第十三話『蓋をする日』
「私は大丈夫です。レヴェナントさんと一緒に見てきます」
『だが・・・この辺一帯は汚染されている。人間には毒だぞ』
「本当に大丈夫なんです」
ゆっくりと首を振って笑う。それは安心させる笑みではなく、覚悟を決め自信を持った笑顔だった。
「この『毒』には――耐性がありますから」
事実、私は粘り気のある黒い雨を浴びても無傷だった。服は汚れてしまったけど。
――あぁでもこんな汚れた状態をレヴェナントさんに見せたくなかった・・・もっと穏やかな日差しが照らすお洒落な街並みを2人並んで歩きたかった・・・。
『シーグリッド嬢は毒入り地雷も作れるのか?』
「はい一応」
『ならこの爆弾は一体・・・仮に街中で使われたら地獄を見ることになるだろうな』
――会話も可愛くない・・・いつか任務外でこの夢を実現させてみせる!
「実はおおよその検討はついてるんです。作った人が誰かも。また全員揃ったら報告しますね」
激しい降雨の中を走り、つい先程まで森林道だった場所は――
『も、森が・・・』
「破壊どころか消滅していますね」
――まるで隕石が衝突したのかと驚くレベルの巨大クレーターが生成されていた。
「・・・」
非常なる事変を前にして言葉を失う。マーフィー様はより爆心地から近い場所に立ち、負傷と回復を繰り返していた。
――馬車の残骸すら残ってない・・・し熱い。
遠くの方にある木々は燃え広がり、快晴だった空はキノコのような形をした巨大雲が濛々と覆い隠していた。
「あっちぃ・・・爆風と熱線で森もアルちゃんも馬車も焼けて形も残ってねー。あと何だこの雨!ヌルヌルしてっしこれも毒じゃねーか!」
「マーフィー様どうですか?耐えれそうですか?」
「今ここに立ってるだけで回復の消費がクソ早ぇ・・・チッ。直撃してたらこの俺でも流石に死んでたかもな」
彼曰く、爆発後のこの土地にいるのも10分が限界だそう。それでも十分凄いけどね。
「ここまでの規模の被災ですと、すぐに国から調査隊が派遣されるでしょう。くれぐれも我々が関わったという証拠は残さぬようお願いします」
『分かった』
――レヴェナントさんの言う通り、こんなものが市街地で炸裂したら・・・!
妄想が広がり、呻き苦しむ人々が私の横を通る。そこらで慟哭と咽び泣く声が響き――人道的介入によって起きた現象は目を背けて逃げたくなる程の惨状だった。
「・・・」
私は黒い雨に打たれながら上を向いて目を閉じる。両手を組み、体内で魔力を練ることに全神経を注いだ。
――どうか忘れないで・・・どうか許さないで・・・。
『シーグリッド嬢!?』
「はぁ!?お前何してやがる!そんな多量の毒素を吸い込んじまったら俺でも治せねーぞ!」
「馬鹿な!雨と火が収束されて・・・!?何の魔法ですかこれは・・・」
魔法射能を含んだ黒い雨も、塵埃も、簡単に消えない火も――一つ残らず綺麗に足元の地雷に吸収された。
「封印型地雷――『パンドラの病原』埋設完了」
ゆっくり目を開けると、澄んだ青空が広がっていた。高温多湿だった地には清涼な風が吹き、春の訪れが近いことを感じた。
「6番目・・・これは何の真似ですか」
最初に沈黙を破ったのはハース様だった。私は驚愕したまま固まっているマーフィー様とレヴェナントさんを見ずに答える。
「汚染された大気も、毒を含んだ雨と煙も、燃え広がる炎も――全てこの封印型地雷『パンドラの病原』の中に入れました」
『封印型地雷・・・?シーグリッド嬢の地雷は爆発するだけじゃないのか?』
「同じですよ。だからこれも条件次第で爆発すると・・・また同じ光景が広がります」
『パンドラの病原』は固体以外の物質を地雷として封じ込める型の地雷だ。この爆弾による二次被害を少しでも減らしたかっただけで・・・罪滅ぼしの為に造った地雷の一つでもある。
「流石に抉れた土地と燃えた木々は直せないんですけど・・・」
『いや。ありがとう。シーグリッド嬢は十分よくやってくれている。これで毒が蔓延するのが防げたんじゃないか?なあロジオン』
「そうですね・・・詳しい調査をしないことには何とも言えませんが・・・私もそちらに合流します」
「やーっと思いっきり呼吸できるぜ・・・っし。魔法特務機関の奴らが来る前にけーるぞ」
小鳥の鳴き声が私達に危機が去ったことを告げる。勿論この後にある問題の方が大変だけど・・・私は一先ず帰還することを第一に考えたのであった。
●~*
私は今の時点で分かることを全て報告した。
お爺ちゃんの胸に埋め込まれていた魔水晶は魔原子爆弾『魃』と酷似していたこと。
魔原子爆弾とは、一言で表すととんでもないエネルギーを秘めた超威力の爆弾のこと。恐ろしいのは破壊力だけでなく、使用に伴って魔法射能という生物にとって有害な物質が放出されてしまう。
魔法射能は目に見えず、地表・固体・液体・気体などを汚染するため、体内に沈着すれば最悪の場合死に至る。
『その魔原子爆弾というものは、どれも爆発すると毒の雨を降らして大気を汚染するのか?』
「そうですね。爆発直後、魔原子雲っていう私達が飲まれかけた大きな雲が上空にできるんです。その中で巻き上げられた塵や煤が魔法射能と混ざって、黒色の雨として激しく降り注ぎます」
「2つの属性を持った爆弾ですか・・・被害は相当なものとなりそうですね」
「国のど真ん中でやれば余裕で滅ぶな」
幹部と統帥を収集して開かれた報告会でも、他のメンバーの反応は似たようなものだった。
「――その封じ込めた地雷は動かせるか?」
「いえ。他の地雷と同様に、一度セットしたら動かせません。私が起爆させるか、条件をつけない限りこの場に留まり続けます」
「完全に俺ら魔導士・・・どころか世界を殺すための兵器だ。何故そんな爆弾がマルドゥック魔法帝国科学者の中に・・・」
「――宝を守る為だろう。アルギー・シラクサの叡智という国宝を・・・あの男は爆弾という鍵で封じていたのだ」
「ロジオンの報告によると、シーグリッドは魔法射能の耐性があったらしいな。コルビーは即座に回復してるだけでダメージは負ってる。レヴェナントは魔物だから除外として・・・何故平気だったんだ?」
「私も、魔原子爆弾と魔法射能という言葉は今日初めて知った。似たものでもここまで高威力かつ危険な爆弾は見たことも聞いたこともない。説明してもらおうか――シーグリッド・トゥルース」
――うひぇぇ・・・。
ナンバー1幹部のアンシュッツ様と統帥の空気に圧倒され、私は早くも涙目で師匠に助け舟を求めた。
「分かった任せて。お2人がイラつかないように、師匠の私が簡潔に答えるね」
――師匠ーーー!愛してるーーー!!
「ソニアお前っ・・・弟子の前でも不遜なのな!俺らシーグリッドの兄ちゃんと父ちゃんじゃねんだけど!」
「まあまあ。幹部だけの事後報告会なんだしいいでしょ」
「お前なぁ!」
「よせダニイル。私も暇ではない・・・ではソニア。代わりに説明してもらおう」
「はい」
この異様な空気の中でも師匠の様子は変わらなかった。師匠は傘を閉じ、ゆっくり私に近づく。
「シーグリッドの魔法ってばり危険・・・凄く危険でしょ?」
「え。は、はい」
「そんな歩く兵器のシーグリッドが何故政府の監視下におかれずこうして悪の幹部をやってると思う?」
「それは・・・私がこの国の未来を担う美少女だからですか?」
「ブフッ!」
「否定はしないけど不正解だね」
――よかった・・・要らない子って言われたらどうしようかと思った。
数名私の答えを聞いて噴き出していたが見なかったことにした。




