消えた村と約束の灯
闇の継承者アシュテールの脅威を目の当たりにした真奈たちは、新たな目的地である「ナリヤの里」へと向かっていた。その村には、混沌の力を封じるための重要な手がかりがあるとされている。しかし道中、彼らが目にしたのは、村の面影すら残らない荒涼とした廃墟だった。
◇
「ここが……ナリヤの里?」
真奈が呆然と呟く。かつて豊かな自然と笑顔に溢れていたという村は、今や黒い灰が舞うだけの無惨な荒地に変わり果てていた。
「何があったんだ……?」
ラザールは険しい顔で辺りを見回す。その時、イグナスが廃墟の中に埋もれている遺物を掘り起こした。古びたランタンだったが、まだかすかな魔力が宿っている。
「これ、村の守り火じゃないか? ナリヤの里の象徴だったはずだが……消えかけてる。」
イグナスが眉をひそめる。そのランタンは、村の長老が代々受け継いできた「約束の灯」と呼ばれるもので、村人たちの生活を守る魔法の力を持つとされていた。
「これが消えたってことは、村そのものが闇に飲まれたってことだな。」
彼の言葉に、真奈は胸が締め付けられる思いだった。
「どうして……こんなことに。」
真奈の目には涙が浮かんでいたが、ラザールはそっと彼女の肩に手を置いた。
「嘆いている時間はない。まずは手がかりを探そう。」
◇
三人は手分けして村の残骸を調べ始めた。すると、真奈が朽ちた井戸のそばで奇妙な石板を発見した。それには古代文字が刻まれており、魔界の歴史を知る者でなければ解読は難しそうだった。
「ラザール、この石板……何か意味があるんじゃない?」
真奈が差し出すと、ラザールは目を細めて文字を読み取った。
「『約束の灯が消えし時、絆の力が未来を繋ぐ』……そんな感じだな。」
ラザールが呟く。イグナスもそれを聞きながら考え込むような表情を見せた。
「絆の力って……。まさか、ただの抽象的な言葉じゃないだろうな。」
イグナスの言葉に、真奈は胸の紋章を無意識に握りしめた。
「もしかして、この紋章が関係してるのかな……?」
ラザールは頷きつつも慎重な口調で答える。
「可能性はあるな。ただ、この石板だけじゃ不十分だ。ナリヤの里で何が起きたのか、もっと具体的な情報が必要だ。」
その時、不意に冷たい風が吹き抜け、黒い影が彼らの前に現れた。
◇
影から姿を現したのは、一人の少女だった。彼女はボロボロの衣服を纏い、長い銀髪を風になびかせている。その瞳は虚ろで、どこか憎悪に満ちていた。
「……ここに来たのは、あんたたちか。」
少女の声は震えており、疲労と悲しみに満ちていた。真奈が一歩近づこうとすると、ラザールが腕を伸ばして制した。
「誰だ、お前は?」
ラザールが警戒しながら問うと、少女は肩を震わせ、苦しそうに答えた。
「私は……ナリヤの村の最後の生き残り。あの日、みんな……みんな消えた……!」
彼女の言葉に、真奈は目を見開いた。
「生き残り……? 何が起きたの? 村の人たちはどこに?」
少女はその問いに答える代わりに、両手で頭を抱えて呻き声を上げた。
「闇が……闇が私たちを飲み込んだ。逃げたかったのに、私は……助けられなかった……!」
彼女の瞳には涙が溢れ、足元の黒い影がまるで彼女の心を表すかのように揺らめいている。
◇
「待て、そいつ危険だ!」
ラザールが叫ぶと同時に、少女の足元から黒い霧が噴き出した。それはアシュテールの放った闇の残滓であり、彼女の絶望と憎悪に反応して暴走を始めたのだ。
「止めなきゃ!」
真奈はとっさに紋章の力を使おうとするが、制御がうまくいかず、光は微かに点滅するだけだった。
「くそっ、真奈、下がれ!」
ラザールが剣を構え、イグナスも即座に抜刀して闇に立ち向かう。しかし、闇の力は予想以上に強大で、二人ですら押し返されそうになる。
「お願い……止まって!」
真奈が必死に叫ぶと、その声に反応するかのように紋章が再び光を放ち始めた。そしてその光は、暴走する少女の闇を徐々に包み込み、静かに消し去った。
「……え?」
闇が晴れると、少女は力尽きたようにその場に倒れた。真奈は急いで彼女のもとに駆け寄る。
「大丈夫?」
優しく声をかける真奈に、少女は弱々しく微笑んだ。
「……ありがとう。あんたたちが来てくれて……良かった……。」
◇
倒れた少女の手元には、再び輝きを取り戻した「約束の灯」のランタンがあった。それを見たラザールは、静かに呟いた。
「なるほど。絆の力……それが村を救う鍵だったのか。」
真奈は少女を抱き起こしながら、決意を込めて言った。
「私、絶対にこの世界を救う。みんなのために、もっと強くなる……!」
その言葉に、ラザールとイグナスは静かに頷いた。
◇
少女の告白とともに、新たな手がかりを得た真奈たち。しかし、ナリヤの里に隠された真実はまだ明かされていない。そして、アシュテールの次なる罠が徐々に迫る——。
絆の光がさらなる闇を切り裂く!