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光と闇の均衡

黒嶺の城塞での激戦を経て、真奈たち一行は裂け目の秘密に近づくため、魔界の最古の聖地「虚無の祭壇」へ向かっていた。そこは光と闇、相反する力が交錯し、均衡を保つ場所と伝えられている。ディアスの言葉——「裂け目を閉じるな。その先にこそ、真実がある」——が頭をよぎるたびに、真奈の心は不安と疑問で揺れていた。

「ラザール、本当に裂け目を閉じることが正しいのかな?」

静寂を破るように真奈が問いかけた。険しい山道を歩くラザールの背中が一瞬硬直する。

「どうした、急に?」

「だって……ディアスが言ってたこと。裂け目を完全に閉じることが、魔界にとって本当にいいことなのか分からない。」

真奈の言葉にラザールは立ち止まり、振り返る。彼の紅い瞳が真奈を鋭く見据えたが、そこには怒りではなく真剣な思案が浮かんでいた。

「確かに、あいつの言葉には妙な説得力があった。しかし、裂け目が開いたままであれば、この世界は崩壊に向かうのは確実だ。私は王族として、この世界を守る義務がある。」

「でも、真奈の疑問も分かるぜ。」

イグナスが会話に加わり、軽い口調で続けた。

「俺たちが信じてきた道が間違ってるかもしれない。そう考えるのは自然なことだ。それに、虚無の祭壇に行けば、真実に近づけるかもしれないんだろ?」

ラザールは深いため息をつき、視線を遠くに向けた。

「そうだ。真奈、お前の迷いも分かるが、祭壇に着けば答えが見えるかもしれない。それまでは進むしかない。」

真奈は小さく頷き、再び歩みを進めた。

旅路の果てに、虚無の祭壇が姿を現した。巨大な石柱がいくつも並び、その間には淡い光が揺らめいていた。祭壇の中央には、光と闇のエネルギーが螺旋を描くように渦を巻いており、周囲の空気にはピリピリとした緊張感が漂っていた。

「ここが……虚無の祭壇?」

真奈は息を飲んだ。その神秘的な雰囲気に、足を踏み入れるのをためらう。しかし、ラザールは躊躇なく祭壇に向かって進んでいく。

「この場所は、魔界の根源的な力が宿る地だと言われている。裂け目の真実に迫るには、このエネルギーを利用するしかない。」

ラザールが剣を抜き、地面に突き立てると、祭壇の中心部から光と闇のエネルギーが一層強く渦巻き始めた。

「何が起きてるの?」

真奈が怯えながら尋ねると、イグナスが冗談めかした調子で答える。

「おいおい、俺も専門家じゃないけど、祭壇の力を解放してるってとこだろうな。ラザールに任せとけばいいさ。」

しかし、次の瞬間、地面が激しく揺れ、闇の渦の中から巨大な影が現れた。

現れたのは、人型をした二体の精霊だった。一体は純白の光に包まれ、もう一体は黒い霧を纏っている。それぞれが祭壇の力を司る存在のようだった。

「汝らは何者か。この聖域を侵す理由を答えよ。」

白い精霊が低く響く声で問いかける。

「私はラザール=ヴァルディア。この世界を覆う裂け目を閉じるためにここへ来た。」

ラザールが堂々と答えると、黒い精霊が不気味な笑いを漏らした。

「裂け目を閉じる? 愚か者め。それは、この世界の均衡を崩すことになる。」

「均衡?」

真奈が恐る恐る尋ねると、光の精霊が答えた。

「そうだ。この世界は光と闇、両方の力で成り立っている。裂け目はその均衡が崩れた結果生まれたもの。だが、それを無理に閉じることは、さらに大きな歪みを生む可能性がある。」

ラザールの表情が険しくなる。

「それでも、このままでは魔界は崩壊してしまう。それを防ぐために裂け目を閉じるのだ。」

「ならば、試練を与えよう。」

黒い精霊がそう告げると、周囲の空間が変化し、一行は異空間に引き込まれた。

異空間は光と闇が入り交じる不思議な場所だった。真奈たちは二手に分かれることを強いられた。ラザールとイグナスは闇の空間へ、真奈は光の空間へと引き離される。

「真奈!」

ラザールが叫ぶが、その声は届かない。

光の空間で目を覚ました真奈の前には、過去の記憶を映す鏡が現れた。そこには、魔界に来る前の平凡な日常が映し出されていた。

「帰りたい……本当は、元の世界に帰りたい……。」

真奈の心が揺らぐ。その隙を突くように、光の精霊が問いかける。

「汝の望みは何だ? 魔界の救世主としての使命か、それとも元の世界に戻ることか?」

一方、闇の空間では、ラザールが己の罪を暴かれていた。彼の過去に犯した失敗が幻影となって襲いかかり、彼を苦しめる。

試練を乗り越えたとき、真奈とラザールは再び祭壇に戻ってきた。

「お前たちは試練を乗り越えた。その覚悟を信じよう。」

光と闇の精霊は同時に告げ、渦巻くエネルギーの中に消えていった。

真奈とラザールは互いに目を見つめ、静かに頷く。

「私たちは進むしかない。」

「そうだ。どんな真実が待っていようとも。」

虚無の祭壇を後にする二人。その背中には、以前よりも強い決意が宿っていた。


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