目覚めの地
ルシアスの提案を受け入れた真奈たちは、彼が案内する「目覚めの地」へと向かうことになる。そこは魔界でも最も古い時代から存在する、禁忌に触れた者たちが集まる場所だという。その道中、真奈は自らの力と向き合う決意を新たにするが、彼女を待ち受けるのはさらなる試練と、魔界の真実を巡る新たな葛藤だった。
◇
暗雲が立ち込め、空が赤黒く染まる中、一行は険しい山道を進んでいた。ルシアスは先頭を歩き、険しい崖の隙間を迷いなく進む。その背中にはどこか覚悟が感じられた。
「目覚めの地って、一体どんなところなんですか?」
真奈は不安を押し隠しながら、ルシアスに問いかける。
「そこは魔界の歴史の中でも、もっとも古く忌まわしい記憶が眠る場所だ。」
ルシアスは振り返ることなく答える。
「忌まわしいって……どういうこと?」
彼女の問いに、ラザールが代わりに答えた。
「目覚めの地は、魔界の創造と破壊が繰り返された原点。そこでは、力を持つ者たちが何度も対立し、その度に大地が血に染まった。魔界の根幹が刻まれた場所だといわれている。」
真奈は想像を超える話に驚きながらも、どこか胸の奥にざわめくものを感じた。自分がこの地に招かれた理由が、少しずつ見えてくるような気がしてならなかった。
◇
休息のために立ち寄った岩陰で、真奈はそっと焚き火を見つめていた。イグナスはいつもの調子で場を和ませようとしていたが、彼女の沈んだ表情を見て、軽口を控えた。
「どうした、真奈。難しい顔してるぞ。」
イグナスの問いに、真奈は小さく首を振る。
「私……自分が本当に、この世界で役に立てるのかなって思うんです。」
「今さらそんなことを気にしてるのか?」
イグナスは真剣な表情で彼女を見つめた。
「お前はもう十分にやってきた。ゼルグラントを退けたのも、あの森の怨念を払ったのもお前の力だろう?」
「でも、それが怖いんです……。私の力が何なのかも、どうしてここにいるのかも分からなくて。」
その言葉に、ラザールが静かに歩み寄り、真奈の隣に腰を下ろした。
「真奈、お前は何かを変えるためにここにいるんだ。それが具体的に何か分からなくても、俺たちはお前を信じている。」
ラザールの真摯な言葉に、真奈は少しだけ肩の力を抜き、微笑んだ。
「……ありがとう、ラザールさん。」
◇
翌朝、一行はついに「目覚めの地」に到着した。それは山の奥深くに隠された、巨大な遺跡だった。柱がいくつも折れ曲がり、地面には古代文字が刻まれている。周囲には不穏な空気が漂い、真奈は思わず身を縮めた。
「ここが目覚めの地か……。」
ラザールも険しい表情を浮かべる。
「この遺跡には、魔界の真実を知るための鍵が眠っている。ただし、それを開くには代償が伴う。」
ルシアスが静かに語る。その声にはどこか悲しみが込められていた。
「代償……?」
真奈が問うと、ルシアスは彼女に一枚の石板を差し出した。そこには複雑な紋様が描かれている。
「この石板を触れることで、君の力はさらに引き出される。だが、それと引き換えに君の記憶が一部失われる可能性がある。」
「記憶が……?」
「これは禁忌の力を引き出す契約だ。真奈、選ぶのは君自身だ。」
真奈は石板を見つめ、迷いを隠せなかった。自分の力を信じて進むべきか、それとも大切な記憶を失う恐怖に怯えるべきか。
◇
「俺は反対だ。」
ラザールが真っ先に声を上げた。
「真奈にそんなリスクを背負わせるなんて、冗談じゃない。ほかに方法があるはずだ。」
「ラザール……。」
真奈は彼の言葉に心が揺れたが、自分の意思を確かめるように深呼吸をした。そして、ルシアスの目を真っ直ぐに見つめた。
「私、やります。この世界に来た理由を知りたいし、力を使って誰かの役に立ちたいんです。」
ラザールは驚き、真奈を見つめた。その瞳には怒りと、彼女を守りたいという強い思いが入り混じっている。
「真奈……分かった。だが、何があっても俺が守る。絶対にお前を失わせはしない。」
「ありがとう、ラザールさん。」
真奈は石板に手を伸ばし、ゆっくりと触れた。すると、石板が光を放ち、遺跡全体が振動を始めた。
◇
光の中で真奈は自分の内側から湧き上がる感覚を覚えた。それは恐ろしいほどの力と共に、どこか懐かしい記憶のようなものだった。
「これが……私の力……?」
彼女がつぶやいた瞬間、遺跡の奥から大きな咆哮が響き渡った。
「目覚めの地が応えたか。真奈、油断するな!」
ルシアスが叫ぶと同時に、奥から巨大な影が現れた。それは遺跡を守る守護者のような存在で、見るからに強大な力を宿していた。
「全員構えろ! ここからが本番だ!」
ラザールが剣を抜き、戦闘の準備を整える。
真奈は紋章がさらに輝くのを感じながら、覚悟を決めた。
「私も……戦う!」
◇
遺跡を守る強大な存在に立ち向かう真奈たち。目覚めた力の代償とは何か、そして遺跡が明かす真実とは——。