表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/129

新たなる敵の影

闇の王の残滓との戦いを乗り越えた真奈、ラザール、イグナスの三人。しかし、「真実の扉」で得た情報は新たな試練の予兆でもあった。魔界の歴史を覆すような秘密と、真奈に課された巫女としての役割。その重圧が一行を試し続ける中、影の中から新たな敵が静かに動き始めていた——。

裂け目を封じ、闇の王の影を打ち倒した三人は、疲労困憊のまま次の目的地に向かっていた。道中の森に辿り着くと、真奈はその場に座り込んだ。

「ふぅ……。今日は本当に大変だった……。」

黒髪が風に揺れ、額に浮かぶ汗を手の甲で拭う真奈。宝珠の力を使いすぎたせいか、顔色が少し悪い。

「無理しすぎだ。」

ラザールが隣に座り、彼女に水の入った革袋を差し出した。

「ありがとう。でも、私だってもう子どもじゃないんだから。みんなと同じくらい頑張らないとね。」

真奈は微笑んで袋を受け取ったが、その声にはどこか無理をしている響きがあった。

「頑張るのはいいが、体が資本だぜ。倒れられたらこっちが困る。」

イグナスが焚き火の準備をしながら軽口を叩く。

「本当にそうだな。」

ラザールも小さく頷いた。

真奈は二人の言葉に苦笑しつつも、彼らの気遣いに心が温まるのを感じていた。異世界に来てから彼女は孤独だったが、今では家族のように思える仲間と過ごす時間がある。それだけで心の重荷が少し軽くなった。

夜が更け、焚き火の周りで仮眠を取る三人。深い眠りに落ちるイグナスのいびきが聞こえる中、真奈は眠れずに目を開けていた。宝珠の力が目覚めてから、胸の中で不安定な鼓動が続いている。

(これが私の役目なのかな……。)

ぼんやりと天を見上げると、紅い月が冷たい光を投げかけていた。そのとき、風の中に奇妙な気配を感じた。

「……誰?」

真奈が声を発した瞬間、暗闇の中からスッと黒い影が現れた。それは人間の形をしていたが、その姿は不気味に歪んでいた。目は紅く光り、漆黒の霧が体を覆っている。

「ラザール、起きて!」

真奈の叫びに、ラザールとイグナスが瞬時に目を覚ました。

「何だ……?」

イグナスが剣を構え、ラザールは真奈の前に立ちふさがる。

「ようやく見つけたぞ。光の巫女……。」

低く響く声が森全体に響いた。影の主は明らかに敵意を持っており、その手には黒い槍が握られている。

「お前は何者だ?」

ラザールが睨みつける。

「名乗る必要はない。ただ、使命を果たすまでだ。」

その言葉と同時に影は槍を振り下ろし、一行に襲いかかった。

「真奈、下がれ!」

ラザールが鋭い声で命じると、真奈は反射的に後ろへ飛び退いた。

「イグナス、俺の左側を頼む!」

「了解!」

ラザールとイグナスが完璧な連携で影に応戦する。しかし敵は人間離れしたスピードと力を持ち、二人を圧倒していた。

「これが魔界の……新たな敵?」

真奈は遠くから見守りながら、胸の中で宝珠の力がうずくのを感じた。

「力を……使わなきゃ!」

彼女は恐怖を振り切るように一歩前に踏み出し、両手を掲げた。

光が真奈の手から放たれ、敵の動きを一瞬封じることに成功した。

「やった!」

しかし、影の主はその光をすぐに弾き返し、再び槍を構えた。

「そんな小細工では俺は倒せない。」

「甘く見るな!」

ラザールが敵の隙を突いて渾身の一撃を放つ。その剣が影の胸に深く突き刺さった。

敵が倒れたかと思いきや、霧のように姿を消し、再び真奈の背後に現れた。

「巫女よ、貴様がこの世界を救うなど許されない。」

「な、何を言ってるの?」

影の主の目が真奈を貫くように睨む。

「闇の力が浄化されれば、この世界の均衡は崩れる。魔族は滅びる運命だ。」

その言葉に、真奈もラザールも凍りついた。

「そんなこと……。」

「全てを救うなど幻想だ。選ぶがいい。魔族を滅ぼして異界に帰るか、それともこの世界と共に滅びるか。」

影は冷たい笑みを浮かべながらそう言い残し、霧となって消えていった。

戦いが終わり、森に静けさが戻った。だが、影の言葉が真奈の心を重くした。

「もし本当に……魔族が滅びるとしたら、私がしていることって間違ってるの?」

彼女の問いに、ラザールは答えなかった。ただ、彼の拳が強く握られているのを見て、彼も同じ葛藤を抱えているのだと分かった。

「おい、難しい顔をするなよ。」

イグナスが焚き火を再び起こしながら言った。

「選択を迫られるのはいつものことだろ?俺たちがどう動くか、決めるのは今じゃない。」

その軽口に、真奈は少しだけ救われた気がした。

「そうだね……。私たちなら、きっと答えを見つけられるよね。」

ラザールは黙って頷いたが、その紅い瞳には決意が宿っていた。

敵の正体も、彼の言葉の真意も分からないまま、一行は森を抜けて進む。

「待ち受けているのが何であれ、俺たちが止まるわけにはいかない。」

ラザールの言葉に、真奈とイグナスは頷いた。

夜明け前の薄明かりの中、三人は前を見据えながら歩き続ける。その背中には、それぞれの重い決意が刻まれていた。

次の目的地で待ち受けるのは、魔界の均衡を維持するために選ばれた古の者たち。彼らは真奈に新たな試練を課す。その試練とは?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ