表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/129

迷宮の幻影

虚ろなる森の奥地へ足を踏み入れた真奈たち。霧が立ち込める森は、視界を奪い、木々の間からは奇妙な囁き声が聞こえてくる。進むごとに気配が変わり、まるで森自体が生きているようだった。

「ここは……まるで森そのものが魔物みたい。」

真奈は足元の枯葉を踏みしめながら、周囲を見渡した。薄暗い光の中、影が不規則に動いているように見える。

「虚ろなる森は、進む者の心を映す鏡のような場所だと聞く。弱気になるな、惑わされるぞ。」

ラザールが低い声で言う。彼の剣はすでに抜かれ、警戒心を滲ませた紅い瞳が周囲を鋭く見据えていた。

「簡単に言うなよ、ラザール。心を映すってことは、何か幻覚を見せられるってことか?」

イグナスが肩越しに剣を構えながら応じる。軽口を叩いてはいるが、その表情は緊張で固まっていた。

真奈は小さく息を飲んだ。彼女の胸の中には、不安とともに奇妙な胸騒ぎが広がっていた。先ほど森に足を踏み入れた瞬間から、どこかで聞いたような声が頭の中に響いているのだ。

「お前の居場所はここじゃない……戻れ……」

冷たく低い声が耳元をかすめるたび、真奈の心はかき乱された。

一行がさらに進むと、霧の中に巨大な建物が現れた。それは蔦に覆われた朽ちた石造りの迷宮で、いくつものアーチが入り口を形成している。

「迷宮か……厄介なものだな。」

ラザールが渋い顔をする。

「まあ、避けて通れないってわけだな。」

イグナスが苦笑する。彼は迷宮の入り口を眺めながら続けた。

「ただの迷路ならまだマシだが、ここも何か仕掛けがあるんだろう?」

ラザールは無言で頷き、迷宮に向かって一歩を踏み出した。

迷宮に足を踏み入れると同時に、一行は不思議な感覚に包まれた。空間が歪むような錯覚を覚え、ラザールが振り返ると、真奈とイグナスの姿が見えなくなっていた。

「真奈! イグナス!」

ラザールの叫びは虚しく響き、霧が音を飲み込んでいく。

一方、真奈も同じように孤立していた。目の前に広がるのは、無数の分かれ道。どちらを選んでも、行き止まりや同じ風景に戻されてしまう。彼女の心は焦りでいっぱいだった。

「どうしよう……ラザール、イグナス……」

真奈が立ち止まっていると、どこからか不思議な光が現れた。その光が近づくと、中から母親の姿が現れる。

「真奈、もう疲れたでしょう? お家に帰りたいでしょう?」

懐かしい声に、真奈の目から思わず涙がこぼれる。

「お母さん……?」

手を伸ばそうとしたその瞬間、彼女の胸の紋章が強く輝いた。紋章の光が幻影を打ち消し、母親の姿は消え去った。

「これが……幻影。」

真奈は拳を強く握りしめ、再び歩き出した。

ラザールは迷宮の中で別の試練に直面していた。目の前に現れたのは、彼の父王ヴァルディアの幻影だった。

「ラザール、なぜお前は無力なのだ? 王族としての責務を果たせぬのか?」

幻影の言葉は、ラザールの胸を深く抉る。彼は剣を握る手に力を込め、低い声で反論した。

「俺は俺なりにやっている……たとえ道が険しくとも、進むべき道を選んだ。」

その瞬間、幻影は不気味な笑みを浮かべ、ラザールに剣を振り下ろした。彼はすぐさま防御を取るが、その一撃は重く、壁に叩きつけられる。

「何度でも立ち上がる、それが俺の誓いだ!」

ラザールは立ち上がり、力強く剣を振り抜いた。その一撃が幻影を切り裂き、空間が揺らぐ。

迷宮の中央で、真奈、ラザール、イグナスはようやく再会を果たした。三人は互いの無事を確認し、固い絆を確かめ合う。

「幻影なんかに負けるかって思ったけど、やっぱり一人は怖かった……。」

真奈が涙を浮かべながら言うと、ラザールがそっと頭に手を置いた。

「俺たちは一緒だ。一人で背負い込むな。」

イグナスが軽口を叩きながらも、優しい笑顔を見せた。

「よし、再び力を合わせて進もうぜ。この迷宮を抜ければ、新たな手がかりが見つかるはずだ。」

三人は互いに頷き、迷宮の奥へと進んでいく。だが、その先にはさらなる試練が待ち受けていた。

迷宮の出口で待つのは、次なる鍵の持ち主か、それとも新たなる敵か。深まる闇の中、真奈たちは絆を武器に進む——。

絶望の中で見つける光とは?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ