第十四話『センチメンタル・デイ』
正直今のはボケた。答えが分かっててついふざけてしまった。だって師匠なら怒らないだろうし・・・。
「シーグリッドの存在がこの世界の抑止力になるからだよ。お姉ちゃんの力は相変わらず強大だね」
「・・・っ!」
思わず席を立ち、揺れる瞳で穏やかな笑顔を見つめる。私はその眼差しに後押しされるよう口を開いた。
「魔原子爆弾『魃』は・・・私のお姉ちゃ、姉が作ったもの、魔法・・・です」
「ごめん。もっとハッキリ言える?」
「まっ魔原子爆弾『魃』は!姉であるアラクシュミィ・トゥルースが作ったものです!」
私には5つ離れたお姉ちゃんがいた。とても優秀で、要領が良くて人望があって――親に凄く愛されていた。例え歴史の闇に葬られた魔法を持っていたとしても。
「魔原子も魔法射能も姉が考えた言葉・・・というか教えてもらった言葉です。別の国では違った呼び名で通ってるかもです」
「シーグリッドは小さい頃お姉ちゃんから魔法射能耐性を付加されたんだっけ」
「まぁ・・・というか魔法を喰らって死にかけたらいつのまにか平気になった・・・みたいな感じですけど」
お姉ちゃんは優秀な分、頭のネジが飛んでいた。なにせ『世界からコックローチを消す旅に出る』と言って家出した姉だ。それだけならまだしも『ホームシックになるの寂しいから』という理由で故郷の村を爆弾で消滅させた罪がある。その話を修行中に師匠から聞かされた私の心情といったらなかった。私の故郷でもあったのに・・・。
――まぁあの村と親族にはあんまいい思い出はないからいいけど、パパとママまで巻き込むことなかったのに・・・。
「まとめると、今回の爆発はシーグリッドの実姉であるアラクシュミィ・トゥルースが生成した魔原子爆弾によるもの。シーグリッドは彼女の魔力と爆弾の形状を知っていたかから回避することができた。組織側で知ってほしい事は、シーグリッドは魔法射能の耐性があるだけであって魔原子爆弾による熱線や爆風には耐えられないということ。シーグリッドは魔原子地雷をまだ作れないこと。アラクシュミィは現在行方不明でシーグリッドも5年以上会ってない。だから姉妹関係の良さに期待しないで欲しいということ」
「・・・ほう?まるでこちらが魔原子爆弾を手中に収めようとしているような言い方だな」
統帥の目がギラッと鋭くなり、恐怖で身が竦む。咄嗟に師匠の後ろに隠れるも、壁は全く怯んでいなかった。
「一部の国ではアラクシュミィが生み出した魔原子という物質の研究に着手している。チャミュエル魔法帝国及び付近の同盟国はまだ情報が出回っていないようだけど・・・厄介なことにこの魔原子、使いようによっては世界の発展に大きく貢献するような代物なんだ。まあこの辺の話は割愛するけど、『世界』はまだアラクシュミィを必要としている。だから耐性持ちでたった1人の血縁であるシーグリッドも必要なんだ。いざという時抑止力と成りえるからね」
「え・・・多分なんないと思いますけど」
「そこはハッタリ効かせてよ。アンシュッツ君がズッコケちゃったじゃん」
――知らなかった・・・そうだったんだ。
まさか自分の安全がお姉ちゃんによって守られているとは思わなかった。本人絶対そんなこと思ってないだろうな・・・。
「トゥルース家家訓である『無差別性』がアラクシュミィの心にどれだけ影響を与えているかは未知だけど・・・今の時点で私が知ってることはこれくらいかな」
「師匠・・・!ありがとうございました」
「・・・では最後に命令する。シーグリッド・トゥルースは――」
――はぁ・・・。
怒涛の展開の先に待っていたものは例に違わず報告書の作成だった。最後はいつも地味なのどうにかなんないかなぁ。
「はぁ・・・」
つい外にも溜息が漏れてしまった。いくら豪胆な私でも、今回の件で更に自分の立場が危うくなったと不安になる。
――断罪とかされちゃったらどうしよう・・・。
師匠曰く、悪役貴族を積極的に断罪する風潮があるらしい。同じ悪役として明日は我が身という恐ろしさがある。
――いや!レヴェナントさんを擬人化させて告白するまで死ねない!そんでお手て繋いでぎゅーしてチューして・・・うへへへへへ。
煩悩を糧にバリバリ仕事を進め、恋とはこうも生きる原動力になることを実感した。
――うん。断罪されそうになったら逃げる!それでハース様が追いかけてくる前に擬人化の手段を手に入れて、再開した瞬間レヴェナントさんを擬人化させて・・・あぁもうチューできたら死んでもいいかも・・・。
鼻血が出そうになる鼻を抑え、だらしなく緩んだ顔を机につけて隠す。これで誰かが入ってきてもお昼寝休憩を取ってるようにしか見えない。いやどっちにしろ怒られるけどね。
「――ゴホン!」
肩をビクッと跳ねて起き上がると、背後に仏頂面のハース様が立っていた。相変わらず影が薄・・・気配がないな!
「・・・今心の中で私を侮辱しませんでしたか」
「してましぇん。貴方は上司ですから!」
程々に誤魔化して仕事に逃げる。すると机の横に飲み物が置かれた。
「え」
――まさかレヴェナントさん!?
素早く振り向いても愛しの彼の姿は無く、部屋には私と気難しい顔のままそっぽを向くハース様しかいなかった。
「え・・・と、カフェラテ?ですか?ありがとうございます・・・」
臭いを嗅いで口に含むと普段よく飲む味がした。ハース様は『人からもらったものを何の疑いもなく口の中に入れるなんて正気ですか。警戒心が足りてない』と言いたげな溜息を吐く。地雷設置したろうかな。
「今日は助かりました。6番目がいなければ私とコルビーさんは――間違いなく無傷では帰れなかった。死んでいた。とは言いたくありませんが、後に響く怪我は負っていたでしょう」
「は――」
――お礼!?言った!?あのハース様が!?
「何ですかその間抜け面は。私が『ありがとう』も言えない人間だとお思いでしたか・・・?」
「いやいやいや!まだ全然平和なやり取りの真っ最中ですよ!」
慌てて首を横に振り、その握ったステッキを腰に差すよう促す。ハース様は『愚者火』を出すのを止め、またわざとらしい咳払いをした。
「シ・・・6番目」
「えっ?」
「残りは私がやります・・・ろ、く番目はもう帰りなさい」
――あ・・・ええ!まさかまさかの!?
即座に察し、私は頬を紅潮させて立ち上がった。
「今私の名前呼ぼうとしてましたよね!?呼ぼうとしてくれちゃいましたよね!?」
「は?何故私が6番目の名など呼ぶ必要が・・・」
「でも今『シ』って言いかけてから言い直してました!6番目呼びも歯切れ悪いというか変だったし!間違いなく名前呼びに挑戦しようとしてくれたんですよね!」
「だからしてないと言っているでしょう!黙れ!」
「はい素が出たー!故に図星ー!ほら遠慮なく!呼び捨てでもちゃん付けでも愛称でも構いません!」
「あぁうっとおしい!今すぐ離れないとレヴェナントを召喚しますよ!」
「バッチコイです!さあさあもっと気安い感じで私のファーストネームを!」
食い気味で詰め寄ると、ハース様はとうとうキレてレヴェナントさんを召喚してしまった。馬鹿め!これが悪手だと気づかず愚かなことよ!
『いいじゃないか。名前で呼び合うことで仲間同士の絆が深まるというものだろう』
――ううーんちょっとズレてる。けどいい!
「っ!レヴェナントまで・・・」
味方だと思っていた存在が寝返り、分が悪くなったハース様はレヴェナントさんを置いて逃亡してしまった。
――ハース様は一応私を名前で呼ぼうとする姿勢を見せてくれた・・・これで師匠OK出してくれるかなぁ!?いや厳しいか!?
追いかけていったレヴェナントさんの横で、私は師匠のミッションの達成条件を満たしたか否かのことで頭がいっぱいになるのであった。




