封印の扉
月影の石を発見した真奈たちは、その石の放つ光によってそれぞれの心の中に潜む恐怖と向き合うことを余儀なくされた。真奈の決意が光となり、暗闇を振り払ったものの、月影の石はさらなる謎を秘めている。そして、廃墟の地下から不気味な扉が姿を現した。
◇
廃墟の奥、月影の石が輝きを失った場所に突如現れた巨大な扉。冷たく鈍い銀色の表面には、無数の古代文字が刻まれている。真奈、ラザール、イグナスの3人は、慎重にその前に立ち止まり、扉の威圧感に圧倒されていた。
「……これは、一体?」
真奈が扉に手を伸ばしかけた瞬間、ラザールが低い声で制止する。
「待て、触るな。その扉はただの石ではない。感じるだろう……この重々しい魔力を。」
ラザールの紅い瞳が扉を睨みつける。扉の表面から微かに立ち上る黒い霧は、不吉な予兆を放っていた。
イグナスが剣の柄を軽く叩きながら、独特の軽い調子で口を開く。
「いやー、これは相当厄介そうだな。大体、こんな場所に扉があること自体が怪しい。入るなって書いてあるようなもんだ。」
「でも……」
真奈は意を決したように、扉の文字をじっと見つめる。彼女の中で何かが共鳴するような感覚があり、その文字の一部が不思議と読める気がした。
「“封印”……それから“選ばれし者”……」
ラザールが驚きの表情を浮かべる。
「お前、その文字が読めるのか?」
真奈は首を傾げながらも答えた。
「全部じゃないけど、何となく意味がわかる気がする……多分、私が異世界から来たからなのかも。」
イグナスが肩をすくめる。
「なら真奈、お嬢ちゃんの感覚に賭けるしかないってわけだな。さあ、どうする?」
◇
真奈は扉をじっと見つめた後、静かに言った。
「私が開ける。きっと、この扉の先に何か重要なものがある。」
ラザールが口を開く。
「だが、もしこの扉が罠だったら——」
「それでも進みたい。」
真奈の瞳は決意に満ちていた。彼女の言葉にラザールは一瞬黙り込み、やがて小さく息をついて頷く。
「……わかった。だが、何が起きても俺たちがすぐ側にいる。」
イグナスも笑みを浮かべ、剣を抜いた。
「これ以上妙なことが起きないように、俺がしっかり見張ってるぜ。」
真奈は二人の言葉に感謝の笑みを返し、そっと扉に手を置いた。
◇
扉が鈍い音を立てて開くと、その先には広大な空間が広がっていた。黒い霧に包まれた室内の中央には、不気味に輝く台座があり、その上に巨大な水晶が鎮座している。
「これは……」
真奈が近づこうとすると、突如として空間全体が震え、闇の中から複数の影が現れた。それらは人型をしているが、眼は虚ろで体全体が闇に覆われている。
「歓迎の儀式ってわけか。」イグナスが剣を構える。
「真奈、下がれ!」ラザールもすぐさま盾を構え、真奈を守るように前に出る。
だが、その時、影の一体が真奈に向かって低い声で語りかけてきた。
「鍵の少女よ……なぜここに来た?」
真奈は戸惑いながらも、勇気を振り絞り答えた。
「魔界を覆う紅月の謎を解きたい。それが私の使命だから。」
影たちはざわめきながら、台座の周囲に集まる。そしてその中央に立つ最も大きな影がこう告げた。
「ならば、証を見せよ。選ばれし者であることを示す力を。」
◇
すると突然、真奈の足元が光り輝き、彼女の周囲に魔法陣が現れた。
「真奈!」ラザールが手を伸ばすも、彼女の体は光に包まれ、影たちの前に浮かび上がる。
「ラザール!イグナス!」
彼女の叫び声は彼らに届かない。
影の声が再び響く。
「汝が選ばれし鍵であるならば、真実を知る資格を与えよう。ただし、その力が偽りであれば、この場で消滅する。」
試練が始まった。真奈の目の前には、過去の記憶が次々と浮かび上がる。異世界に召喚された瞬間、家族との別れ、そしてラザールやイグナスと出会い、戦い続けた日々。
その中で、彼女の心に一番重くのしかかるのは、自分の無力さだった。
「私は、本当に役に立っているの?」
不安と恐怖に押しつぶされそうになる中、真奈は心の中にラザールの言葉を思い出した。
——「お前は確かに俺たちの光だ。」
その言葉に支えられ、真奈は再び立ち上がった。
「私は……ここにいる意味を見つけた!だから、負けない!」
彼女の叫びと共に光が弾け、影たちは一斉に跪く。
◇
光が収まり、真奈は再び地面に立っていた。ラザールとイグナスが駆け寄ってくる。
「真奈、大丈夫か!」
ラザールの問いに、彼女は頷きながら答えた。
「うん……私、何かを掴めた気がする。」
台座の水晶が割れ、中から光る鍵のような物体が現れる。
「これは……?」
影のリーダーが消えゆく中で最後に告げた。
「それが新たな扉を開く鍵。紅月の真実へと至るための……」
◇
月影の廃墟を後にする真奈たち。彼女の手には新たな鍵が握られている。
「この鍵が何を意味するのか、きっと先へ進めばわかるはず。」
ラザールとイグナスと共に歩き出す彼女の目は、紅月の空を見つめて輝いていた。
紅月と魔界を巡るさらなる謎が明かされる——。