プロローグ『終わりが始まりに変わった日』
「・・・ぁ、ぁっ・・・」
その日が私の命日だった。
数秒前まで洞窟の手前に群生しているイシタケというキノコを収穫していただけだったのに。
強い魔力と低い唸り声に気づいた瞬間、私は洞窟の奥深くまで引きずり込まれてしまった。
生まれつき夜目が利く自分を呪い、大声で叫ぶ。もっと夜間視力が低ければ――見たこともない大きな魔物が、複数の目と口をこちらに向けている状況に気付かなかったのに。
私の死は発端に過ぎない。それがあることで村人に情報が行き渡り、やがて魔法特務機関の人達にこう説明することになるだろう。
『私が住む村には、少し歩いたところに大きな洞窟があります。そこに突然、危険な魔物が住み着いてしまったのです――』と。
湧き上がる感情は恐怖と絶望と無力感だけ。10年しか生きていない私では、元から備わっている魔力など宝の持ち腐れだった。
――どうして、誰か。誰か・・・嫌だ嫌だ嫌だ!!
私が最初の犠牲者。人の味を覚えた魔物は後に『デイズペア』と名付けられ、村の人々を襲う未来が待っている――これは、死後の世界で聞かされたどうでも良い情報だった。
幸いでも何でもないが、魔物は一気に口の中に入れた。何回かに分けて食べるタイプのグルメな魔物だったら、私は最悪も最悪な終わりを迎えていたと思う。口内は湿っぽくて生暖かく、嫌な臭いが充満していた。不快感に顔をしかめたその時、上下に生えている鋭い歯が私を咀嚼した。
私の名前どころか――『デイズペア最初の被害者』という説明文ですら歴史書に残りはしない。私はただの脇役。家族という狭いコミュニティの中でも立場が弱かった私には――見合った結末なのだと悟る。
「――その未来。『世界』の為に変えさせてもらうね」
空耳が聞こえ、最期に見た光は――破裂音と共に赤黒い液体で塗り潰されてしまった。