリップマン君が2人相手にしてる。もう2人は別ルートから女の子を探しているね」


相変わらずの全知さに言葉が出なかった。しかし逆にそれが知れて安心したまである。


私と師匠がいる場所はこの施設の最深部である『生体実験室』の出入り口。この部屋の先に(マッド)科学者(サイエンティスト)と幼女がいる。


「シーグリッドが敵を1人でも通したら実質ゲームオーバーだね。頑張って」


「ああぁ不安すぎる・・・!早く地雷にかかって私が来る前に負傷もしくは全滅してくれないかなぁ!」


私は今、最も重責なポジションを任されていた。というかリップマン様が勝手にどっか行っちゃって、やむを得ずここで待機してるしかなかった。


「リップマン君は一応、自分1人で侵入者全員を排除する気でいると思うよ。シーグリッドが配置した地雷の位置もちゃんと把握しつつ戦っているみたい」


師匠は本当に謎で凄い。一体どうやって・・・何の魔法でリップマン様の状況を把握してるんだろう。


――まあそれを聞いても「へー凄いですね」以外の返答が出ないから聞いてないだけだけど。

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