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SS07 紅い誓い

魔界の夜は深く、静かだった。紅い月が天空に輝き、闇夜を優しく照らす。真奈とラザールは、旅の途中で立ち寄った湖のほとりにいた。湖面は月光を受けて赤く染まり、まるで宝石のようにきらめいている。

「すごい……こんな綺麗な湖、見たことないよ。」

真奈は水面に目を奪われながら感嘆の声を上げた。その声を聞いて、隣に立つラザールは微笑みを浮かべる。

「この湖は『真実を映す湖』と呼ばれている。この魔界でも、特に神聖な場所の一つだ。」

「真実を映す……?」

真奈が首をかしげると、ラザールは湖面を指さした。

「ここに立つ者の心が、そのまま映し出される。恐れや疑いがあれば波立ち、純粋な心があれば澄んだままだ。」

真奈は目を丸くして湖を見つめた。

「じゃあ、私の心も映るのかな?」

「試してみるか?」

ラザールの言葉に、真奈は少し緊張しながら湖面をじっと見つめた。赤い水面は静かで、波一つ立たない。

「……きれいなままだ。」

「当然だ。お前の心は、嘘を知らないからな。」

ラザールのその言葉に、真奈の頬が赤く染まる。

「も、もう! そういうこと言わないでよ!」

「事実だ。隠す必要はない。」

どこか真剣な響きを持つラザールの声に、真奈は言葉を失った。その一瞬、彼の紅い瞳がこちらを見つめていることに気づく。

湖を眺める真奈の隣に立つラザールは、ゆっくりとその瞳を真奈へと向けた。

「真奈。」

「な、なに?」

声の響きがいつもと違う。その静かな緊張感に、真奈の胸が高鳴る。

「お前がこの魔界に来てから、ずいぶん長い時間が経った。最初は頼りなく、泣きそうな顔ばかりだったが……」

「それ、言わなくてもいいよ!」

「だが、今ではお前がいなければ、私たちはここまで来られなかった。」

ラザールは一歩、真奈に近づいた。その気配に、彼女は思わず一歩下がろうとするが、すぐに立ち止まる。

「お前は、この魔界に光をもたらしてくれた。そして私に……人としての心を教えてくれた。」

「ラザール……?」

真奈は息をのむ。彼の紅い瞳が真っ直ぐに自分を見つめているのを感じた。

「私は、この魔界の王として生まれ、責務を果たすために生きてきた。だが今、私は……お前と共に生きたいと思っている。」

「えっ……?」

「真奈。」

ラザールは彼女の目の前に跪き、懐から小さな箱を取り出した。その中には、月光を反射して輝く真紅の指輪が収められている。

「お前がここに来た理由は、ただの偶然ではない。運命だと信じている。だから……私と共に、この魔界を歩んでくれないか。」

真奈は驚きに目を見開いたまま、言葉を失った。

「そ、それって……」

「……そうだ。私の花嫁になってほしい。」

ラザールの真剣な声が静寂を破る。紅い瞳は迷いのない光を宿しており、その視線は真奈の心を貫いた。

「でも……私、まだ子供だよ?」

真奈はおずおずと口を開いた。自分がその問いにふさわしいのか、自信がなかったのだ。

「関係ない。」

「え?」

「お前が何歳であろうと、私にとって唯一無二の存在であることに変わりはない。お前が成長するまで、私は待つ。それまでお前を守り続ける。」

その力強い言葉に、真奈の目から一筋の涙がこぼれた。

「ラザール……ありがとう。でも、本当に私でいいの?」

「……お前でなければ意味がない。」

その言葉に、真奈は小さく笑った。

「じゃあ……うん。私もラザールと一緒にいたい。」

ラザールは静かに立ち上がり、真奈の手を取りながら指輪をそっとはめた。

「これで、お前は私の婚約者だ。」

「婚約者……なんだか照れるな。」

真奈が赤くなりながらそうつぶやくと、ラザールは優しく微笑んだ。その表情は、彼女が見たことのないほど穏やかで、愛情に満ちていた。

二人はそのまま湖畔に立ち尽くし、静かに月を見上げた。真奈は、自分の左手にはめられた指輪を見つめながら、心に誓う。

「私、ラザールと一緒にこの魔界を守る。絶対に。」

その言葉は、彼女の心に灯る新たな決意の証だった。紅い月がその姿を静かに見守り、湖面に映る二人の影はいつまでも消えることなく寄り添っていた。

——おしまい——


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