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決意の代償

眩い光が混沌の闇を切り裂いた瞬間、全てが静止したかのようだった。真奈の体から放たれた光は、混沌の意思を覆い尽くし、霧の魔獣たちを完全に消し去った。しかし、光が消え去った後、空気は再び重苦しい静寂に包まれる。

ラザールが真奈の元へ駆け寄り、肩を支えるように抱きしめた。

「真奈、大丈夫か?」

真奈は疲労感に襲われながらも、弱々しく頷いた。

「うん……でも……あれはまだ終わってない……」

彼女の視線の先には、闇の中でうごめく何かがあった。混沌の意思そのものが再び形を成しつつある。

「やはり、これほどの力でも混沌の意思を完全には消せないのか……」

イグナスが剣を肩に担ぎながら悔しげに呟く。

ラザールは歯を食いしばり、剣を再び構え直した。

「ここで引くわけにはいかない。この戦いを終わらせるためには、俺たちが最後までやり遂げるしかない。」

しかし、その時、混沌の意思が再び語り始めた。

「愚かなる者たちよ……光が闇を消し去ることはできぬ。闇は存在する限り、再び蘇る……だが……お前たちに選択の機会を与えよう。」

「選択?」

真奈が小さく問い返すと、混沌の意思は嘲笑するかのように声を響かせた。

「そうだ。光を持つお前は、この地を救う力を持つ……だが、その力は対価を伴う。魔界を救うためには、己の存在を捧げる覚悟が必要だ。」

「真奈を捧げるだと?」

ラザールが怒りに満ちた声を上げる。

混沌の意思は平然と続けた。

「そうだ。この地の混乱を生み出したのは、人と魔族の不調和。お前たちが歩んできた道は美しい理想だが、それを実現するには代償が必要だ。光を持つ者が己を犠牲にすることで、初めて均衡が保たれる。」

真奈はその言葉に絶句し、拳を握りしめた。彼女はこれまで多くの困難を乗り越え、魔界の人々の笑顔を取り戻したいという強い思いを抱いてきた。しかし、自らの存在を捧げるという選択は、あまりにも重すぎる。

「そんなこと、受け入れられるわけがない!」

ラザールが剣を握りしめながら一歩前に出た。

「そうだ、他に道があるはずだ!」

イグナスも混沌の意思に向かって叫ぶ。しかし、混沌の意思は彼らの言葉を意にも介さない。

「では、時が来れば全てを飲み込むだけだ。決断はお前たちに委ねよう……」

闇の霧が一旦引き、静寂が戻った。三人はその場に立ち尽くし、言葉を失った。

「真奈、聞いてくれ。」

ラザールが真剣な目で彼女を見つめる。

「お前を犠牲にするなんてことは、俺が絶対に許さない。他の方法を探そう。どんなに時間がかかっても……どれほど辛くても。」

イグナスもまた冗談を言う余裕もなく、真奈に言った。

「ラザールの言う通りだ。これまで俺たちは無理だと言われてきたことを全部乗り越えてきたんだ。だから今回だって……」

真奈は二人の言葉を聞きながら、目を閉じて深く考えた。彼女の中でこれまでの旅の記憶が鮮明に蘇る。笑顔で迎えてくれた村の人々、仲間たちとの絆、そしてラザールとイグナスと共に戦った日々。

「ありがとう……二人とも。」

静かに口を開いた真奈の声は震えていたが、決意が宿っていた。

「でも……私がいなかったら、この世界に本当の平和は来ない気がする。」

「真奈……!」

ラザールは叫ぶように彼女の名前を呼んだ。

「私は怖い……本当は、普通の日常に戻りたい。でも、みんなの笑顔を思うと……どうしても諦められないの。」

ラザールは真奈を強く抱きしめた。

「俺はお前を守るためにここまで来たんだ。だから……そんなこと言うな。」

真奈は涙をこぼしながらも、ラザールの手に自分の手を重ねた。

「ラザール、イグナス……ありがとう。でも、私はこの力を使ってみんなを救いたい。」

真奈の言葉に、ラザールは歯を食いしばり、何も言えずに立ち尽くす。イグナスもまた拳を握り締め、ただ俯いた。

混沌の意思が再び現れると、真奈はその前に進み出た。

「私は自分の力を使います。でも、どうか……魔界の人たちを助けてください。」

混沌の意思はしばらく沈黙した後、満足そうに笑った。

「よかろう。その覚悟、受け取った。」

闇と光が混じり合い、真奈の体がゆっくりと光に包まれていく。ラザールとイグナスはそれを止めるために叫びながら駆け寄るが、真奈は優しく微笑みながら言った。

「大丈夫。きっとまた会えるよ。」

眩い光の中で、真奈の姿が消えていく。

真奈のいない魔界……ラザールとイグナスは新たな闇に立ち向かう。そして、真奈が最後に残した言葉の意味とは——。

彼女の犠牲がもたらす未来は希望か、それとも新たな試練か!?


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