巫女の覚醒
紅月の神殿で守護者バルフォルとの試練を乗り越えた真奈は、ついに巫女としての力を片鱗ながらも発揮する。試練を終えた彼女の前には、さらに深い謎が待ち受けていた。そして、神殿の奥へ進むと、そこに待ち構えていたのは、紅月の真実とさらなる試練だった。
◇
紅月の光に包まれた神殿の奥。真奈、ラザール、イグナスの三人は、崩れそうな通路を慎重に進む。石壁には複雑な魔法の紋様が輝き、真奈の持つ「紅月の鍵」に反応して淡く光っている。
「ここが最奥だな……気を引き締めろ。」
ラザールが低い声で告げた。
真奈は頷き、鍵を握りしめた。これまでの道のりで、彼女は自分の力が魔界を変える可能性を持っていることを痛感してきたが、その重圧は決して軽くはなかった。
「真奈、無理はするなよ。」
イグナスがいつもの軽口を控え、優しい表情で声をかける。
「うん。でも、ここまで来たから……きっと大丈夫。」
真奈がそう言った瞬間、周囲の空間が歪むような感覚が広がり、目の前に巨大な円形の部屋が現れた。その中央には、紅月の欠片のような巨大な結晶が浮かび、脈動するように紅い光を放っている。
「これが……紅月の核?」
真奈が呟いたそのとき、結晶の前に人影が現れた。それは、全身を漆黒の鎧で覆った謎の人物だった。
「よくぞここまでたどり着いた、紅月の巫女よ。」
低く響く声に、三人は身構えた。
「お前は誰だ!」
ラザールが一歩前に出る。
「我が名はアゼル。紅月の守護者の一人にして、この神殿の真実を司る者。」
アゼルは冷たい目で真奈を見据える。
「巫女よ、紅月の鍵を持つお前に問う。お前はこの魔界の命運を背負う覚悟があるのか?」
「……覚悟?」
真奈は一瞬、戸惑いを見せた。
「紅月の力は魔界を救う希望であると同時に、世界を滅ぼす危険を孕むものだ。その力を制御できるか否かは、お前次第だ。」
アゼルの言葉に真奈は息を飲んだ。彼女は手の中の鍵を見つめる。この小さな鍵が、魔界の未来を左右するのだとしたら——その責任の重さが彼女の心を締めつけた。
◇
「真奈、お前にその覚悟がないと言うなら、俺が代わりに背負う。」
ラザールが真奈の横に立ち、アゼルに向かって鋭い視線を放った。
「俺が彼女を守り、この力を制御する方法を見つける。それが王族としての責務だ。」
「待って、ラザール!」
真奈が彼の言葉を遮った。
彼女は深呼吸をして、自分の胸の内を静かに語り始める。
「確かに私は普通の中学生で、こんな大きな役目に向いてるとは思えない。でも……魔界で出会った人たち、あなたやイグナス、それに助けてくれた魔族のみんなを守りたい。だから、私がやらなきゃいけないことだと思う。」
ラザールは驚き、真奈の決意に満ちた瞳を見つめた。
「真奈……」
「ありがとう、ラザール。でも、これは私自身で決めたことだから。」
◇
真奈が鍵を掲げると、紅月の結晶が強く光を放ち始めた。アゼルは一歩後退し、腕を組んで見守る。
「ならば、その力を示してみせろ、巫女よ!」
結晶から紅い光の奔流が放たれ、真奈を包み込む。それは圧倒的な力で、彼女の体を試すかのようだった。
「くっ……!」
真奈は苦痛に顔を歪めたが、決してその手を放さなかった。
「真奈!」
ラザールとイグナスが駆け寄ろうとするが、二人の前に見えない壁が立ちはだかる。
「彼女の試練だ。余計な手出しは無用。」
アゼルが冷たく告げた。
真奈の心の中に、これまでの旅の記憶が鮮やかに蘇る。ラザールやイグナス、魔界で出会った仲間たちとの絆。恐怖と絶望の中で見つけた勇気。それらすべてが彼女の背中を押していく。
「私は……諦めない!絶対に……!」
その瞬間、紅い光が爆発するように輝き、真奈の体を中心に柔らかな白い光が広がった。
「これは……」
アゼルが驚きの声を漏らす。
紅月の鍵が変化し、真奈の手の中で花のように開いた。それは新たな力を象徴する形となり、彼女を包むオーラはどこか聖なるものを感じさせる。
◇
光が収まると、真奈は息を切らしながらも立っていた。彼女の目には揺るぎない決意が宿っている。
「巫女としての力を覚醒させたか……見事だ。」
アゼルが微かに微笑む。
「紅月の巫女として、お前がこの力をどう使うかはまだ試されることになるだろう。しかし、今のお前なら乗り越えられる。」
アゼルが消えると、結晶から一本の光の道が現れた。それは神殿のさらに奥へと続いている。
「行くぞ、真奈。」
ラザールが優しく手を差し出す。
真奈はその手を取り、頷いた。
「うん、次の場所へ行こう。」
三人は光の道を進み、さらなる試練と真実へと向かうのだった。
新たな力を得た真奈が直面するのは、魔界を救うための最終的な選択だった。
果たして彼女の決断とは——。