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終わりなき脅威

灼熱の聖域で紅月の呪いを解き放つ儀式を成功させた真奈たち。魔界全土を覆っていた紅い月が消え、久しぶりに澄んだ夜空が広がる。その瞬間、魔界の各地から喜びの声が上がり、長きにわたる苦難に終止符が打たれたかに思えた。しかし、聖域を離れる際、真奈たちは不気味な気配を感じ取る。それはまだ見ぬ新たな脅威の前兆だった——。

「空が……また変だわ。」

聖域を後にして数日、魔界の空に再び不吉な兆候が現れた。真奈たちが眺める空には、微かな黒い霧が渦を巻き、あたかも何かが蠢いているようだった。

「紅月は消えたはずだ。それなのに、この感じ……まるで呪いが形を変えて残っているようだな。」

イグナスが険しい表情で空を睨む。

「もしかしたら……紅月の呪いを解放したことで、新たな力が目覚めたのかもしれない。」

ラザールの声には冷静さを保とうとする意志が滲んでいたが、その奥に潜む不安を隠し切れなかった。

「また、戦うの?」

真奈は小さく呟いた。紅月を浄化したことで、すべてが終わると思っていた彼女にとって、目の前の状況は予想外の展開だった。

「真奈。」

ラザールが優しく呼びかける。

「君がやったことは確実に魔界を救った。これは新たな問題だ。君一人に全てを背負わせるつもりはない。」

彼の言葉に励まされた真奈は、頷きながら答えた。

「ありがとう。でも、私も一緒に戦うよ。ここで見てきた人たちを守りたいから。」

その夜、ラザールの居城「ヴァルディア城」に戻った一行を待っていたのは、各地から届く不穏な報告だった。

「王子様、北部の村が謎の霧に飲まれ、住民たちが原因不明の昏睡状態に陥っています。」

「西の山岳地帯でも似たような現象が発生しています。まるで霧が意思を持っているようです。」

魔界の隅々で起こる異変。それは、紅月の呪いが解かれた直後から次々に発生しているものだった。

「霧……か。」

ラザールは報告を聞き終え、考え込む。

「紅月の呪いは浄化された。だが、その力を支えていた“闇の核”が完全に消滅したわけではない可能性がある。」

「つまり、あの呪いが形を変えただけ……?」

真奈が不安げに尋ねる。

「その可能性が高い。真奈、君が儀式を行った際に感じたものを、もう一度思い出してくれないか?」

真奈は頷き、浄化の儀式の際に感じた違和感を思い出そうと目を閉じた。

「あの時……確かに、浄化しきれなかった何かがあるような気がした。でも、それが何かは分からない。」

「ならば、それを探る必要があるな。」

ラザールが決意を固めた声で告げる。

翌朝、真奈たちは報告があった北部の村へ向かった。そこは一面、黒い霧に覆われ、まるで生命が閉ざされたかのような静寂に包まれていた。

「気をつけろ。霧に触れるな、何が潜んでいるか分からない。」

ラザールが警告する。

「見て……誰かいる。」

霧の中から、ぼんやりとした人影が現れた。それは村人たちだったが、顔色は悪く、まるで生気を失ったようだった。

「助けて……」

村人の一人が真奈たちに向かって手を伸ばした。しかし、その瞬間、彼の背後から黒い触手のような霧が現れ、彼を再び飲み込んでいった。

「何だ、あれは……!」

イグナスが剣を構える。

「何かが村人たちを操っているのかもしれない。」

ラザールが冷静に分析する。

「この霧の正体を突き止めないと……!」

真奈は震える手を押さえながらも、一歩前に踏み出した。

村を調査する中、真奈たちは村の中心に向かうにつれて霧が濃くなることに気付く。そして、その中心には不自然に黒ずんだ大地が広がっていた。

「これは……!」

ラザールが驚きの声を上げる。

地面には魔法陣のような模様が刻まれており、それが霧を生み出しているようだった。

「この魔法陣、紅月の呪いと同じエネルギーを感じる。でも、さらに……異質なものが混じっている。」

ラザールが魔力を使い、魔法陣を詳しく調べる。

「どういうこと?」

真奈が尋ねると、ラザールは険しい表情で答えた。

「誰かが紅月の呪いの残滓を利用して、さらに強力な力を作り出そうとしている。」

「つまり、これって人為的なもの……?」

イグナスが言葉を失う。

「可能性は高い。だが、これほどの力を扱える存在となると限られる……。」

その時、遠くから不気味な声が響いてきた。

「我らが新たな時代を創るのだ……。」

声の主の姿は見えないまま、霧がさらに広がり、真奈たちは一時撤退を余儀なくされた。

「これまでとは違う。俺たちが相手にしているのは……生半可な存在じゃない。」

ラザールが重々しく呟く。

姿を現す黒幕、その正体とは——。


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