約束の地へ
紅月の巫女として覚醒した真奈は、ルナリエから「紅月の力」を完全に解放する道を選び、魔界の未来を賭けた戦いへ臨むことを決意した。犠牲を伴う選択に迷いながらも、ラザールとイグナスの支えを受け、真奈は力強く前を向く。そして、次なる目的地「約束の地」に向けて旅を再開する。
◇
次の目的地となる「約束の地」は、魔界の北方にある広大な荒野の中心に位置していた。そこには、古の魔族が残した「盟約の塔」がそびえ立つと伝えられている。この地は、紅月の力をさらに引き出すための重要な場所であり、同時に危険な罠が待ち構えているとも言われていた。
旅の途中、三人は小さな森で休息を取る。焚き火を囲む中、イグナスがふざけるように笑いながら口を開いた。
「しかし、真奈、お前もずいぶん肝が据わってきたな。初めて会った時は怯えてばかりだったのに。」
「そうだっけ……?」
真奈は少し照れながら、イグナスの言葉を思い返す。
「覚えてるさ。俺に剣を向けられたとき、泣きそうな顔してラザールにしがみついてたじゃないか。」
「ちょっと!そんなこと言わないでよ!」
真奈の抗議に、ラザールが苦笑しながら口を挟む。
「それは俺も覚えているな。もっとも、今のお前はもう、そんな弱い少女じゃない。」
「ラザール……」
真奈の顔が赤くなり、焚き火の明かりがさらに彼女の表情を照らし出す。ラザールの言葉には、ただの慰めではなく、彼女を信じる真剣な思いが込められていた。
「真奈。」
ラザールは静かに言葉を続ける。
「これから向かう約束の地では、俺たちもお前も、これまで以上に過酷な試練に直面するだろう。それでも、お前が選んだ道を支える。それが俺の役目だ。」
「ありがとう……ラザール。」
真奈は小さく頷きながら、ラザールの言葉を胸に刻み込む。そして、イグナスが軽く肩を叩きながら笑う。
「おいおい、感動的な雰囲気になるのはいいが、俺を忘れるなよな。真奈、何があっても俺もお前の味方だ。」
「うん、ありがとう、イグナス!」
三人の絆がさらに深まる中、焚き火の炎が静かに揺れていた。
◇
翌朝、彼らは魔界の北方へと続く険しい道を進み始めた。荒涼とした大地には冷たい風が吹き荒れ、空には黒い雲が広がる。不穏な雰囲気の中、真奈は紅月の鍵を握りしめながら足を進めた。
「ここが北方の荒野……予想以上に寒いね。」
真奈が呟く。
「ここは魔界でも過酷な場所だ。特に約束の地は、魔界の力が渦巻いている場所だからな。」
ラザールが険しい表情で答える。
突然、風の中に何かが動く気配がした。
「何か来るぞ!」
イグナスがすかさず剣を構える。
次の瞬間、地面から黒い霧のようなものが湧き上がり、それが形を成していく。現れたのは巨大な狼のような魔獣だった。
「侵入者を排除せよ……」
低い声が荒野に響き渡る。
◇
魔獣の咆哮が轟き、地面が震える。ラザールとイグナスが即座に前に出て、真奈を守るように構えた。
「真奈、下がれ!」
ラザールが鋭い声で指示を飛ばす。
「でも……私も戦える!」
真奈は躊躇いながらも紅月の鍵を掲げた。その瞬間、鍵が赤い光を放ち、真奈の体に力が流れ込むのを感じた。
「その力、まだ完全に制御できていないだろう!」
ラザールが焦った表情を見せるが、真奈は一歩も引かない。
「大丈夫……もう弱いままじゃいられない!」
ラザールとイグナスが魔獣と激しく戦う中、真奈は鍵の力を集中させ、魔獣の動きを封じる魔法を発動した。
「これで動きを止める!」
赤い光が魔獣を包み込み、その体を硬直させる。しかし、その力は真奈の体力を大きく削るものだった。
「真奈、無理するな!」
ラザールが魔獣に止めを刺しながら叫ぶ。
「大丈夫……みんなが守ってくれるって信じてるから。」
真奈は微笑みながら、倒れる魔獣を見つめた。
◇
魔獣を倒した三人は、ついに「約束の地」にたどり着いた。そこには、古びた石造りの塔がそびえ立っており、紅い光が塔の頂上から放たれている。
「ここが……盟約の塔。」
真奈はその威圧感に息を呑む。
「ここで紅月の力をさらに高める儀式を行うことになる。」
ラザールが説明する。
「だが、その前にまた試練が待ち受けているはずだ。」
イグナスが周囲を警戒しながら付け加えた。
真奈は塔を見上げながら、再び強く決意を固めた。
「どんな試練でも、乗り越えてみせる。この力を、魔界の未来のために使うんだ。」
ラザールとイグナスがそんな真奈の背中を頼もしく見守りながら、三人は塔の内部へと足を踏み入れるのだった。
◇
盟約の塔に隠された秘密とは?真奈たちの前に立ちはだかる守護者の正体が明かされる。
果たして彼らは試練を乗り越えることができるのか——。