第二十七話『ただ一つの間違い』
ジョンストン様が顔を逸らした先に、次の任務書を与えられて絶望している構成員2人がいた。彼は働き方の改革を訴えている様を見て嘲笑する。
「・・・ふん。この程度の冒険者に無力化されるとは何とも雑輩な構成員だ!組織の程度が知れる」
「寛大な心どこ行ったんですか!?ぷぷっ・・・矛盾するの早すぎ!」
笑いながらツッコむと、ボンッとジョンストン様の顔が一気に紅潮する。彼は初対面の時からこんな態度だった。
――最初はジョンストン様の強談威迫なとこ、ちょっと苦手かもなーって思ってたっけ。すぐ慣れて面白くなっちゃったけど。
「お、俺様を舐めるのも大概にしろ!お前が礼を欠くような態度ばかり取るからあの雑魚共にシーリィなどと愛称で呼ばれるんだ!羨、って何を笑っている!?」
「ごめんなさい。さっきからお前が言うな発言ばっかりで・・・我慢できませんでした」
「な ん だ と!?」
「わーすみませんすみません!」
「・・・シーリィの一切空気読まないとこ、俺は好きだぜ」
「うん。まぁ言葉選べよとは思うけど」
必死に笑いを堪え、顔を赤くして怒るジョンストン様を宥める。雑魚2人の冷静なツッコミは聞かないフリをした。
「じゃあ合流したことだし。任務に行きましょー」
「は?俺らここ2週間は任務to任務なんだが!?いい加減本部帰って座りたい!シュネリーさんからも言ってくださいよ!恋バナした仲でしょ!」
「小一時間も話聞いてやったじゃないですか。シュネリーさんまだ俺らにそんな態度でいられるんですか?もう遅・・・」
構成員2人が牙を剝き、なんとシュネリー様を抱き込もうとした。一瞬で殴打されてたけど。
――あーあーまたダメージ負っちゃった。でもこの2人たった小一時間でそんなシュネリー様と仲良くなったの?
「もー何のために安くない回復薬を支給したと思ってるんですか?ほら文句言わず動く!町まで案内してください!」
「しかもシーリィとか・・・」「畜生!でも他の幹部よかマシなんだよな・・・ってあっ!」
「・・・ふん」
ジョンストン様は構成員の任務書を奪い、一瞥して鼻を鳴らす。
「エスカオールの町か・・・途中にある樹林は大規模で正規の道だと半日はかかる。そこで!この俺様が3・・・いや2時間で抜ける道筋を先導してやってもいい。借りは高くつくがな!ハーッハッハッハ!」
「え、でもお忙しいんじゃ・・・」
「たまたま!本当にたまたま俺様も任務を終えたところだったんだ。半日の移動時間が2時間になるまたとない機会だぞ?丁度いい時に出くわした幸運を誇りに思え!シーグリッド!」
――ええー。
「多分2時間って言うのはシュネリーさんのスピードで換算したんだろうけど・・・」
「俺らがついてくってなると倍はかかるな。それでも4時間・・・普通に行ったら町に着くのは深夜か・・・シーリィどうする?」
それに樹林には魔獣や同業――野盗や賊がいないとも限らない。自分の身が最優先とはいえ、地雷で森林を無暗に破壊することはあまりしたくなかった。土埃や返り血で汚れるしね。
――見返りが怖いけど・・・何かあった時全任せ出来る存在は心強いかも。
「じゃあえっと・・・是非よろしくお願いします」
「よしっ!!そうだ、それでいい!」
改めてお願いすると、ジョンストン様は歓喜でいっぱいの笑顔を浮かべた。
●~*
道中。私達とジョンストン様は――
「――ハース様ってキモイくらい周到で、疑心と警戒心が強くて・・・誰も信じない割に自分の命令には従わないと不機嫌になるんですよ!?こんな上司嫌です」
「確かに。ロジオンは昔から変なところで意固地だ。さも自分は常に冷静沈着ですと言わんばかりの鉄仮面でいるが、案外その仮面は脆い。まだまだアイツも未熟だと言わざるを得ないな」
「そうなんですよ!私のこと全然尊重してくんないし!仕事に私情挟むし!凄い根に持つし!」
――ハース様の悪口で盛り上がっていた。
ジョンストン様はハース様とそこそこ付き合いが長いらしい。お互いの性格上、友好関係は築けそうにないということがよく分かった。
「ここまで自分を棚に上げた陰口大会ってあるんだ」
「たまーにシーリィの言葉でシュネリー様にダメージいってない?大丈夫っすか?」
無線機から構成員2人のコメントが返ってくる。ジョンストン様が知る近道は徒歩でないと厳しいため、2人は私の馬に乗って樹林道を進んでいた。別行動とはいえ無線でお互いの声が丸聞こえなので、ジョンストン様と2人っきりという感じはそんなにない。
――レヴェナントの時は変な汗と心臓が出そうなくらい興奮したっけ・・・また2人でデ、デートしたぁい・・・!
「――リット!おい地雷女!」
「っはぁい!」
「何故上の空でいる!今が任務中だということを忘れたか?さっさと俺の質問に答えてもらおうか!」
――やばっ聞いてなかったー。
悪態をつかれるのを承知で聞き返すと、ジョンストン様は歯切れ悪く私の恋愛事情について探りを入れてきた。
――これは・・・素直に答えると幹部としての自覚が足りない!って言われちゃうやつだ!
「・・・そ、そうですねー。理想の男性像なら最近ハッキリしました!優しくて年上で、私よりうんと強くて気遣い上手で・・・基本落ち着いてて穏やかな人が好みです!」
――言ってて恥ずかしくなってきた・・・分かる人が聞けば完全にレヴェナントさんの特徴まんまじゃん!
ジョンストン様は私の言葉をしっかりと咀嚼し、自信たっぷりに一言。
「・・・俺だな!」
「「(いや)絶対違います(けど)!」」
今日初めて『世界の悪性』3人の心が一致した。密かに感動する私とは対照的に、ジョンストン様は不愉快を滲ませる。
「・・・まさかロジオンなんて言わないだろうな」
「「それも(絶対)違います(よ)」」
また声が揃った。ジョンストン様は若干腑に落ちてなさそうな顔で私を睨む。
「ふん。どうだかな・・・嫌いの反対は好きとも言う。口先だけで本当はロジオンのことが気になってるんじゃないか?」
「は?違いますけど」
「ロジオンは狭量で底意地が悪く、俺より弱い。地雷女もあんな奴が上司で難儀しているだろう。今からでも遅くない・・・『深爪』に引き抜けるようこの俺様が進言してやっても――」
「いえ大丈夫です」
遮るように断ると、ジョンストン様は分かりやすく固まった。そんな大ショックだったの?
――断られると思ってなかったか、私が『世界の悪性』にうんざりしているように見えたか・・・どっちにしろ心外。
「やっと幹部になれたんですから。もう少し頑張りたいです」
それに。と言葉を続け、ただ一つの間違いを物申す。
「ハース様は意地悪なとこもありますけど、根が腐ってる訳じゃないと思います。誰よりも真面目で、素直な人なんです」
――私って、別にハース様のこと心から嫌悪してるって訳じゃなかったんだな・・・。
難儀な部分は否定しないけど、時が経てばきっと打ち解ける。そんな気がした。
「折角この俺様が切実に頼んでやったというのに・・・!」
「わあぁすみません!でもそれがジョンストン様なりの切実だったらもう少し磨いた方が・・・って危なっ!」
「そういや、前に俺らが事前調査してシーリィに引き継いだ任務ってもう終わった?」
鋭いスキンシップから必死に逃れていると、安全圏にいる構成員からとある質問が投げられる。
「いや、まだ・・・」
分身が頑張ってくれてます。と言いかけた脳が、たった今この身に起きた出来事の処理を拒んだ。
――分身が、消えた・・・!?




