紅月の選択
紅月の神殿で巫女としての力を覚醒させた真奈は、新たな力を手に入れる。しかし、その力は魔界を救う希望であると同時に、大きな代償を伴うものであることが示唆される。真奈、ラザール、イグナスの三人は次の試練の場へと進むが、彼らを待ち受けるのはさらなる運命の選択だった。
◇
光の道を歩む真奈、ラザール、イグナスの三人。その先に広がっていたのは、幻想的な空間だった。星空のような天井には無数の光の粒が瞬き、足元には鏡のように澄んだ湖面が広がっている。
「ここが……次の試練の場か?」
イグナスが呟きながら周囲を見渡す。
「雰囲気は穏やかだが、油断するな。」
ラザールが鋭い目つきで警戒する中、真奈は何かに導かれるように湖の中央へと歩みを進めた。
「真奈?」
ラザールが声をかけるが、真奈は立ち止まらない。その瞳には強い意志が宿っている。
「待って、何か聞こえる……」
真奈は立ち止まり、耳を澄ませた。
その瞬間、湖面が波立ち、空間にひび割れが走るようにして現れたのは一人の女性だった。
◇
女性は長い銀髪を持ち、その姿はどこか真奈に似ている。柔らかな微笑みを浮かべながら、真奈に語りかけた。
「ようこそ、紅月の巫女。私はルナリエ、この世界の意思を司る者。」
「この世界の……意思?」
真奈が困惑するように尋ねる。
「そう。魔界を紡ぐ生命の根源にして、紅月の本質そのものと言っていいわ。」
ルナリエの言葉に、ラザールとイグナスも警戒を強める。
「お前がこの試練の主か?」
ラザールが剣を握りしめる。
「落ち着いて、ヴァルディアの王子。私は争うつもりはないわ。」
ルナリエは静かに手を広げた。
「ただ、真奈に選んでもらいたいの。」
「選ぶ……?」
真奈は戸惑いながらも、一歩前に進む。
「紅月の力は、魔界を救う希望であると同時に、世界を壊す力でもある。それを使うかどうかは、すべてあなたの意思に委ねられているのよ。」
◇
ルナリエは手をかざし、湖面に映像を映し出す。それは、紅月の力が暴走し、魔界全土を覆い尽くす凄まじい光景だった。大地は裂け、魔族たちは悲鳴を上げ、すべてが光に飲み込まれていく。
「これは……!」
真奈が息を呑む。
「もし紅月の力を完全に覚醒させれば、魔界を再生させることができるでしょう。でも、その過程で多くの命が失われる危険も伴うわ。」
「そんな……」
真奈の顔が青ざめる。
「逆に、その力を封じれば、魔界の現状を維持することはできるけれど、長い時間をかけて滅びに向かう可能性が高い。」
ルナリエの声はどこまでも穏やかだったが、その内容はあまりにも残酷だった。
「じゃあ、どっちを選んでも……」
真奈は涙ぐみながら唇を噛む。
「そう、どちらも簡単な道ではない。それでも、あなたが決めなければならない。」
◇
「待てよ!」
ラザールが一歩前に出る。
「なぜ真奈だけにそんな選択を押し付ける?これは魔界全体の問題だろう!」
「彼女が紅月の巫女だからよ。」
ルナリエは冷静に答えた。
「でも、あなたたちも彼女を支える存在。だから意見を述べるのは自由よ。」
ラザールは歯を食いしばりながら真奈を見た。
「真奈、俺たちも一緒だ。どんな選択をしても、俺はお前を守る。」
「俺もだ。」
イグナスが続ける。
「難しい選択だろうが、真奈ならやれる。」
二人の言葉に真奈は涙をぬぐい、静かに頷いた。そして、目の前のルナリエを見つめる。
「私は……決めました。」
◇
真奈は紅月の鍵を強く握りしめた。
「この力を完全に使うことが、たとえ多くの犠牲を生むかもしれなくても……私は魔界を救うために戦います!」
その言葉に、ラザールとイグナスは驚きながらも誇らしげに頷いた。
「そうか。」
ラザールが微笑む。
「なら、俺たちもその道を共に進むだけだ。」
「よし、やるしかないな。」
イグナスも剣を構える。
ルナリエは満足げに頷き、湖面が再び光に包まれる。
「あなたの決意、しかと受け止めたわ。紅月の巫女、これからの試練も乗り越えて。」
光が消えた瞬間、三人は元の神殿へと戻っていた。しかし、真奈の手には新たな力が宿った鍵が握られていた。
◇
紅月の巫女として真奈が選んだ道。それは新たな戦いの始まりを告げるものだった。
果たして彼女たちは魔界を救えるのか——。