封印の地
朝焼けが魔界の空を薄紅色に染めるころ、一行は「封印の地」へ向かう準備を整えていた。その場所は、紅月に秘められた真実を解き明かす鍵が眠るとされる場所。しかし、その地には恐ろしい守護者が封じられているとも言われ、魔族の間では禁忌とされてきた。
「本当に行くのか? いや、俺たちは行くしかないんだが。」
イグナスが肩をすくめながら、緊張感を隠すように軽口を叩く。
「冗談はほどほどにしろ、イグナス。」
ラザールが冷ややかな視線を送る。
「でも、本当にここで何か分かるのかな……?」
真奈は不安げにラザールを見上げた。
ラザールはその瞳に力強い意思を込めて答える。
「この旅はお前だけではなく、俺たち魔族全員の未来に関わる。お前の存在が鍵だと信じている以上、後退は許されない。」
その言葉に、真奈は小さく頷きながらも、自分に何ができるのか分からない葛藤を胸に抱えていた。
◇
目的地へ向かう途中、一行は鬱蒼と茂る森を進んでいた。木々の隙間から差し込む光はわずかで、周囲には魔界特有の奇妙な花や虫たちが生息している。真奈はその光景に恐れつつも、どこか惹かれる感覚を覚えた。
「ここは『クリューネの森』。封印の地を目指す者の多くが命を落とした場所だ。」
ラザールの冷静な説明に、真奈は思わず足を止めた。
「命を落とす……?」
「まあまあ、そんな怖がるなよ。」
イグナスが笑いながらフォローする。
「俺たちがついてるんだ。心配するな。」
その瞬間、草むらから巨大な魔獣が飛び出した。鋭い牙を剥き出しにして咆哮するその姿は、森の主とも言えるほど威圧的だ。
「出たな……!」
ラザールが剣を抜き、魔獣と対峙する。
「真奈、下がってろ!」
イグナスが真奈の手を引き、後方へと退避させる。
「でも、私も……!」
「お前がここで倒れたら意味がない! 任せろ!」
イグナスの言葉に押されるようにして真奈は後ろへ下がった。
ラザールとイグナスは見事な連携で魔獣を追い詰め、ついに討伐する。真奈はその様子を見つめながら、自分がただ守られるだけの存在であることに悔しさを覚えていた。
◇
森を抜けた先に広がっていたのは、巨大な石造りの遺跡だった。そこには異様な雰囲気が漂い、真奈はその場に立つだけで胸がざわついた。
「ここが……封印の地……。」
ラザールが遺跡の中央に立つ大きな扉を指差す。そこには古代魔族の文字が刻まれており、真奈には理解できなかったが、ラザールはその意味を読み取っていた。
「この扉の向こうに、『紅月の秘密』が隠されている。そして、それを守る者もな。」
「守る者……また戦うの?」
真奈の声は震えていた。
「俺たちに試練を与える存在だ。だが、それを乗り越えない限り真実には辿り着けない。」
「だから、覚悟を決めろよ。」
イグナスが笑顔で肩を叩くが、その瞳は真奈の不安を感じ取っていた。
◇
扉を開くと、霧に包まれた異空間が広がっていた。一歩足を踏み入れると同時に、真奈たちは重力を感じさせない奇妙な感覚に襲われる。
「この空間……歪んでいる。」
ラザールが剣を構えながら周囲を警戒する。
その時、不意に空間の中央に現れたのは、巨大な鎧を纏った騎士のような存在だった。その体からは闇のようなオーラが立ち上り、一目で尋常ではない強さを持つことが分かる。
「これが守護者か……!」
イグナスが身構える。
守護者は巨大な槍を構え、無言で一行を攻撃し始めた。
「真奈! 絶対に下がるな!」
ラザールが叫ぶ。
真奈は恐怖に震えながらも、足を動かすことができなかった。しかし、守護者の攻撃が彼女を直撃する瞬間、体が再び眩い光を放った。
「この力……!」
光は守護者の攻撃をかき消し、周囲の闇を浄化するように広がった。
「やはり……お前が封印を解く鍵だ!」
ラザールが叫び、守護者への攻撃を強化する。
◇
守護者を打ち倒した瞬間、空間全体が光に包まれ、周囲の景色が変化した。そこに現れたのは、かつて紅い月が蒼く輝いていた時代を映し出す幻影だった。
「これは……?」
真奈は不思議な光景を見つめながら、胸が熱くなるのを感じた。
「この記憶が紅月の秘密の一端だ。だが、真奈、お前の役割はまだ終わっていない。この幻影を紐解き、紅月を元に戻す方法を探るんだ。」
ラザールの言葉に、真奈は決意を新たにした。
「私が……必ず。」
◇
真奈が目撃する過去の真実とは? そして紅月を巡る陰謀の核心が明らかに!
魔界の歴史に隠された最も深い闇に迫る——。