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 第六話『知見が広がった日』

――そうですよね師匠。私は・・・この世界にいてもいいんですよね?


「・・・うん。シーグリッドがいてくれて良かった。お陰で楽・・・平和的に終われそう」


「今楽って言いました?私の魔力ばかり消費させといて」


「午後からはちゃんと難しい任務やってもらうから」


「相変わらずスパルタだ!」


肩をすくめるも、何だか昔の修業時代に戻った気がして――気持ちが楽になっていくのを感じた。被虐趣味なんて持ってないのに。


「師匠は・・・ちゃんと『無差別な(ウォールローザー・)(トッド)』の範囲外にいてくださいよ」


例え悪側に回ったっていい。私は私を殺さないまま――誰かに必要とされる場所で生きていたい。


「分かってるよ。心配してくれてありがとう。じゃあ次は――」


「――人族のお2人。こんなところで一体何を?」


振り向くと、犬耳と尻尾を生やした老婆が目を丸くしていた。私は咄嗟に思っていたことを口にする。


「師匠!このお婆ちゃん犬耳つけてます!可愛い!私もあのアクセサリー欲しいです!」


「あらぁ」


「シーグリッド。あれはアクセサリーじゃない。彼女はれっきとした獣人だよ。種族は多分シェルティーかな?間違ってたらごめんなさい」


「いえいえ・・・旅のお方。獣人族を見るのは初めてですか?」


「はい。間違えちゃってごめんなさい」


――犬が人・・・獣人!?そんな種族がいたなんて!


「だって教えたら観光しようとか言いそうだったし。今日の予定結構キツキツなんだよね」


どうして教えてくれなかったんだとか、任務先の近くに獣人の街があるなんて聞いてないとか・・・色々文句を言う前に釘を刺された。どうして!


「師匠はあの人の頭撫でたりモフモフの尻尾触ったりしたくないんですか!」


「仮にその行為をハース君がやってきたらどう?」


「絶許罪で爆殺します」


師匠は真顔で即答した私を見て溜息を吐き、獣人に向かって軽く頭を下げた。


「ウチの弟子が失礼。実は私達、とある薬草を探していまして・・・」


――ん?わざわざ嘘までついてお婆ちゃんと話した・・・?


師匠と行動を共にすると、頻繁に現状から置いてかれる現象が起こる。こういう時は全て終わってからゆっくり説明を求めるのが常だった。


「この時期はあまり見かけないわねぇ。群生地はあるにはあるけど・・・こっちよ」


そんなことは全く知らない犬のお婆ちゃんは笑顔で薬草の場所まで案内してくれた。円満に別れ、人の気配がなくなってから師匠に食って掛かる。


「あの、私達の任務って『屠殺集(スローター)』ってギャングのアジトを見つけて、機密情報を盗・・・入手することですよね?」


「うん。最近私達のとこ(世界の悪性)並に名を利かせてるから、早い内に手中に収めて手懐けたいって話だね」


「それなのにこんな街の外れで地雷仕掛けて、お婆ちゃんにどうでもいい薬草の場所聞くって・・・一体何してんですか?」


普通ならアジトに潜入し、私の魔法で支配すればいい。アジトの特定まで私達の仕事だが・・・全能の師匠がいればそれも朝飯前だと思っていた。


「私は無駄なことはしない主義なんだ。それに平和主義でもある」


「弟子に数百個の地雷設置させといてどの口が・・・」


「ここからは二手に分かれよう。シーグリッドは『屠殺集(スローター)』のアジトに潜入して、このメモに書いてある品を持って帰ってきて」


師匠は傘を閉じ、いつ用意したか分からないお使いリストを私に手渡した。


「え?私が派手に暴れ回っている間に師匠が回収した方がいいんじゃないですか?


「そっちの役は私が引き受けるよ。弟子に汚い有様を見せたくないっていう――師の甘えを許して?」


この人はいつもそうだ。いつだって全てを見透かしてて、それを私には見せないで――ずっと優しくて甘いまま。


私はこみ上げてくる感情を決意に変え、了解ですと頷いた。


●~*


私は本部に帰還し、日が落ちた後も報告書の作成を続けていた。概要はこんな感じ。


今回の任務は獣人ギャング集団『屠殺集(スローター)』の機密情報を入手すること。偶然にも任務開始日、『屠殺集(スローター)』は敵対組織『闘犬集(ハング)』と大規模な抗争を始めた。


総合力から見て、普通に戦えば『闘犬集(ハング)』は『屠殺集(スローター)』の敵じゃない。だが『屠殺集(スローター)』には大きな弱点があった。『屠殺集(スローター)』の頭領には血の繋がりがない育ての親――いわゆる恩人がいたこと。『闘犬集(ハング)』は事前にその情報を掴み、恩人――老いたシェルティーの獣人を人・・・犬質に取り、この抗争を制そうとした。


――この流れの通りに事が起こると『屠殺集(スローター)』の壊滅は免れない。それはこちらとしても困る。


師匠は全ての状況を読んだ・・・というか知った上で犬質になったお婆ちゃんを助け、私の地雷は敵側の牽制と警ら隊からの逃亡補助に使われた。


私は抗争のこの字も知らなかったので、アジトに潜入したとき中は無人の状態でとても驚いた。


――出払ってるならそう言ってくれてもよかったのに・・・でも事前に知ってたら超油断してたかも。


結果師匠は『屠殺集(スローター)』に多大な恩を施し、私が持って帰って来た機密文書やらお宝やらを材料に交渉した。その間私は構成員の獣人達とひたすら地雷で遊んだ。


――地雷当てゲームとか、背後から地雷を起爆させてヒーローごっことか・・・頑丈な獣人でないとできないことばかりやったな・・・。


「――まだ残っていたんですか。って6番目!幹部部屋を獣臭で汚染しないでください!」


思わずそのことを思い出して笑みを零すと・・・幹部部屋にハース君が入って来た。それも悪態がセットで。


「え?ハース君って獣も召喚するって聞いたんですけど」


「それにしても酷い格好ですね。これなら報告書を明日に回して風呂に入ってくれた方が上司としても助かります」


「う・・・でもあとちょっとで終わるんです!」


確かに最後の戯れが余計だったかもしれない。私も楽しさが勝ってしまい、獣人の皆と同じノリではしゃいでしまった。


任務が終わってしまえば獣人同士の諍いなどどうでもいい。それでも――新しい種族との交流は良い経験になった。機会を与えてくれた師匠に感謝だ。


「ふん。あの猟犬共を外傷無しで手懐けるとは流石ですね」


「・・・どうも」


ハース君は書き上げたばかりの報告書を読み、賞賛する気が感じられない口調で私を煽った。


――そうだレヴェナントさんにお礼・・・!あっでも今の私汚い!


チャンス到来に歓喜したと同時に今の状態を見て絶望する。こんなことになるなら面倒でも直帰すればよかった!


「ハース様、昨日はすみませんでした」


「もう謝罪は結構です。早く帰りなさい」


「了解しました。レヴェナントさんにもお礼を言いたいので、また召喚する時があったら教えてください」


「・・・!貴女は・・・」


ハース様は息を呑み、怜悧な瞳を丸くした。思わず小首をかしげると――彼は綺麗な顔を歪めた。


「・・・気味が悪いとは思わないんですか。得体の知れない化け物を召喚する・・・ロジオン・ハースという魔導士を。それに聞きましたよ。6番目は過去に『デイズペア』という魔物に襲われたと」


「・・・え」


――そのことを知っているのは師匠だけ・・・。どうしてこの人に話したんだろう。


その理由は冷笑に乗せて明かされた。


「『デイズペア』は別の国では『デイザスター』とも呼ばれます。レヴェナントは――6番目が殺されかけた魔物と同じ分類に属しているんですよ」

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