秘められた血の盟約
影喰らいの谷での激闘を終えた真奈たち。しかし、旅はまだ終わらない。次なる目的地は、「嘆きの塔」と呼ばれる場所。そこにはゼクトラの残した「血の盟約」に関する真実が隠されていると言われていた。
嘆きの塔は、魔界でも近寄る者の少ない地。そこには、過去にゼクトラが数多の魔族を苦しめ、命を奪った記録が刻まれているという。
ラザールは静かに馬を進めながら、心中で思いを巡らせていた。
(ゼクトラの呪いを解く鍵は、この塔にあるとされている……だが、そこに何が待ち受けているのか。)
一方、真奈はペンダントを胸元に握りしめ、これまでの出来事を振り返っていた。自分が召喚された意味、そしてラザールやイグナスとの絆を改めて感じる。
「絶対に乗り越えなくちゃ……!」
小さな呟きは、やがて仲間たちへの強い決意へと変わる。
◇
嘆きの塔へ近づくにつれ、空気は一層重たく、冷たく感じられた。周囲には濃い霧が立ち込め、塔の全貌を覆い隠している。
「まるで塔そのものが生きてるみたいだな。」
イグナスが軽口を叩くが、その表情は警戒心に満ちていた。
「気を抜くな。この霧自体が敵だ。」
ラザールが鋭い目を霧の中に向ける。彼の声には緊張が滲んでいた。
「この先、どんな罠があるかわからないわね……。」
真奈が不安げに呟くと、ラザールが振り返り、優しく声をかけた。
「真奈、俺たちがいる。決して一人にはしない。」
その言葉に真奈は頷き、再び足を踏み出した。
◇
嘆きの塔に足を踏み入れた一行を待ち受けていたのは、無数の鏡が並ぶ不思議な空間だった。鏡には、真奈たち自身が映し出されているが、どこか奇妙で不気味だった。
「この部屋……嫌な予感がする。」
真奈がペンダントを握りしめながら呟く。
その瞬間、鏡の中の映像が揺らぎ、ラザールの姿が変化した。映し出されたのは、彼がかつて血の盟約を背負わされた瞬間の記憶だった。
「これは……!」
ラザールが目を見開く。
「お前の一族は、我が力を求め、血を捧げた。」
鏡の中から響く声が、塔全体に反響する。それはゼクトラの記憶そのものだった。
「こんなものに惑わされるな!」
ラザールは剣を振るい鏡を打ち砕こうとするが、鏡は何事もなかったかのように再生する。
「これは試練よ……乗り越えなきゃ進めない!」
真奈が叫び、鏡に向かって歩み寄る。
「私たちはもう、過去に縛られない!これからは未来のために進むの!」
その言葉に反応したかのように、ペンダントが光を放ち、鏡が砕け散る。部屋全体が揺れ動き、一行は次の部屋へと進む道を見つけた。
◇
次の部屋に進むと、中央には古びた台座があり、その上には黒い書物が置かれていた。それは「血の契約書」と呼ばれるもので、ゼクトラが魔族たちを支配するために交わした契約が記されているものだった。
「これが……ゼクトラの支配の象徴か。」
ラザールが契約書を手に取ると、不気味な文字が浮かび上がる。それを読もうとした瞬間、契約書が黒い霧を放ち始めた。
「やっぱり簡単にはいかないわね!」
真奈がペンダントを掲げると、霧が一瞬収まる。しかし、書物から現れた幻影がラザールに語りかけた。
「お前は我が血を受け継ぐ者。お前自身が我と同じ道を歩むのだ。」
「そんなことはさせない!」
ラザールが剣を構えるが、幻影は彼の心の中に入り込み、迷いを引き起こそうとする。
「ラザール!」
真奈が叫び、彼の腕を掴む。その瞬間、ペンダントから新たな力が放たれ、幻影を打ち払った。
◇
幻影が消え、ラザールは深く息を吐いた。
「真奈、お前がいなければ……俺はまた迷いに囚われていたかもしれない。」
「私がラザールを助けるのは当然だよ。だって、私たちは一緒に戦うって決めたんだから!」
その言葉にラザールは微笑み、真奈の頭をそっと撫でた。
「ありがとう、真奈。」
◇
塔を抜けた一行の前には、次なる試練が待ち受けていることが予感される。ゼクトラの呪いの真実、そして血の盟約が完全に解かれる日は近い。だが、その裏で動き出すゼクトラの刺客の影も迫りつつあった。