ゼフィルの野望
影喰らいの塔で発見した石碑から、真奈の「紅月の鍵」と魔界の歴史に深い繋がりがあることが明らかになった。一行は石碑の情報を手掛かりに、ゼフィルの目的地とされる「終焉の裂け目」へ向かう。しかし、その道中、真奈たちの前にさらなる試練が待ち受けることに——。
◇
塔からの帰路、一行は魔界の荒野を進んでいた。冷たい風が吹きすさび、紅い月が薄雲に隠れて明るさを失っている。真奈は背負う使命の重さに胸を押し潰されそうになりながらも、必死に歩を進めていた。
「……ねえ、ラザール。」
真奈はその重苦しい沈黙を破るように口を開く。
「ゼフィルって、何をしようとしてるの?」
ラザールは真奈を一瞥し、しばらく考え込むように歩みを止めた。そして、静かに口を開く。
「ゼフィルが追い求めているのは、『魔界の再生』だと聞いている。だが、その方法が問題だ。」
「方法?」
「彼は"紅月の鍵"を使い、封印されし力を解放しようとしている。その力は確かに魔界を救うかもしれない……だが、同時に魔界そのものを滅ぼす可能性もある。」
イグナスが軽くため息をつき、肩をすくめた。
「まあ、平和のために全てを犠牲にしようってヤツは、どこにでもいるもんさ。」
「それって……」
真奈は拳を握りしめた。
「ゼフィルは、魔界のためだって言いながら、本当に滅ぼしてしまうかもしれないってこと?」
ラザールは頷き、険しい顔をする。
「だからこそ、奴を止めなければならない。」
その時、遠くから不気味な叫び声が響いた。
「敵だ!」
イグナスが即座に剣を抜き、ラザールも身構える。
暗闇の中から現れたのは、無数の魔物の影。ゼフィルの操る軍勢だった。
「真奈、下がっていろ!」
ラザールが指示を飛ばす。
「でも——」
「守りを固めろ!」
真奈は言葉を飲み込み、紅月の鍵を構える。自分の力を完全に制御する自信はまだなかったが、恐れている場合ではなかった。
◇
魔物の群れは、風のように速く、一行に襲いかかる。ラザールとイグナスは見事な連携で次々と敵を倒していくが、敵の数は一向に減らない。
「真奈、頼むぞ!」
イグナスが叫びながら、迫りくる魔物を剣で薙ぎ払う。
「うん!」
真奈は紅月の鍵を掲げ、力を解放した。光の奔流が魔物たちを貫き、一時的に戦況を優位にしたかのように見えた。
しかし、その光に反応するかのように、さらに強大な敵が姿を現した。それは、全身を漆黒の鎧で覆った巨大な魔物だった。
「何だ、あれは……!」
真奈の声が震える。
「"深淵の守護者"か……厄介なヤツが出てきたな。」
ラザールが剣を握り直し、前に出る。
「イグナス、真奈を守れ。こいつは俺がやる。」
「おいおい、無茶するなよ!」
「命令だ。」
ラザールの言葉にイグナスは一瞬口をつぐみ、その後真奈に向き直った。
「俺たちで援護するぞ。」
「……分かった!」
◇
ラザールは深淵の守護者と対峙し、目を光らせた。
「ゼフィル、お前がこんな手を使うとはな……。」
守護者は重い斧を振り下ろし、地面を割るような衝撃を与えてきた。ラザールは素早く動き、間一髪でその一撃をかわす。
「さすがに手強い……だが!」
彼は剣に力を込め、一撃を繰り出す。しかし、守護者の鎧は尋常ではない強度で、剣は表面をかすめるだけだった。
「くそ……!」
真奈はそんなラザールの姿を見て、いてもたってもいられなくなった。
「私も手伝う!」
「真奈、ダメだ!」
イグナスが彼女を引き留めようとするが、真奈は鍵を握りしめ、ラザールに向かって叫んだ。
「私だって戦える!一緒に戦わせて!」
ラザールは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに頷いた。
「……ならば、俺の後ろから援護しろ。無茶はするな。」
◇
真奈の放つ紅月の力と、ラザールの剣技が見事に噛み合い、ついに深淵の守護者を追い詰める。
「これで終わりだ!」
ラザールが渾身の一撃を放ち、守護者の鎧を貫いた。巨大な魔物は苦しげな咆哮を上げ、ついに消滅する。
しかし、その瞬間、守護者が放った最後の攻撃がラザールをかすめた。
「ラザール!」
真奈は駆け寄り、彼の傷を見て目を見開いた。
「大したことはない。」
彼は立ち上がり、剣を杖代わりにして歩き出す。
「だが、急がなければ……ゼフィルに追いつけなくなる。」
◇
戦いの傷を癒す間もなく、一行は「終焉の裂け目」を目指して進む。そこでゼフィルが何をしようとしているのか、未だ分からない。しかし、真奈は確信していた。
(ゼフィルを止めなきゃ……魔界が滅びる前に。)
紅い月が再び雲間から顔を出し、その光が一行を照らしていた。次の戦いが、彼らを待ち受けている。
◇
ゼフィルの目的地に辿り着いた一行。
しかし、そこに待っていたのは、彼の壮大な野望と、真奈自身に関わる衝撃の真実だった。




