帰るべき場所
試練の地で最初の魔王と相対した真奈たち。紅月の力に目覚めた真奈は、その覚醒を試されながらも新たな鍵の力で魔王の試練を乗り越えることに成功した。しかし、魔王の謎めいた言葉が残した余韻は、次なる試練への不安を掻き立てる。
◇
深紅の神殿を抜け出し、荒野に佇む真奈たち。夜空には紅い月が輝き、冷たい風が彼らの身体を包んでいた。
「全員無事か?」
ラザールが周囲を見回し、安堵の息を漏らす。
イグナスは剣を鞘に収めながら、疲れた表情で肩をすくめた。
「無事かどうかって? まあ、生きてるだけマシだろう。だが……あれ、ほんとに魔王だったのか?」
真奈は黙ったまま、手の中の新たな鍵をじっと見つめていた。その鍵は、紅月の光を映したように穏やかに輝いている。
「真奈、大丈夫か?」
ラザールが心配そうに声をかける。
「うん……でも、何かおかしいの。」
真奈は不安そうに顔を上げた。
「この鍵……強くなった気がするけど、まだ何かが足りない感じがする。」
ラザールはしばらく考え込んだ後、真奈の肩に手を置いた。
「鍵の力はお前の心と繋がっている。これ以上追い詰める必要はない。今は休むべきだ。」
イグナスが軽く笑いながら口を挟んだ。
「そうだな。俺たちも疲れたし、まずは安全な場所に戻ろうぜ。」
◇
一行は荒野を抜け、近くの集落に辿り着いた。魔族の住人たちが疲れた旅人を温かく迎え入れ、小さな宿で休むことになった。
真奈は柔らかなベッドに横たわり、天井を見つめながら思いを巡らせていた。
「紅月の力……本当にこれでいいのかな……。」
思わず呟いた言葉に、ラザールが部屋のドアを静かに開けて入ってきた。
「まだ眠れないのか?」
真奈は顔を向けると、心配そうな彼の表情に安心したように微笑んだ。
「ちょっとだけ、考え事をしてた。」
ラザールはベッドの横に腰掛け、窓から外を見上げた。空には紅い月がぼんやりと輝いている。
「紅月は魔界にとって特別なものだ。その力を扱えるお前は、魔界全体にとって希望でもあり、恐れられる存在にもなり得る。」
「恐れられる……?」
真奈は驚きの表情を浮かべた。
ラザールは頷き、静かに続けた。
「力を持つ者は必ずしも歓迎されるわけではない。だが、それでもお前がここにいることに意味があると信じている。」
真奈はラザールの言葉に勇気をもらいながら、力強く頷いた。
「ありがとう、ラザール。私、もっと強くなるよ。」
◇
翌朝、一行は宿の外で集落の住人たちと話をしていた。
「この先の道には行かないほうがいい。」
集落の長老が険しい顔で忠告した。
「紅月が現れる夜には、何かが目覚めると昔から言われている。」
「何か?」
イグナスが興味深げに身を乗り出す。
長老は静かに答えた。
「魔王の残滓だ。彼が完全に復活することはないと信じているが、その影響が残っているのだろう。」
ラザールは腕を組み、難しい表情を浮かべた。
「残滓……奴の影響が魔界全体に及んでいる可能性があるな。」
真奈は不安そうにラザールを見上げた。
「私たちがこの鍵の力を使えば、その残滓も消せるのかな?」
「鍵の力は万能ではない。」
ラザールは慎重に言葉を選びながら答えた。
「だが、お前の心が鍵を導く限り、何かしらの答えは見つかるはずだ。」
◇
その夜、真奈は再び紅月の光を浴びながら鍵を手にしていた。
「何かが足りない……それが何か分かれば……。」
その時、不意に鍵が淡い光を放ち始めた。その光が周囲を包み込み、真奈は夢のような不思議な空間に引き込まれた。
そこには優しい光に満ちた世界が広がっていた。遠くから声が聞こえる。
「あなたは誰……?」
真奈が問いかけると、光の中から一人の女性が現れた。その姿はどこか真奈に似ていて、懐かしい雰囲気を漂わせている。
「私はかつての鍵の継承者。あなたに伝えたいことがある。」
真奈は目を見開き、その声に耳を傾けた。
「伝えたいこと?」
女性は静かに頷き、優しく微笑んだ。
「紅月の鍵の真の力は、他者と繋がる心にある。その繋がりが力を引き出し、魔界を救う道を示すのです。」
真奈はその言葉を胸に刻み、光が消えるとともに現実の世界に戻った。
◇
翌朝、真奈は仲間たちの前で力強い決意を表明した。
「私、この鍵の力をもっと理解して、みんなを守る方法を見つけたい。だから、もっと先に進もう!」
ラザールは真奈の覚悟に満ちた瞳を見つめ、深く頷いた。
「分かった。俺もお前を信じて共に進む。」
イグナスは肩をすくめて笑った。
「まったく、頼もしいお姫様だな。でも、俺たちに置いてかれるなよ?」
こうして一行は再び旅路に出る。紅月の光が照らす未来を信じて。
◇
だが、旅の途中、謎めいた集団との遭遇が真奈たちを襲う。
彼らの目的とは何なのか?紅月の鍵が再び揺さぶられる新たな試練が幕を開ける——。