最終話『擬人化したから告白・・・?』
食堂に入ると、異様な空気が漂っていた。内心首をかしげならが進むと――
『お前はまたキノコ類を残して・・・ほら、イシタケも除けずにちゃんと食べろ』
「結構です。臭いので・・・必要な栄養分は他の食材で摂取します」
――ハース様が知らない褐色女性と仲良く朝食を食べていた。
「ウッ・・・」
「シーグリッド!?」
ふらつく体を、何故か戦闘態勢に入った師匠によって支えられる。私は――おぞましい現実から逃避していたのかもしれない。
――あーそっかそっかそっか。レヴェナントさんは擬人化して女に・・・。
『シーグリッド嬢!真っ青だ・・・まだ体調が優れていないんじゃないか?』
こちらに気づいたレヴェナントさんが駆け寄り、師匠に変わって私を支える。女性なのに私より筋肉ついてんの何?
そのまま姫抱っこで救護室に運ばれ、私は追いついていない頭のまま彼――ではなく彼女と2人きりになってしまった。
――しかも私はベットに寝かされてて・・・ああぁぁぁぁぁ!
『ソニア嬢から聞いた。シーグリッド嬢は5つ離れた姉に苦手意識を抱いているから、同じ年代の女性を受け入れるのに抵抗があると』
全然そんなことないけど師匠ナイス。
『俺がこの姿になったのはロジオンが原因だが・・・どうかアイツを責めないでやってほしい。召喚時の姿が元の形態に戻るまで、シーグリッド嬢の前に姿を見せないようにするから・・・』
レヴェナントさんは師匠の魔法によって基本の形態が人型に固定されてしまっている。私の為に、簡単に解けない設定にしたとかなんとかで・・・要するに、私の所為でレヴェナントさんは当分この姿のままだ。
――私にとって女のレヴェナントさんは地雷で、声も顔も体も違って・・・全く愛せない。受け入れられない見た目になっていて・・・。
生理的に無理で嫌悪感が募る。筈なのに・・・。
「すきです」
『え?』
こちらを労わるような眼差しは正真正銘――私が恋をしたレヴェナントさんだった。
「好きなんです・・・強くて優しくて、美味しいお茶を入れてくれる貴方が大好きです・・・。でも私は男の人が好きで、女性は対象外なんですよ!」
――だって魔物も女性も、私とエッチできないじゃんーーー!
という一番の本音は流石に呑み込んだ。
『そうか・・・つまり、シーグリッド嬢は魔界で見た時の俺が好みだったのか?』
「一番好きです・・・魔物のレヴェナントさんは2番目です・・・3番目以降は存在しません」
目頭がツンと熱を持ち、唇をかみしめてえずく。こんなみっともない告白をしてしまったという後悔の念で更に涙が溢れた。
「ハース様と師匠の馬鹿ぁぁぁ・・・私の王子様を返してよぉぉ・・・」
『い、一応この姿でも多少力に自信はあるが・・・この姿じゃ駄目か?』
腕をムンってやって立派な力こぶをつくるレヴェナントさんは可愛かった。
――告白は擬人化してからすると決めていた。けど・・・。
「駄目じゃないですけどぉ・・・中身はレヴェナントさんのままですし。でも男がよかったぁぁぁ・・・」
そっとあやすように抱きしめられ、輪郭がぼやける。私は男体では味わうことのない柔らかさと温もりに安心感を覚えてしまった。
『弱ったな・・・ソニア嬢が取り乱すのは最初だけで、じき慣れると言っていたぞ』
「師匠めぇぇ・・・。レヴェナントさんの内面にこ、恋しちゃったんです。男の人が好きな部分も、レヴェナントさんから離れられないって気持ちも譲れません・・・」
断られるのが怖くて必死に好きですアピールをする。どんな姿でも、彼のことが心から好きであることに変わりはなかった。
――重いかな。拒絶されたらどうしよう。好きなのに。こんなに大好きなのに・・・。
惨めな私に愛想を尽かしたのか、レヴェナントさんは深いため息を吐いた。
『シーグリッド嬢の独りよがりな気持ちは分かった。俺を好きだという割には、俺の気持ちは全く考えていなかったんだな』
「・・・ぁ」
『・・・冗談だ。そんな死にそうな顔しないでくれ』
彼は魔界の時より大きくなった目をふっと和らげ、私の両頬に触れる。
『俺は魔物だ。姿形の拘りはないし、持っている欲も人間よりうんと少ない。恋愛感情や人間が一般的に受け入れられない価値観は・・・知識として理解できるが、俺がやっても真似にしかならない』
「それでも、理解しようとしてるレヴェナントさんがいいんです・・・」
『ロジオンが使役しなければ、魔力が豊富なシーグリッド嬢を食すことだって出来るんだぞ・・・?』
「・・・!」
『な、何故嬉しそうな顔をする!?』
完全に『食べる』の意味を履き違えていることが分かってても・・・顔の緩みを抑えられなかった。
「もし私が誰も手が付けられないくらい暴走して、この世界にとっての悪性になってしまったら・・・その時はレヴェナントさんに食べられますね」
『・・・!はは。全く・・・シーグリッド嬢も大概、奇妙な内面を持つ人間だったんだな』
レヴェナントさんは面白いと破顔し、まだ私の気持ちに応えることも、拒むこともできないと言ってくれた。
――保留・・・まだ振られた訳じゃない。ただ単に、恋愛について疎いだけ。勝負はここから・・・だけど!
心の中に期待の光が灯る。
――諦めない・・・!次は男体化だ!
「恋人になれるまで・・・勿論なったその先も!私はレヴェナントさん以外見ませんからね!」
私は新たな目標に向かってひた走ることを決めた。16の初恋は――絶対に終わらせない!




