紅月の謎
試練の守護者との戦いを終え、遺跡から出た真奈たちは、一面に広がる赤い月光に包まれる魔界の空を見上げた。その美しさの中にはどこか不気味な不安が漂っている。
「紅い月……こんなに近くに感じるなんて。」
真奈は手をかざしてつぶやいた。
「魔界において紅月は、力と破滅を象徴する特別な存在だ。俺たちの運命はすべて、あの月と繋がっている。」
ラザールが月を見上げながら低い声で語る。
「でも、この月は昔は違ったんだ。」
イグナスが付け加えた。
「違った?」
真奈が驚いて問い返すと、イグナスは頷きながら説明を始めた。
「遥か昔、この月は蒼く輝いていたらしい。魔界の住民たちは、その光の下で平和に暮らしていたんだ。」
「じゃあ、どうして今は紅いの?」
その問いにラザールは少しだけ言葉を詰まらせた後、口を開いた。
「蒼い月が紅く染まったのは、魔界を二分する大いなる戦争が原因だと言われている。その詳細は歴史書にも明記されていないが、月が紅く染まったとき、魔界全土に禍々しい力が広がり、いくつもの大陸が崩壊した。」
「それが……私の力と関係あるの?」
真奈は自分の手を見つめ、先ほど守護者の試練で解放された力を思い出した。
ラザールは真奈を真剣な目で見つめた。
「おそらくな。お前の中には、紅月を元に戻す力が眠っているのかもしれない。それが魔界を救う『鍵』としてお前が召喚された理由だ。」
◇
その夜、近くの森で野営を張る一行。焚き火の光が魔界の冷たい空気を温めていた。
「しかし、あの守護者が真奈を試すとはな……。お前、本当にただの中学生か?」
イグナスが笑いながら真奈を茶化した。
「私だって分からないよ!」
真奈は頬を膨らませながら答える。しかし、その瞳にはどこか不安が宿っていた。
「お前の力が解明されるのは時間の問題だ。だが、敵も動き出しているのは間違いない。」
ラザールが険しい表情で呟いた。
その瞬間、闇の中から低い声が響いた。
「その通りだ、ヴァルディア王子。」
焚き火の光に浮かび上がったのは、黒いローブをまとった謎の男。彼の周囲には不気味な霧が漂っている。
「誰だ!」
ラザールが剣を抜き、即座に構える。
「フフ、そんなに威嚇するな。私はただ、お前たちの旅を見守っていただけだ。」
「見守るだって? ふざけるな!」
イグナスが即座に反応するが、男は冷静に笑みを浮かべた。
「紅月の謎に近づくのはお前たちだけではない。お前たちが鍵を持つなら、私たちにはその鍵を開ける手段があるのだよ。」
真奈はその言葉に凍りついた。
「お前たち……って、誰なの?」
「いずれ分かるさ、小娘。だが、その前にお前たちの覚悟を試させてもらう。」
その言葉と同時に、地面から無数の魔物が姿を現した。
◇
魔物たちは牙を剥き、一行に襲いかかる。
「真奈、下がれ!」
ラザールが剣を振るい、次々に魔物を切り伏せる。イグナスも軽快な動きで敵を翻弄しながら剣を繰り出していく。
「どうしていつもこうなるの!」
真奈は叫びながら、必死で後方に下がる。
しかし、魔物の一体が真奈に向かって突進してきた。恐怖で体が固まり、声も出せない。
「真奈!」
ラザールが駆け寄るが、間に合わない。
その瞬間、真奈の体が再び光を放った。魔物はその光に触れた途端、消滅してしまう。
「また……この光……!」
ラザールは光に包まれる真奈を見つめながら、剣を握る手に力を込めた。
「間違いない。お前の力は本物だ。そして、それを狙う奴らも次第に動き出している。」
◇
魔物を退けた後、ローブの男は静かに微笑んだ。
「なるほど……確かに強い力を持っているな。」
「お前の狙いは何だ!」
ラザールが男に詰め寄るが、男は答えないまま霧とともに消えていった。
その場に残されたのは、男が呟いた言葉。
「紅月はその姿を変える。鍵を握るのが誰であろうとな。」
ラザールとイグナスは険しい表情で男の消えた場所を見つめる。
「奴の言葉、どういう意味なんだ?」
イグナスが疑問を投げかけるが、ラザールは答えず真奈に目を向けた。
「真奈、先に進むしかない。お前の力で、この謎を解くんだ。」
真奈は迷いながらも深く頷いた。
「私にできることがあるなら……必ずやり遂げる!」
◇
紅月の秘密に近づく真奈とラザールたち。敵対する勢力の影が濃くなる中、ついに彼らは真実に触れる。
さらなる試練が待つ場所へ——。