約束の地
星空の結界で次元の門の鍵を手に入れたラザールとイグナス。真奈の声を耳にしながら、二人は彼女の存在をさらに強く確信する。しかし、鍵を手にしたことで、新たな脅威が目覚めようとしていた。
◇
「これは……」
ラザールの手のひらで輝く光の球が、空に向かって一本の道を描き出した。その道は暗雲を切り裂くように空高く伸び、遙か彼方へと続いている。
「どうやら次元の門はこの道の先にあるらしいな。」
イグナスが額の汗を拭いながら苦笑する。
「気を抜くな。ここからが本番だ。」
ラザールの声には決意が宿っていた。鍵を手にした瞬間から感じている得体の知れない圧力。それが道の先に待ち受ける何かを物語っていた。
◇
一方、異空間に囚われている真奈もまた、次元の門の鍵の覚醒に伴い奇妙な体験をしていた。
真奈は気づくと、一面真っ白な空間に立っていた。足元も天井も、どこまでも続く白い空間には、時間すら存在しないような静けさが漂っている。
「ここ……どこ?」
恐る恐る一歩踏み出そうとしたそのとき、目の前に黒い影が現れた。
影の中から現れたのは、真奈自身の姿。しかし、その顔は冷たく、どこか狂気を帯びている。
「あなたは誰……?」
「私? 私はあなたよ。あなたがここに閉じ込められている間に失いかけている“希望”そのもの。」
影の真奈が不敵な笑みを浮かべながら、真奈に問いを投げかける。
「ラザールが助けに来ると本当に信じてる? あの人にとって、あなたはただの『鍵』かもしれないのに。」
その言葉に真奈は一瞬心を乱される。しかし、ラザールと過ごした日々、彼が自分を守り抜こうとしてくれた姿を思い返し、真奈は毅然と答えた。
「ラザールは……必ず私を助けに来る。私は信じてる!」
その瞬間、影の真奈が形を失い、光の粒となって消えていった。
「信じること……それが私の力なんだ。」
真奈の心の中に新たな強さが芽生える。
◇
ラザールとイグナスは道の先に広がる巨大な空間へと到達した。そこには、大きな石造りの門がそびえ立っており、周囲には不気味な魔力が渦巻いている。
「ここが……次元の門か。」
ラザールが剣を握り直しながら門を見上げる。その刹那、地響きとともに周囲の空間が暗黒に染まり、門を守護する魔物が姿を現した。
その姿は、漆黒の翼を持つ巨体の獣。魔物は鋭い爪を振り下ろし、ラザールたちを迎え撃とうとする。
「こんな場所で時間を食ってられない!」
イグナスが素早く剣を抜き、魔物の攻撃を受け止める。
「ラザール、門を開く準備をしてくれ! こいつは俺が引き受ける!」
「無茶をするな、イグナス!」
ラザールがそう叫ぶも、イグナスは軽く笑ってみせた。
「俺を誰だと思ってるんだ? お前の親友だろ?」
イグナスの剣さばきが魔物の動きを封じる中、ラザールは門の前で鍵を掲げた。鍵の光が門の模様をなぞるように広がり、門がゆっくりと開き始める。
「頼む、間に合ってくれ!」
しかし、そのとき魔物がイグナスの防御を突破し、ラザールに向かって飛びかかってきた。
◇
「ラザール!」
その瞬間、ラザールの耳に真奈の声が響いた。
「私がここにいる……だから、負けないで!」
その声に応えるように、ラザールの剣が紅い光を帯び始めた。
「お前に邪魔されるわけにはいかない!」
ラザールは剣を一閃し、魔物の爪を弾き飛ばす。続いて放たれた彼の渾身の一撃が魔物の胸を貫き、巨体が崩れ落ちた。
門が完全に開かれると、中から真奈の姿が薄く浮かび上がってきた。
「真奈……!」
ラザールが手を伸ばすと、光が真奈を包み込むように彼の元へと近づく。
◇
門の中で真奈の姿はまだはっきりとは見えないものの、彼女の声が再び届く。
「ラザール……ありがとう。もう少しで……きっと、会えるよね。」
ラザールは静かに微笑み、門の先に進む決意を固めた。
「必ず助け出す。それが俺の役目だ。」
一方、イグナスは戦闘の余韻に疲労しながらも、ラザールの隣で肩を叩いた。
「まったく、お前ってやつは……いつもヒロインにかっこつけるのが好きだよな。」
二人は短く笑い合い、門の奥へと進んでいく。
◇
いよいよラザールと真奈が直接対面する時が訪れる。しかし、その先にはさらなる試練が待ち受けていた——。