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 第二話『初任務の相性が悪すぎた日』

鑑賞花のように美しいロジオン様は険しい表情のまま口を開く。


「ビビってません。任務です。早く現地に向かいますよ」


「うん。あ、ハース君。彼女はシーグリッド。今日から6番目の幹部入りだよ」


「・・・え!?は、はじめまして。シーグリッド・トゥルースです!よろしくお願いします」


師匠は常に動じず、悪い意味で己のペースを崩さない。流れで自己紹介をしちゃったけど・・・同類と思われているようだったら心外だな。


「はぁ・・・もう後任が現れたんですね」


「私の弟子でもあるんだ。シネット君とコロゾフ君の時みたく、そう簡単に始末できないよ」


「やはり貴女があのゴミ共に私を襲うよう教唆を・・・」


呑気師匠が殺気を放つハース様に背を向けると、彼はこめかみをひくつかせて魔法のステッキを構えた。師匠を除く幹部は沸点が低く脳筋で、人の命を何とも思っていない人達らしい。ハース様も冷涼な顔立ちに反してかなり血の気が多いんだとか。


「シーグリッド。後ろで魔人を召喚しようとしているロジオン君が先週、幹部2人を独断で抹殺した話は知ってるよね?」


「酷い物言いですね。正当な理由の元、不穏分子を粛清しただけです」


「あーまあ。ナンバー6のシネット様とナンバー7のコロゾフ様がハース様を打倒しようとして失敗した・・・でしたっけ」


師匠は微かに頷き、私の肩をポンと叩いた。


「幹部初仕事。ハース君と行く予定だった任務を私の代わりに行ってきて」


「は?」


私の声とハース様の声が重なったと思った次の瞬間――シーンが屋内から木々はびこる森の中に変わった。


――強制(フォースド・)転送(トランスファー)・・・使った師匠はいないし!また予告無しで飛ばしやがってー!


計画通り自分の仕事を私に押し付けた師匠に心の中で中指を立てる。幹部就任祝いにメッチャ我儘言ってやる!覚えてろ!


「6番目」


「え?」


「貴女のことですよ新入り。この先に見える古城が今回の任務場所です。仕方がないのでソニア嬢ではなく6番目と仕事に移りますが・・・」


師匠は任務の詳細を知らない筈だったのに私達をこの地まで転送させた。『まぁ師匠なら有り得るか』と、慣れている私より切り替えの早さを見せたハース様もきっと――マイペースな気性に好き勝手振り回された被害者の1人なんだろう。


「・・・今日が貴女の命日になるでしょう。ですが死ぬのも殺されるのも私に貢献してから。これは必定事項です」


「え」


「さっきから聞き返してばかりですね。ここまで弛みきった未熟者は初めて見ました。この組織も甘くなったものです」


「・・・・・・」


私も沸点が低い方だと自覚している。初対面の女性に対して嫌味の応酬。説明不足。傲慢。自分本位で部下を労わる心ゼロ。おまけにハース様の眼差しは完全に女性蔑視のそれだった。


――起爆(デトネーション)


足元に生成した地雷を爆発させ、衝撃の勢いに乗ってハース様の懐に入る。意表を突いたと思ったのに――彼は眉一つ動かさなかった。


――まあ別にいいんだけど!


最初からキレて襲い掛かった訳じゃない。そのまま素通りし、追い爆風で古城の中に飛び込んだ。


――うわ古っ・・・カビ臭っ!ちょっとの衝撃ですぐ崩壊しそう・・・。


すれ違い様ハース様からスッた任務書を開いて内容を改める。さっきの魔法はフェイク――本命は任務書とハース様のステッキだ。


ハース様に煽られている間、私はとある目的を設定した。


「この任務を私1人でこなして、ハース様の鼻を明かしてやる・・・!なーにが『今日は貴女の命日です』だっ!人の運命を勝手に決めんな!それをしていいのは師匠だけで十分だっての!」


道中に足止め用の地雷を多数設置してある。おまけに召喚に使うステッキは私の手の中――ハース様って慎重派っぽいし。これなら容易に追ってこれないだろう。


――今回の依頼は『呪物の回収』。でも目的のブツが何処にあるかまでは分かんないのか・・・ダルっ。


かつてこの場所が城として機能していた時代。我儘お姫様が捨てたぬいぐるみに呪いが宿り、城にいた人間を全員呪殺したという言い伝えがあるらしい。後々、そのぬいぐるみは封印した上で焼却処分したが・・・組織にいる研究班の調べによると、該当の呪物は2つ存在するらしい。お姫様には同じく我儘な妹がいた。甘々な両親は当然2人に同じ種類のぬいぐるみをプレゼントするだろう――というのが彼らの推論らしい。


「呪物が2つに1つである場合、片方だけ処分しても復活する・・・っていうのは知ってたけど。本当にあんのかなー?」


同封されている城の見取り図を参考に、子供部屋だった部屋をくまなく捜索する。すると――朽ちた木製棚に、うさぎのぬいぐるみが2個収納されていた。


「・・・」


見つけてすぐ扉を閉めた私が抱いた感情は歓喜ではなく、死の危険性を孕んだ恐怖だった。震える手で書に描かれていた呪物の絵を見る。棚の中にあったのは確かに絵と同じうさぎのぬいぐるみだった。ただし――元の色である白とピンク色から、どっちも『何かで』真っ黒に染まっていた。


――城にいる大勢の人を呪殺したぬいぐるみ・・・これを処分じゃなくて回収するのは・・・何に利用するつもりか。なんて考えなくても分かるよね・・・。


世界の悪性は悪役。敵キャラ。この国を恐怖と混乱の渦に巻き込む為に存在する組織。この呪物も毛糸1本まで調べ上げ、有効に利用するつもりなんだろう。


――正直触りたくない・・・けどやんなきゃ!


『ギギ・・・ガキン!』


「きゃぁっ!?」


私がいる時に限って落ちてきたシャンデリアが、固めたばかりの決意を撃ち砕きにかかる。間一髪で避けた先には――呪いのぬいぐるみが立っていた。


「・・・」


『・・・』


2つのぬいぐるみは宙に浮き、禍々しいオーラを放っている。声を失ってしまうくらい――この呪物の魔力は未知数であると直感した。


「うやぁぁぁぁぁ!?」


爆発で速度を強化し、古城からの脱出を図る。ぬいぐるみは嬉々として私の横を並走ならぬ並空していた。


「いや追いつけんのかーい!」


――そこは追いかけっこだろおおお!


私は当然、自分の魔法の弱点を対策している。空中にいる敵や攻撃に対応できる地雷だって沢山作れるんだ。


――でもこのぬいぐるみに攻撃魔法は使えない・・・。このまま組織までついてきてくれないかな。でもそれだと私に憑いてる判定になっちゃうのかな。


任務書には『触れると呪われる』としか記載されておらず、生憎私も封印系の魔道具は持ち合わせていない。


「・・・そういうことか」


ここでやっとこの任務が師匠とハース様に割り当てられた理由が分かった。師匠に範囲外の分野がほぼないのは言わずもがな。ハース様は召喚術士・・・きっと呪いに精通した召喚獣が手持ちにいるんだろう。


『ア、ソ、ボ、ゥ』


「呪わないんだったらいいよ!」


『ィ、イ、ョ』


「えっマジで?」


ハース様より話が通じたことに感動を覚えたのも束の間。両端にあった扉が外れて、間にいる私をサンドイッチの具にするべく襲いかかる。


起爆(デトネーション)!」


行きに通った位置に爆破型地雷『クレイオスの切諫(せっかん)』を爆破させる。扉自体に命中しなかったものの、15個の小型爆弾が四方に散り――一定方向にしか動かない扉は木っ端微塵となった。


『ゴ、イ、ス、ゴ』


『ヤ、ジャ、ル、ン』


「爆発して終わりじゃ芸がないからね・・・っ!?」


扉で挟まれかけたんだから、廊下に並ぶ両開き扉を警戒するのは普通だと思う。だからこそ――()()()()には全く注意を払っていなかった。


――当たる・・・!


音もなく針のトラップが現れ、全身を刺される未来を想像したその時。


『バキィン!』


「・・・え?」


異形の魔物が無数の針との間に割って入り、私を窮地から救ってくれた。

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