第四話『ドカンボカンされちゃった日』
「貴女が幹部に繰り上がったのはある意味私が原因でもありますからね・・・師匠であるソニア嬢に理由を問い、あっさり元幹部2名の命を奪った私を批判していたんでしょう!」
「いや」
「『召喚術士は本体が弱いから、実はロジオン・ハースが幹部の中で一番弱いんじゃね?』だとか『あくまで強いのは召喚する魔物や竜であって、ロジオン・ハース自体は糞』だとか言って私を愚弄していたんでしょう!」
「違っ」
「どいつもこいつも・・・元6番目と7番目もそうでした。ご存知でしょうが、実力主義である世界の悪性で出世する条件は『実地で功績をあげること。または自分より上の人間を倒すこと』と大変シンプルです。自分達より上の幹部の中でしたら、私が一番屈服しやすそうだと踏んだんでしょう」
「へ、へぇー」
「今『確かに2人がかりなら倒せそう』とか『本体が弱いからってレヴェナントに殺させなくてもよかったのに』とか思ったでしょう」
「えっ」
――全然思ってないが!?
「師匠にして弟子ありと言いますしね。これは元から人に備わっている防衛本能と言うものです。決してビビっていた訳ではありません」
よくよく見ると、ハース様は右手に魔法のステッキを持った状態で腕を組んでいた。椅子の座り方も私より浅く、彼から漂うとげとげしい不機嫌なオーラは――まるで常に『何か』を警戒しているようにも思えた。
「芽は早い内に摘むのが吉。ですかね・・・貴女がここにいるのはソニア嬢の独断で決まった事です。殉職しても責任は彼女に向く」
ハース様は頭上に魔方陣を展開し巨大な火の玉を召喚する。そこでようやく命の危機が迫っていることに気づき、慌てて口を開いた。
「まっ、待ってください!なんだかんだで任務完了したじゃないですか!ちゃんと貢献しましたよ私!」
「ええ。ですから言ったじゃないですか。『死ぬのは任務を終えてからにしてください』と――『愚者火』」
――まさか本当に?どうして?
この日が命日になるなんて思わなかった。こんな独善的でビビりで疑心満載の人に――『いつか自分の命を狙ってきそう!怖い!殺そう!』っていうしょーもない理由で処されるなんて・・・。
怒りのボルテージが上がり、この城を倒壊させる勢いの地雷を起爆させようとしたその時――またしてもレヴェナントさんが動いた。
『――ジュッ!』
爪のようなものから出た熱線で『愚者火』を鎮火し、主人であるハズのハース様を拳骨で殴った。
「痛っ!何するんですかレヴェナント!主に盾突くなんて・・・」
『いい加減にしろ!この子がロジオンに悪意を持って襲い掛かった事があったか?』
――えーーー。レヴェナントさん喋れるんだ・・・。口どこ?
『こんなうら若き部下を殺そうとするなんて何事だ!早とちりも大概にしろ!』
「え・・・」
うわ若きとは、若くて可憐な女性に対して使う言葉である。つまり私は今――レヴェナントさんに口説かれてしまった。
――可愛いって言われた!?可愛いくて愛らしいって・・・。
思わず下を向き、赤くなった顔を隠す。するとその仕草を見たレヴェナントさんに頭を撫でられてしまった。
「・・・!!」
『ウチのロジオンがすまないな。臆病が故に力で解決してしまいがちなんだ』
「私は臆病ではありません!」
『ムキになって図星を否定するな――っと危ない!』
感情が高ぶった勢いで近くに設置した『クレイオスの切諫』を誤爆させてしまった。同時に小型爆弾が私達を襲いかかるが――
「・・・っ!」
――レヴェナントさんは私とハース様を床に押し倒し、爆発の衝撃から守ってくれた。
「ほら見たでしょう!6番目も殺る気満載じゃないですか」
『先に仕掛けたのはロジオンの方だろう・・・シーグリッド嬢、怪我はないか?』
――近い!近っ顔?近い!ななめ・・・名前!?っ呼ばれたあああれよく聞いたらレヴェナントさん声も良い声して・・・。
自分でも分かるくらい頬が紅潮し、ドクドクと心臓が脈打つ。私が私では無くなる感覚に――理性が限界を訴えた。
『ドドドドドォン!!ドォーーン!』
――あ、ヤバ・・・。
「す、すみません。うっかり全部の地雷を『起爆』させちゃいました・・・」
「はぁ!?」
『なんだって!?』
私の魔法――『地雷』は、一定の負荷が加わると爆発する仕組みだ。ただ今までお見せした通り――私自身が起爆装置となって、設置済の地雷全てを爆発させることも可能である。
『地雷』の設置条件は『自分が触れたとみなす場所または空間』。私が踏んだ土地、触れた壁、頑張れば空中にだって仕掛けられる。そのことを知った上層部は私に『悪魔の起爆装置』という二つ名をつけた。ちなみに気に入ってない。あんま可愛くないから。
話を戻そう。私達がいる場所は2階で、子供部屋があったのは3階だった。つまり――1階から3階のエリアで私が歩いた場所には地雷が埋まっている。
私達は倒壊する古城からの脱出を余儀なくされた。
「やっぱり未熟者じゃないですか!私の謝罪を返してください!」
「いつ謝りました!?ハース様が招いたことでしょ!自分のビビりを棚に上げないでください」
「だから私は臆病者ではありません!そう言う割に6番目だって勝手に人のことを決めつけて――」
『ああもううるさいな!もっと静かに協力できないのか!仲間だろう』
「こんな暴れ馬が仲間?冗談でしょう」
「こんな胆力が弱っちい上司を支えるなんてまっぴらごめんです!」
レヴェナントさんの仲裁を意に介さず、私達はお互いを睨み合った。
「流石『悪魔の起爆装置』・・・人の地雷を踏み抜くのがお上手ですね――『愚者火』!」
「わーーっ!?更に悪化させてどうすんですか!ほらハース様の所為で絨毯まで燃えてる!」
『何してんだ馬鹿っ!2人共、しっかり捕まっていろ・・・っ!』
レヴェナントさんは私を前に抱え、ハース様を後ろに背負った状態で空を飛んだ。
レヴェナントさんは目から多様な液体を出し、爪は鋭く伸縮自在で、目が沢山あるクセに鼻と口らしきものはどこにもない。なのに無駄に良い声で意思疎通ができる。あと全体的に黒く蠢いていて大きい。
今は黒い翼を出して空を飛び、このまま本部まで送ってくれるそうだ。
――これは・・・おおおお姫様抱っこってやつ!?おとぎ話で王子様がお姫様にするあの!?
内心の興奮を抑え、必死で別の台詞を考える。
「空も、飛べるんですね・・・」
『あぁ。酔ったらすぐ行ってくれ。安全飛行をお約束しよう』
――謎過ぎる。けど・・・。
「かっこいい・・・」
ハッとなって口を抑えた。恐る恐る顔を上げると――嬉しそうな声が返ってきた。
「ふん、少しは見る目があるようですね。レヴェナントは私が召喚する魔物の中で多彩な魔力を持ち、物理魔法が効かないのが特徴です。一部の国では『デイザスター』という名で恐れられており――」
――何でハース様が喜ぶ・・・まぁそっか。召喚術士なら魔物好きに決まってるよね。
『おいおい。私の前で自慢話をするのは止してくれ。シーグリッド嬢が引いてるだろう』
――えっ照れてる?不器用に照れてくれてる!?私の言葉で!?
ここで私の記憶はプツリと途切れた。ハース様に罵倒され、ハース様の所為で初任務で死にかけ、火だるまにされかけ――最後はハース様の所為で瓦礫の下に埋もれるところだったのだ。自覚がなかっただけで、色々限界だったのかもしれない。
――あったかい・・・。
気絶している間――私は陽だまりの中、年上で上背がありがっしりした体格で爽やかにはにかむ男性と手を繋いで歩く夢を見た。
ロジオン・ハース(18歳)
魔法・・・召喚術
・自身が契約した魔物、巨人、竜、獣、精霊等を魔方陣から召喚することができる。
・魔方陣を書く時間を短縮するため、投射機能付きのステッキ(スイッチを押すと任意の場所に頭で思い浮かべた魔方陣を投射できる)を用いることが多い。
・一度に召喚できる数は種族によって消費魔力に差があるため異なる。基本多くて3・4体(四話当時)
・レヴェナントは久々に地面に書いて召喚した。召喚頻度高め。
・中・遠距離の短期戦が得意。