第十話『好きな人?を陰ながら見守る日』
ハース様に近づき、恋する同士を見つけた嬉しさに思わず手を差し伸べた。
「(同じく難しい恋をしている身として)心の平穏を手にする為に頑張りましょう!しょーがないですねー。私はちゃんと奥手ビビりで友達少なそうなハース様の方を応援してあげます!」
「温厚な私でも終いには噴火しますよ。やはりレヴェナントを常時召喚させるか・・・」
「ええっ!」
――そ、それは私にとっても願ったり叶ったり!
『止めてあげろ。ソニア嬢が震えて縮こまっている』
レヴェナントさんに止められたハース様は憎々し気に舌打ちをし、私の手を握り返すことなく部屋を後にした。折角こっちから歩み寄ってあげようと思ってたのに!
――やっぱりハース様ムカつく!レヴェナントさんと師匠がいなきゃ絶対嫌ってた!
私は煮えたぎる感情を仕事にぶつけ、ハース様には遠慮してたまるかと心に誓ったのだった。
●~*
4日目は我らがナンバー1幹部。ダニイル・アンシュッツ様と組む日だった・・・が。
「何でハース様も?」
「それは私の台詞ですが?」
「おうおう空気悪ぃなー。俺ちゃんも混ぜてくれや!」
景気よく火花を散らせているところに割りこんで来たのは――ナンバー4のコルビー・マーフィー様だった。もう滅茶苦茶・・・。
アンシュッツ様は今日、急遽会議に参加することになった統帥の護衛に回っているらしい。よってまだ1人で任務に向かう段階ではない私は、ハース様とマーフィー様の任務に同行するよう命じられた。
今回の任務は北方地域にある国で開発された『堅固装置』の破壊。起動すると、あらゆる外部攻撃から守る壁が出現するっていう鬼凄い装置らしい。
「――では、改めて内容を確認します」
この中で一番偉いハース様が指揮を取る。関係ないけど最年長はマーフィー様だ。しかも18歳のハース様と年の差が一回りもあるらしい。
「我々の任務は3つあります。『設計図の焼失または強奪』と『開発者の生け捕り』は――どちらもマルドゥック魔法帝国研究塔にあるのでコルビーさんお願いします。強襲のやり方はどうぞよしなに」
「うーい」
サラッと難易度高めミッションを2つも課されたというのに・・・マーフィー様は気怠そうに返事をしてから大きなあくびをした。また徹夜でカジノにでも行ってたのかな。
――そんでハース様もマーフィー様の態度にちょっとイラッときてる・・・。
指摘したいが任務優先と己を律し、ハース様はこめかみをひくつかせつつも続ける。
「3つ目は『装置の破壊』。『堅固装置』は研究塔ではなく、マルドゥック魔法帝国城の見張り台にあります。これは私が向かいますが・・・」
「おっけー。あでもシーグリッドちゃんは何すんだ?サボりか?」
「任務書によると城には『4人の天守』っていう番人がいるんですよね?私の地雷で足止めするのはどうでしょうか!」
「おっ、ちゃんと任務書読んでんなー。てかそんな奴らいるんだ」
――お前は読んでないんかい!
とは言えず、やる気に満ちた瞳を向けると・・・ハース様は私を一瞥し、心底面倒くさい。といった顔をした。
「6番目の手を借りるまでもない。貴女は適当に城の外で待機してくれて結構です」
――なんだお前ぇやんのかアァン!?
「暇なら俺ちゃんの方手伝って・・・」
「雑魚警備とヒョロガリ研究員担当のマーフィー様はともかく、いくらハース様でも1人で『4人の天守』を相手するのは厳しいんじゃないですかぁ?」
「いや俺も楽したい・・・」
「私は1人ではありません」
ハース様はステッキを振り愛しのレヴェナント様を召喚した。心の中で大喝采をあげたのは言うまでもない。
「うわ出たー。『デイザスター』だっけ?相変わらずキモイ見た目してんな!」
『・・・』
――は??何言ってんだコイツ!?
師匠が言っていた通り、マーフィー様はレヴェナントさんに醜悪というレッテルを貼っていた。しかしそれは本気で嫌悪しているという訳ではなく・・・悪い冗談として言っているんだなと思った。業腹なことに変わりはないけどね!
「一言多いんですよ・・・また痛風になる呪いをかけて差し上げましょうか?説明は以上です。各自持ち場についてください」
「あーあれな!まーじで辛かったんだぞおい!相変わらず陰湿だよなぁ。シーグリッドちゃんもどうだ?コイツ昔っからこんな感じなんだよ。いじめられたら遠慮なくこのマーフィー様に泣きついていけ?ま、その分しっかり対価はもらうがなぁ!」
「あ、ハイ」
まぁこんな感じの人だ。組織一下卑た笑顔が似合う男である。口に出す言葉は我慢しないし欲望に忠実。借りを作った相手には必ず何かしらの見返りを求めることで有名だ。
――相変わらず清々しいクズっぷり・・・ど真ん中すぎて悪役幹部としては100点じゃない?
暴虐無人なマーフィー様と唯我独尊のハース様。シンプルに最低な2人は一応上司でもある。私が背中を追い続け手本にし、尊敬の対象となる『上司』。彼らの振る舞いや言動は時に鏡となり、この組織での『模範』が頭の中で構築されていく。
――私に待機って命令を出したのは・・・万が一2人がピンチになった時すぐ動けるようにと、仮に新手が来た場合、その援護を食い止めること。かな。
本当に置いてかれてしまい、私は1人腕を組んで思惟にふけっていた。
――元々あの2人でやる任務だったんだし、私がいても特にさせることがない・・・。というかハース様もマーフィー様もワンマンプレー派だから私がいても共闘とか無理だろうし。
かく言う私もチームプレイでの戦闘は苦手だ。こういう時に罪の意識が薄れる私の魔法最大の特徴である『無差別性』が枷となってしまう。
――せめて感圧起爆モードにしてある地雷が味方にも視認できたらいいんだけど・・・それか味方に爆破耐性を付与するとか・・・でも怪我しなくても隙は生まれちゃうよね。うーん。
風で頬に張り付いた髪を取ると、師匠からもらった例のピアスが指に触れた。
――そうだすっかり忘れてた。今の私には・・・!
吊り上がる口角を手で隠し、興奮で昂る感情のままスニーキングを開始した。そして数分後。
――はぁぁぁ・・・レヴェナントさんカッコいい・・・好き・・・!
私は柱の陰に隠れてレヴェナントさんの勇姿を凝視していた。これは決して覗き見なんかじゃない。好き且つ憧れている人の戦いぶりを観察し、参考にする為にやっているんだ。そうだそうだ。
ここは『堅固装置』がある見張り台。そこで『4人の天守』とハース様とレヴェナントさんが絶賛バチバチドッカンバトル中だった。
――ら、乱戦すぎる・・・し、大口叩いてただけあるな。ちゃんと敵1人1人に魔物や魔獣がついてる。敵もハース様本体を叩けばいいのは分かってるけど、相手が強すぎて手こずってる感じ・・・。何ならレヴェナントさんの相手はもうそろ倒れそうだし。
「――解析が終わったようです。そろそろ終わらせましょう」
『分かった』
脳内で擬人化したレヴェナントさん(ワイルド美丈夫バージョン)が飛ぶ斬撃を放ち、敵全体に連続ダメージを与える。どうやら防御無視の無属性攻撃のようだった。
――つっ強おおおお・・・・!敵が一撃で倒れて終わった・・・あっと言う間じゃん。
『4人の天守』という仰々しい名の割には全然大したことなかった。ハース様も『口ほどでもないですね』と冷笑を飛ばしている始末。それを油断と捉え、『4人の天守』紅一点である女性魔導士が怒りに顔を歪ませて襲い掛かった。
「おのれ・・・!貴様だけは生きて帰さん!」




