裏切り者の真実
フェリスとの激闘の末、ラザールと真奈は辛くも勝利を収めるが、フェリスは煙幕を使いその場から姿を消した。彼が口にした「ゼフィルの真の目的」とは何か。戦いの余韻が冷めない中、3人は魔界の深い闇へと足を踏み入れる——。
◇
ラザール、イグナス、そして真奈の一行は、森を抜け小高い丘に辿り着いた。遠くに見える赤く染まった空と、不気味に輝く紅い月。真奈はその光景に慣れてきたものの、今夜はどこか胸騒ぎを覚えた。
「真奈、あまり考え込むなよ。」
イグナスが薪を組みながら声をかける。
「さっきのお前の判断、悪くなかった。」
「でも……私が力を使わなかったら、もっとスムーズに終わってたかもしれない。」
「おいおい、フェリス相手にあれだけやれたんだ。むしろ上出来だろ。」
イグナスが軽く笑う一方で、ラザールは黙って剣を磨いていた。
「ラザール……」
真奈が躊躇いながら声をかけると、彼は顔を上げた。
「何だ。」
「……私、本当に役に立ててるのかな。いつも助けられてばかりで……」
ラザールは少しの間黙り込んだが、やがて小さく首を振った。
「お前は俺たちの力になっている。さっきの光がなければ、フェリスを追い詰めることはできなかった。だが……」
彼は言葉を選ぶように続けた。
「もっと自分の力を制御できるようになれ。あれは諸刃の剣だ。」
その厳しい言葉に真奈は一瞬たじろいだが、ラザールの目が彼女を真っ直ぐ見据えているのを感じた。
「……分かった。もっと頑張る。」
真奈の決意がにじむ言葉に、ラザールは微かに頷く。
◇
翌朝、一行は次なる手がかりを求めて、魔界でも最古の遺跡とされる「影喰らいの塔」へ向かうことにした。この塔には、魔界の歴史や封印に関する重要な情報が保管されていると言われている。
「この塔には、ゼフィルが何を目指しているのかを知る手がかりがあるかもしれない。」ラザールが前を歩きながら言う。
「だが、塔そのものが罠だらけだ。油断するな。」
イグナスが真奈を振り返り、にやりと笑う。
「そういうこった。足を滑らせたら、底なしの闇に真っ逆さまだからな。」
「ちょっと!そんな怖いこと言わないでよ!」
真奈が抗議するが、彼の冗談に微笑みが漏れる。緊張の中にも少しだけ和やかな空気が流れた。
◇
塔の入口に辿り着いた一行を迎えたのは、荘厳でありながらどこか朽ち果てた巨大な門だった。彫刻された魔族の紋章には、かつてこの地が栄えた王国の威厳が刻まれている。
「ここだ。」
ラザールが低く呟き、門を押し開ける。中からは冷たい空気と共に、魔力の気配が漂ってきた。
塔の中は異様な静けさに包まれており、壁には無数の古代文字が刻まれていた。
「これは……『封印の記録』だな。」
イグナスが壁を指さす。
「ゼフィルが追っている力と関係してるかもな。」
真奈は壁の文字を眺めながら、ふと奇妙な感覚に襲われた。頭の中に、不思議な言葉が響いてくるような気がしたのだ。
("目覚めを告げよ、赤き月の巫女よ"……?)
「真奈、どうした?」
ラザールの声にハッとして、真奈は慌てて首を振る。
「ううん、なんでもない。」
だが、その違和感が次第に強まり、真奈は塔の奥へと足を進めたくなる衝動を抑えられなかった。
◇
塔の最深部に到達した一行は、巨大な石碑を発見する。そこには、魔界の創生と「紅月の巫女」に関する伝説が刻まれていた。
「ここに書かれているのは……過去の戦争か?」
イグナスが文字を追いながら呟く。
ラザールが目を細め、石碑に触れる。
「いや、それだけじゃない。"紅月の鍵"を持つ者が、魔界の命運を握ると記されている。」
真奈が驚いて振り返る。
「私のこと……?」
ラザールは真奈を見つめ、重々しく頷く。
「お前の力は、ただの偶然じゃない。この地の歴史に刻まれた運命だ。」
だが、その時、突然塔全体が揺れ始めた。
「何だ?!」
イグナスが剣を抜き、周囲を警戒する。
石碑の前に立つラザールが険しい表情で言った。
「奴らだ……ゼフィルが仕掛けてきた。」
すると、闇の中から無数の影のような魔物が現れ、一行を襲撃し始めた。
◇
ラザールとイグナスが次々と魔物を斬り伏せる中、真奈も紅月の力を使って応戦する。
「真奈、その光を制御しろ!」
ラザールが指示を飛ばすが、真奈はまだ完全に力をコントロールできず、放つ光が暴走しそうになる。
「くっ……!」
真奈が苦悶の表情を浮かべると、イグナスが彼女を援護しながら声をかけた。
「おい、しっかりしろ!お前がこの場を守るんだ!」
「……うん!」
真奈は深呼吸し、自分の内側にある力を感じ取ろうとする。そして、紅月の鍵を掲げ、魔物たちを一掃する光を放つことに成功する。
◇
戦いが終わり、塔は再び静寂を取り戻した。
「見事だった、真奈。」
ラザールが真奈に近づき、紅月の鍵を見つめる。
「お前の力が、俺たちを救った。」
真奈は疲れた表情で微笑みながら答える。
「でも、まだまだコントロールできてないよ……もっと練習しないとね。」
イグナスが苦笑しながら肩を叩く。
「お前は大したもんだよ、真奈。俺たちの未来の希望だな。」
その言葉に照れながらも、真奈は強い決意を胸に秘める。
「ゼフィルの目的が何であれ、私も負けないよ。」
紅い月が静かに照らす中、一行は塔を後にし、次なる戦いに備えるのだった。
◇
塔で得た情報を元に、ゼフィルの拠点に迫る一行。
だが、待ち受けるのは絶望的な罠と、魔界の未来を揺るがす衝撃の事実だった——。