影の集い
紅月の鍵の新たな力に目覚めた真奈は、試練の地を突破。だが、旅の行く手には未だ多くの謎と試練が待ち受けている。旅路を再開した一行は、魔王の残滓が魔界に暗い影を落としていることを知る。
◇
霧の立ち込める薄暗い森を進む真奈たち。紅月が夜空に沈みかけ、朝が近づくにつれ周囲は一層静まり返っていた。
「何だ、この異様な静けさは……。」
ラザールが辺りを見回し、険しい顔をする。
イグナスも剣に手を掛けつつ笑みを浮かべた。
「こういう時は、何か嫌なものが出てくるのが常だよな。」
真奈は少し怯えながらも前に進もうと意を決する。
「でも、立ち止まってたら進めないよね。先に行こう!」
その勇気ある言葉に、ラザールは小さく微笑み、イグナスは肩をすくめて言った。
「頼もしいな、お姫様。」
しかし、その直後、森の奥から低い唸り声が響き渡った。一行は緊張を走らせる。
◇
唸り声に導かれるように進むと、霧の中に黒い影が浮かび上がった。複数の人影が現れ、その中心には一際異様な雰囲気を纏った男が立っていた。
「よそ者か……珍しいな、この地を踏むとは。」
男は不敵な笑みを浮かべ、真奈たちを値踏みするように見つめた。
「お前たちは何者だ?」
ラザールが低い声で問う。
男はゆっくりと一歩踏み出し、赤黒い外套を翻した。
「我らは『影の集い』。魔界に遍く影を纏い、真実を探る者たちだ。」
「影の集い……?」
真奈はその名に聞き覚えがなかったが、その不穏な雰囲気に身震いする。
「紅月の鍵を持つ者よ。」
男は真奈を見据え、微笑んだ。
「貴様が噂の少女か。我らが主もその存在を注視している。」
「主……?」
ラザールは目を細め、剣の柄を握りしめる。
男は肩を揺らして笑った。
「この先で分かるだろう。だが、その力が真に魔界の救いとなるか、それとも破滅を招くか……。」
彼らはそれ以上のことを語らず、霧の中に消え去った。
◇
その場に残された一行は、しばし沈黙を保った。
「影の集い……聞いたことがある。」
イグナスが難しい顔で呟く。
「奴らは古くから魔界にいる謎の集団だ。権力にも属さず、ただ影から動いている。」
「俺も名前しか知らないが、危険な存在であることは確かだ。」
ラザールが真奈を守るように立ち位置を変える。
「私が……何か悪いことをしたのかな?」
真奈は俯き、震える声で言った。
「違う。」
ラザールは即座に否定した。
「お前の存在が魔界にとって大きな意味を持つからこそ、彼らは注目している。それだけだ。」
イグナスは苦笑しながら言葉を続けた。
「まあ、あんまり深く考えるな。俺たちはお前を守る。それだけさ。」
◇
不安を抱えながらも旅を続ける一行。森を抜けると、そこには広大な廃墟が広がっていた。
「ここは……。」
真奈は息を呑む。
「『灰の宮』だ。」
ラザールが口を開いた。
「かつて、紅月の力を巡る争いで滅びた王族の居城とされている。」
「居城って、ここに何かがあるの?」
真奈が問うと、ラザールは慎重な表情で頷いた。
「その可能性はある。だが、ここに近づく者は皆、何かに囚われて戻らないと聞く。」
「それでも進むんだろ?」
イグナスが軽く笑いながら言った。
「俺たちはそういう連中だからな。」
廃墟の中央に進むと、そこには奇妙な祭壇があった。周囲には古代文字が刻まれた石碑が立ち並び、不気味な光を放っている。
「これは……紅月の力に関係があるの?」
真奈が石碑に触れると、突然光が弾けた。
「気をつけろ!」
ラザールが真奈を引き戻した瞬間、石碑の間から黒い霧が立ち昇り、巨大な影が現れた。
◇
影はゆっくりと形を取り、巨大な獣の姿を現した。その目は血のように赤く光り、一行を睨みつけている。
「また面倒な相手だな……。」
イグナスが剣を抜き、構える。
「この影は、紅月の力に反応している。」
ラザールが冷静に状況を分析する。
「おそらく真奈の力を試す存在だ。」
「私の……?」
真奈は怯えながらも鍵を握りしめた。
「お前ならできる。」
ラザールが真奈を見つめ、力強く言った。
「お前の心が鍵を導く。俺たちが後ろで支える。」
その言葉に勇気をもらった真奈は、鍵を高く掲げた。鍵が紅い光を放ち、獣の影と対峙する。
「怖くない……怖くなんかない!」
真奈の声が響き渡り、光が一層強くなる。
光と影の激突が起こり、周囲は閃光に包まれた。
◇
光が収まると、獣の影は消え去り、祭壇には一冊の古びた書物が現れた。
「これは……?」
真奈が手に取ると、そこには古代文字で何かが記されていた。
「紅月の鍵に関する記録だ。」
ラザールが書物を手に取り、静かに読む。
「おそらく、次に進むための手がかりが記されている。」
真奈はその書物を見つめ、強く決意した。
「もっとこの鍵のことを知って、魔界の未来を変える手助けをしたい。」
ラザールは微笑み、優しく真奈の肩に手を置いた。
「お前ならできる。そのために俺たちがいる。」
◇
紅月の鍵の秘密に迫るため、真奈たちは新たな目的地へと旅立つ。
しかし、記録に記された真実が、彼らをさらなる危機へと誘うことになる——。




