第十五話『新章ショッピング』
私は休みの日でも早起きして師匠の部屋を訪ねた。しかもなんと!その前に部屋の掃除して洗濯もした。そんな偉すぎる私の為ならレヴェナントさんを擬人化させてくれると確信していた――のに。
「いや呼ばれてないじゃん。というか折角呼んでくれそうな雰囲気だったのに北風シーグリッドが逆効果なことするから・・・あれは失態だったね」
師匠はケチなので普通に却下された。なんだよケチ!あんまケチケチ思うと師匠に勘づかれそうだからこれで最後にしよ。ケチケチケチケチケチ師匠!
「シーグリッドがそんなんだからハース君が意固地になっちゃうんだよ・・・」
「・・・」
頬を膨らませて不貞腐れると、師匠は苦笑して傘を開いた。
「とは言っても、昨日はよく頑張ったね。大活躍した弟子には師匠としてご褒美を」
「いぃええええぇぇいいい!服とコスメグッズとブーツが欲しいです!」
「最後まで言ってないのに・・・じゃあそろそろ行くよ」
師匠はこれから任務なので一緒に部屋を出る。見送りついでに外まで歩く間、ご褒美の詳細について話してくれた。
「ま、魔界!?そんなとこ行けるんですか!?てか行っていいんですか!?」
「うん。明日用事があって行くから、ついでにシーグリッドも連れていったげる。他の魔人に違わず、レヴェナント君も召喚時と魔界にいる時ではフォルムが違うんだよ。折角レヴェナントに気・・・興味があるなら会ってみたら?」
何で魔界と繋がりがあるのかとか、魔物が現世と魔界にいる時では姿形が違うことを知っているのかとか・・・ツッコミ所が沢山あっても、私の答えは一つだけだった。
「いい行きます!師匠が用事してる間、私はレヴェナントさんと一緒にいればいいってことですよね!?」
「うん」
「明日とは言わず今から行きましょう!私今日休みですし!」
「私が駄目だから駄目。それにシーグリッドだって『屠殺集』との飲み会があるじゃん」
師匠の言う通り、私はこれから買い物に行った後、夕方から『屠殺集』の飲み会に参加する予定が入っていた。師匠も誘ったが任務があるので来れないんだそう。――いやでも!
「飲み会より魔界です!てか私だって明日普通に任務なんですけど」
「それはどうにでもなるでしょ」
師匠は傘の中棒を肩に乗せ、自分の耳をつまんでそう言った。意味が込められた仕草をきちんと理解した私はつい眉を寄せて唇を噛む。
――魔界に行きつつ任務もしろってことか・・・まぁいいけど。
「何事も無ければ私が用事してるまでの間、レヴェナント君に魔界案内してもらったらいいんじゃない?」
――つまりデートォ!?魔界デートじゃん!レヴェナントさんと2人っきり・・・。
師匠の提案が鍵となり、私は妄想の波に深く沈むことになった。
『驚いただろう。これが俺の真の姿・・・そしてここが俺が生まれ暮らしている魔界だ』
『素敵・・・召喚された時のレヴェナントさんも勿論そうですけど、魔界バージョンのレヴェナントさんもカッコいいですね!』
『・・・シーグリッド嬢は怖くないのか?』
『はい!だってレヴェナントさんは強くて優しくて頼りがいがあって・・・一番カッコいい存在ですから。私はレヴェナントさんのそんな一面に・・・』
『一面に?』
『ひ、惹かれてしまいまして・・・最初に助けてくれた時からずっと・・・』
想いの丈が尻すぼみ、身体が小さくなっていくのを感じた。顔も耳の先から首まで真っ赤になっていると思う。そんな私を――レヴェナントさんはそっと抱き寄せた。
『シーグリッド嬢・・・いや、シーグリッド。どうか俺のことも呼び捨てで呼んでくれないか?』
『は、はい!レヴェナントさ。レ、レヴェナント・・・』
『シーグリッド・・・君は運命だ。どうかずっと俺の傍にいてくれ』
何か暗くて禍々しい世界の下で、私はレヴェナントさんと熱い口づけを――のところまで想像した途端、鼻から液体が流れた。
――おぐぅ鼻血・・・ヤバイ。これは本番までどうにかしないと最悪を見る・・・。
「・・・」
師匠は突然血で地面を汚した私を見て顔色を失っていた。まぁそうだよね。妄想しただけで鼻血出すほど興奮するとこ見たら普通引くよね。
「っま、魔界には絶対絶対行きますからね!師匠に二言は無しですからぁーー!」
鼻をハンカチで抑えて逃げるというみっともない後ろ姿を見せるも、どうにか明日の約束を取り付けた。明日の朝9時にこの場所・・・絶対早く寝て早起きしてできる限りのお洒落をしなきゃ!
――そうと決まれば午前中は女子力アップの買い物じゃぁぁぁ!
「本来なら普通の魔導士が魔界に入るなんて前代未聞だけど・・・もしかしたら幻滅とか、種族の違いを目にして恐怖感じちゃったり・・・することもあるかもだし?私としてはまだシーグリッドの恋が盲目的というか、一時的な気の迷いによるものだったらいいなーって思いたい・・・いや反対する訳じゃないけど。せめて獣人とか鳥人とか竜人とかエルフとか、ギリ価値観と感覚が人族に近い種族と恋して欲しかったなぁ・・・」
師匠が傘の下でそんなことを零しているとはつゆ知らず・・・私は来る明日に備えて女を磨きに行ったのであった。
――うーん。寮に戻って荷物置きに行く時間ないし面倒くさいな・・・しょうがない。このまま行こう。
買い物は無事済んだものの、飲み会の時間まで残り1時間を切ってしまった。会場の距離的に両手に荷物を持ったままでの参加になりそうである。
――幹部になって基本給も増えたし。ボーナスが楽しみだなー。
今回買った品も来月の給与を見越して選んだ。女って本当に金がかかって大変・・・。まぁその分可愛くなれるからいいけどね!
「――おうシーグリッド。随分大荷物で来たな」
顔を向けると、『屠殺集』頭領のガーフンドさんが目を丸くして立っていた。偶然の出会いに感謝して女をアピールする。
「買い物に夢中になってたら時間ギリギリになってしまいまして・・・あ、これは全部私の荷物ですからね!」
「何だ俺らのお土産じゃないのか」
「あ、それは師匠が・・・今日来れないお詫びにお酒を届けたって言ってましたけど」
「おーあれな。ちゃんと届いたよ。ありがたく飲ませてもらう」
師匠はその話を私にした時『30本で足りるかな・・・』とぼやいていた。どうやら獣人族は酒豪が殆どらしい。そんな輪の中に酒が飲めない私がいてもいいのだろうか。
「俺は部下に女子供も同列に扱う・・・と言ってるが今回は特別な」
「やったぁーありがとうございます!」
ガーフンドさんは私の期待通り両手に持った荷物を全て持ってくれた。中身は洋服と化粧道具と日用品が少し。でも結構な数を買って長時間歩いたので割と疲れていた。
――上司のおじさんだったら悪の幹部がこの程度で音を上げて人を頼るんじゃなーいとか言われそうだけど・・・その点獣人さんは紳士でいいね!
「この俺を出会い頭に荷物持ちさせるたぁいい度胸してるよ。流石悪の女幹部」
「そう言いつつ優しくしてくれるんですからー。たまたまガーフンドさんに会えてよかったです」
「ちゃっかりしてんな全く・・・俺じゃなかったら勘違いしてるところだ」
傍から見ても親切な兄貴分と現金な妹分が街を歩いているようにしか見えない。種族は違えど、これからも普通に仲良くなれそうだなと思った。そんなウフフアハハと和やかな雰囲気をぶち壊す存在が1人。いや一匹が私達の行く手を阻んだ。
「ねぇガーフンド・・・その女誰?」
憎悪を帯びた声の方に目を向けると、そこには淀んだオーラを身に纏った女性――ではなく雌の獣人さんが立っていた。




