星空の結界
闇の遺跡で次元の門を開く手掛かりを掴んだラザールとイグナス。
真奈の声を耳にしたことで、二人の胸には再会への確信が芽生えた。しかし、次元の門を完全に開くにはさらなる試練が待っている。
古代魔族の碑文に記されていた言葉を頼りに、彼らは「星空の結界」と呼ばれる魔界の最奥地を目指すことになった。その地は、夜空が永遠に輝き続ける神秘的な場所であり、魔界の始まりを象徴する地とされている。
◇
星空の結界へ向かう道中、二人は「幻惑の森」に足を踏み入れる。ここは魔界でも特に危険な場所として知られており、訪れる者の記憶や恐怖を幻覚として具現化させる魔力が漂っている。
ラザールとイグナスは慎重に進むが、霧の中から突如現れたのは見覚えのある影だった。
「……これは?」
ラザールの目の前に立っていたのは、幼い頃に亡くした彼の母親だった。
「ラザール、お前はまだ弱い。それで本当に王として魔界を導けるのか?」
幻覚とは分かっていても、彼の心を揺さぶる言葉が投げかけられる。
一方、イグナスの前には、かつて命を落とした弟子たちが現れた。彼らは声を揃えて非難する。
「あなたがもっと強ければ、私たちは死なずに済んだ!」
二人はそれぞれの幻覚に飲み込まれそうになるが、ラザールは剣を地面に突き立て、自らの信念を叫んだ。
「幻影ごときに惑わされるほど、俺は弱くない!」
その言葉が響いた瞬間、周囲の霧が晴れていく。イグナスも気を取り直し、互いに無言で頷き合いながら森を抜けた。
◇
やがて二人は、星空の結界と呼ばれる場所に到達した。そこは広大な平原で、空一面に無数の星が輝いていた。その光景は魔界とは思えないほど美しく、静寂の中に荘厳さが漂っていた。
「ここが……次元の門を開く鍵がある場所か。」
ラザールが辺りを見回すと、中央に巨大な魔法陣が刻まれているのを見つけた。
その魔法陣の中央には、水晶のように輝く台座があり、そこに真奈の姿を彷彿とさせる彫像が立っていた。
「これが門を開く“鍵”だと言うのか。」
イグナスが台座に近づこうとした瞬間、地面が揺れ、星空の輝きが一瞬にして暗闇に覆われた。
「来たか……。」
ラザールが剣を握りしめ、緊張感を漂わせた。
◇
暗闇の中から現れたのは、黒い甲冑を纏った影だった。その姿は、まるで魔界そのものが具現化したような威圧感を放っている。
「次元の門を開こうとする者よ。その覚悟を示せ。」
守護者はそう言うと、ラザールたちに攻撃を仕掛けてきた。
守護者の力はこれまで戦ってきた敵とは一線を画しており、一撃一撃が重く鋭い。ラザールは剣を構え、果敢に応戦するが、その動きはまるで相手に読まれているかのようだった。
「こいつ……俺たちの動きを見切っているのか?」
イグナスが苦戦しながらも反撃を試みるが、守護者の防御は鉄壁だった。
◇
そのとき、再び真奈の声が二人の頭に響いた。
「ラザール、イグナス……私の力を、信じて。」
真奈の言葉とともに、台座の彫像が淡い光を放ち始めた。その光は二人に力を与えるかのように温かく、守護者の攻撃に押されていたラザールの剣に力を宿した。
「これは……真奈の力?」
ラザールは剣を高く掲げ、その光を纏わせると、守護者に向かって一直線に突進した。イグナスもその隙を突き、守護者の動きを封じるように剣を振るった。
二人の連携により、守護者の動きは次第に鈍くなり、最後はラザールの一閃が守護者を貫いた。
◇
戦いが終わると、星空が再び輝き始めた。そして、台座の水晶が割れ、中から真奈の姿を模した小さな光の球が現れた。
「これが……次元の門の鍵か。」
ラザールが光を手にすると、それが彼の手の中で温かく輝いた。
そのとき、再び真奈の声が聞こえた。
「ラザール……もう少し、もう少しで……。」
真奈の声に導かれるように、光の球は空中に浮かび上がり、次元の門を示す新たな道を指し示した。
◇
ラザールとイグナスは、再び進むべき道を確信した。
「真奈……必ずお前を取り戻す。」
ラザールは静かに呟き、イグナスとともに星空の結界を後にした。
◇
次元の門がついに開かれ、真奈との再会の時が近づく。しかし、その背後には新たな闇が忍び寄る……——。