解放の光と闇
儀式の開始を告げる真奈の言葉に応じて、遺跡の中央に浮かぶ巨大なクリスタルが一際強く輝き始めた。その光は真奈、ラザール、イグナスの三人を包み込み、周囲の空間がまるで別次元へと引きずり込まれるような感覚に襲われる。
「……すごい、これが魔界そのものの力?」
真奈は自分の身体から淡い光が発せられていることに気づき、驚きながらもその力を受け入れようとした。ラザールは真奈を支えるようにそばに立ち、クリスタルに向けて低い声で語りかける。
「この力を解放すれば、魔界全体が新たな局面を迎える。だが、それが混乱の始まりか、それとも再生の兆しとなるのか……」
ラザールの言葉が終わると同時に、クリスタルの中からゆっくりと一人の人影が浮かび上がってきた。その姿は荘厳で、初代魔王の威厳を余すところなく体現している。しかし、その目は闇の力に満ち、見る者を威圧するほどの存在感だった。
◇
「我が名はヴァルグレア。魔界を統べし者にして、混沌の象徴なり。」
初代魔王が静かに名乗ると、その声が空間全体に響き渡り、真奈たちは思わず息を飲んだ。
「そなたらが封印を解く決意をしたというのか。」
ヴァルグレアの目が三人を順に見据えた。彼の視線は心を見透かすかのように鋭く、特に真奈に注がれると、その場に立っているだけで精一杯だと感じた。
ラザールが一歩前に出て答える。
「そうだ。だが、それはただ封印を解くだけではない。魔界の未来を切り開くための第一歩だ。」
ヴァルグレアは深く頷くような仕草を見せたが、次の瞬間、厳しい声で問いかけた。
「その覚悟が真実か否か、試させてもらおう。」
彼の言葉と同時に、遺跡の空間が急激に歪み始めた。突如として現れた闇の渦が三人を襲い、彼らは別々の幻覚世界へと引きずり込まれていく。
◇
真奈が目を開けると、そこは見覚えのある風景だった。日本の実家の自室——すべてが元通りになっているように見えた。窓の外には夕焼けが広がり、リビングからは両親の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「戻ってきた……?」
真奈は一瞬、夢ではないかと思ったが、そこに現れたもう一人の自分の姿に驚愕する。
「あなたが魔界に行かなければ、ここで普通の生活を送れるのよ。」
もう一人の真奈は優しく微笑みながら語りかけてきた。
「……でも、それは——」
真奈は言いかけて口をつぐんだ。確かに、自分はただ普通の中学生で、魔界の混乱に巻き込まれる必要など本来なかったはずだ。それでも、ラザールやイグナス、そして魔界の人々との旅で得たものを考えると、その道を選ぶことはできないと思った。
「私は……帰らない。あの世界に、私がいる意味があるから!」
真奈の強い意志が周囲の幻覚を打ち破り、彼女は再びクリスタルの光の中へと引き戻された。
◇
一方、ラザールは王座の間に立っていた。目の前には幼い頃の自分と、厳格な表情で彼を見つめる父王の姿があった。
「お前がこのヴァルディア家を継ぐのだ。弱さを見せるな。感情に流されることは許されない。」
父王の冷たい声が響く中、幼いラザールは拳を握りしめ、ただ頷くしかなかった。
その光景を見ているラザールの心には、王族としての責任が再び重くのしかかる。だが、そこに真奈の笑顔や、イグナスの軽口が脳裏に浮かんだ。
「俺には守るべきものがある。たとえ王族としての責務に苦しむとしても、それを捨てるわけにはいかない。」
ラザールが心の中でそう叫ぶと、目の前の幻覚が霧散し、彼もまたクリスタルの光の中へと戻っていった。
◇
イグナスは広がる戦場の中にいた。彼の目の前には、かつての親友であり、今では敵対する勢力に属する戦士の姿があった。
「イグナス、まだ間に合う。俺たちの側に戻れ!」
親友の必死の訴えに、イグナスは笑みを浮かべながら首を振る。
「悪いな、俺はもう決めたんだ。ラザール様と真奈を守る、それが俺の信じる道だ!」
その言葉とともに剣を振るうと、幻覚が消え去り、彼もまたクリスタルの中心へと戻った。
◇
三人がクリスタルの光の中心に立つと、ヴァルグレアの声が再び響いた。
「そなたらの覚悟、確かに見届けた。だが、その先にはさらなる試練が待ち受けるだろう。」
その言葉とともにクリスタルが砕け散り、中から漆黒の光が空間全体に広がっていった。その中心には新たな脅威——かつてヴァルグレアの封印とともに閉じ込められていた、混沌の魔獣が姿を現した。
「これが解放の代償か……!」
ラザールが剣を抜き、真奈を庇いながら叫んだ。
「真奈、ここからが本当の戦いだ!」
◇
クリスタルの封印が解けたことで現れた混沌の魔獣。その圧倒的な力の前に、真奈たちはどう立ち向かうのか?彼らの絆と覚悟が試される中、魔界の未来を左右する決戦が幕を開ける——。
新たな試練が、彼らの運命を揺さぶる!