第三十一話『形態変化の儀』
本部から近くも遠くもない高原に来たのは今日が初めてだった。つまりイチから歩いて地雷を設置しなくてはならない。
――アウェイ戦は弱いけど、少々手こずるだけで十分勝機はある!
ハース様じゃなくてロジオン様は短期決戦が得策と判断したのか――早速ラスボス級の魔物を召喚した。
「半神クンピーラ・・・私は貴方を恐れません。彼女を撃破してください」
『恐れるな・・・恐れる者は忽焉と消え失せよ』
魔物じゃなくて神だった。そんなん有り!?
「しし師匠!半神て何すか!?浮いてますけど地雷効きますか!?」
「あの半神はハース君が死に物狂いで契約したやつ。召喚時の魔力消費はレヴェナント君以上だから、本気でシーグリッドのこと秒殺する気なんじゃない?」
『ロジオンやりすぎだ!シーグリッド嬢が危ない!』
どうやらあの蛇っぽい半神が原因でロジオン様がミイラ男になったらしい。新しく手に入れた魔方陣をすぐ使っちゃうタイプね!?
――やっぱりまだまだ、ロジオン様のこと知らないなあ。でもそれはお互い様だ!
高威力の魔法弾を避け、私は半神なんちゃらをまともに相手することを止める。だって半分でも神だよ!?地雷でどうにかなるもんじゃないって!
――戦うってなっても今の私じゃ、ロジオン様にとって飯事に等しいかもしれない・・・。
それでも快晴を睨み、ある一点に狙いを定める。慎重派の彼は戦闘に巻き込まれることを恐れて遥か上空に避難していた。
――ロジオン様が乗っている鳥と蛇の神の弱点は・・・。
「対車両型地雷。『ヴィーザルの覆轍』・・・威力水準『滅亡』・・・埋設済の内5つを全て変換・・・」
半神の相手は分身に任せ、私は凄い離れた場所で起爆準備に移る。師匠は私が放つ特大の一手に気づいたのか目に見えて慌て始めた。
「あっこれヤバイ。ガチでヤバイ。終わるの文明どころじゃないよ・・・!」
『ソニア嬢!シーグリッド嬢と周辺の地面から異様な魔力反応が・・・一体彼女は何をしようとしている!?』
「『ヴィーザルの覆轍』は爆発時、最も爆音が響くタイプの地雷なんだって。元が威力高めの地雷なのに、威力水準を最大値まで上げて尚且つ5つも起爆しようとしてる」
『超強力な音爆弾・・・それは人族どころか周りの生態系まで影響を及ぼすんじゃないか?』
「うん。命はどこにでもあるからね・・・私でも計り知れない音の攻撃。果たして空中にいるハース君はどうなるかな・・・?」
『・・・っ!』
――ちゃんと何とかしてくださいよ・・・?ソニア師匠。
避けきれない弾幕が当たる寸前、私は掻き消す程の力を放出した。
「五重の轟音・・・『起爆』!」
『――』
鼓膜は一瞬で破れ、度し難い破壊力が分身を襲う。上空にいるロジオン様だってひとたまりもない筈だ。
「・・・」
容赦なく思い切り発動した私の『地雷』は――空中にいるロジオン様にちゃんと届いたんだろうか。そんなことを思いながら皆を探すと――
『よかった・・・本当に無事でよかった』
――ハース様が知らない褐色女性に抱きしめられていた。
「・・・へ?」
すぐ傍にいた師匠も複雑な感情を醸し出している。とにかく、先ずは誰も怪我しなかったことにほっと長大息をついた。
「し、シーグリッド・・・」
「あ、師匠。すみませんちょーっとやりすぎちゃったみたいで・・・半神は帰ったんですか?」
「う、うん。まぁ、思い切りやっていいって言ったの私だからそれはいいんだけど・・・」
「それで、レヴェナントさんの擬人化はどうなりました!?」
「・・・」
急に師匠の気配が消失した。体はちゃんと目の前にいるのに、まるで実体化していないような・・・。
「ごめんあまりのショックで昇天しかけてた。えっと・・・レ、レヴェナント君だね?」
『本部に戻ったら説教だ!いつもお前は加減無しで召喚して――』
師匠は深呼吸の後、上に向けた手の平を褐色女性の方に向けた。
「・・・ん?」
「レ、レヴェナント君」
『ん?あぁ・・・良かった。シーグリッド嬢も、俺の所為で怖い思いをさせてすまなかった。ロジオンには後でちゃんと言っておくから』
擬人化。それはとても神妙な現象だと思う。レヴェナントさんは――
「・・・レヴェナント、さん・・・?」
『どうした?シーグリッド嬢・・・魔力の使いすぎか?顔色が悪いぞ』
――女 に な っ て い た。
ギギ。と錆びついた動作でロジオン様の方を見ると――彼の頭もショートしていた。こ、硬直してる・・・ずっと返事が無いと思ったら・・・。
「あっれー?レヴェナントさん?女の人になっちゃってますよ?魔界に大事な部分置いてっちゃいましたか?どの地雷が爆発すれば元に戻るかなー?」
「っど、どーいうことですかソニア嬢!レヴェナントの性別を勝手に変えないでください!」
『いや、俺は元々性別は無』
「「レヴェナント(さん)は黙って(ください)!」」
当の本人は見た目に頓着が無いので平気そうにしてるけど――私達にとっては由々しき事態だった。
「今回行った形態変化の儀は、召喚主のイメージを具現化したんだけど・・・ハース君。レヴェナント君のこと『頼りになる相棒』と同程度に抱いてた印象があるよね?」
「・・・」
ロジオン様はビクッと肩を震わせて一言。
「・・・口うるさいオカンみたいに思う時は、ないことも・・・」
『誰がお前の母ちゃんだ!』
「痛っ!」
形の良い眉を吊り上げて怒るレヴェナント君さんが見るに堪えず、耳を塞いでその場に蹲る。師匠曰く、擬人化が成功した直後は一糸まとわぬ姿だったらしい。
――あーあーあー怒ってても美人・・・声も低いけど女性らしさが・・・胸筋もでっけぇメロンみたいに膨らんでるぅ・・・。
「危なかった・・・咄嗟に服着せてなきゃシーグリッド間違いなく発狂してたね」
「・・・地雷だわ。あーあ地雷踏んじゃったもう最悪」
「っ!?6番目・・・貴女一体何を」
私はゆらりと立ち上がり、もう一度同じ地雷をセットする。
――女体化とかマジ無理ノーグットなんですけどーーーーー!?
「うわー馬鹿馬鹿!2回目は流石にキツイって!」
『シーグリッド嬢!早まるな!』
乱心して起爆する直前、意識が途切れ――私は自室で目を覚ました。
――あ、悪夢か・・・。酷い夢だったな・・・。
シャワーを浴びて嫌な汗を落とし、厚い雲に覆われた空を見やる。今日は前々から約束していたレヴェナントさん擬人化計画の日だ。私の協力が必要と言っていたから、しっかり朝食を食べて望まなくちゃ。
「あっシーグリッド。おはよう。その・・・調子はどう?」
「師匠!おはようございます!ちょっともがき苦しみたいくらいの悪夢を見ちゃいましたけど元気です!」
「そ、そっか・・・体調悪くなったらすぐ言ってね」
師匠と並んで食堂に向かう途中、私は気持ちを切り替えてあの話題に移った。
「今日はいよいよレヴェナントさんが擬人化する日ですね!はーーやっと・・・!師匠なら必ず成功させますよね?はーー楽しみすぎ!」
「・・・うぇ?」
師匠の滑舌が衰えている所為で変な相槌が出る。しっかり耳に届いちゃったけど・・・敢えてツッコまないのがデキる弟子ってものだよね。
気分と空模様がミスマッチしているのは偶然。
師匠が難しい顔のまま喋らなくなったのは眠いから。
――今日の日替わりは何かな。
私にとって一生忘れられない○○な思い出は――手に届く距離で控えていた。




