SS05 魔界のかくれんぼ ~隠れるのは誰だ?~
魔界の夜。紅い月が柔らかな光を放ち、城庭の影をより濃くする中、篠原真奈は魔界の子どもたちと一緒に歓声をあげていた。彼女が提案したのは、「かくれんぼ」だった。
「魔界にはかくれんぼなんてないの?」
「そんな遊び、人間界のものだろう。」
ラザールが腕を組んで答える。その隣で、イグナスがにやりと笑った。
「俺は興味あるな。王様が真奈を見つけられるのか、見ものじゃないか。」
「イグナス、お前もやるんだぞ。」
「もちろんさ!さあ、みんな、やろうじゃないか!」
◇
真奈は魔界の住人たち、特に近くの子どもたちにルールを説明していた。
「簡単だよ。誰かが鬼になって、他の人が隠れるの。それで、鬼が見つけた人はタッチして『見つけた!』って言うの。」
「なるほど、単純だな。」
「でもね、隠れるのが上手い人が勝つんだからね!」
ラザールはその言葉に少し眉をひそめた。
「王たる者が、隠れるのに必死になるのは少々恥ずかしいな。」
「恥ずかしくないよ!大人だってやるんだから!」
そう言って真奈がラザールを見上げると、その真剣な目に彼も頷いた。
「……わかった。付き合おう。」
「じゃあ、鬼は……ラザールに決まり!」
「は?」
◇
ラザールが鬼となり、目を閉じて数を数え始める。
「1……2……3……」
真奈はすぐに走り出し、庭の木々の間に隠れた。その後ろでは、イグナスがわざと大きな音を立てながら草むらへ転がり込んでいる。
「イグナス、音立てすぎ!」
「わざとだよ。ほら、もっと奥へ隠れろ。」
子どもたちも次々と木の陰や柱の後ろに隠れていく中、ラザールが数え終わった。
「10。行くぞ。」
低い声が響き渡り、彼は鋭い目で辺りを見回した。
◇
ラザールはすぐにイグナスの隠れる場所を察知した。
「そこだ、イグナス。」
「くそっ、もうバレたのか!」
草むらから飛び出したイグナスが、笑いながら両手を挙げる。
「さすが王様。だが、俺を見つけても、真奈は簡単には見つからないぞ?」
「お前がヒントになる。」
「えっ?」
ラザールはイグナスを「見張り」に任命し、そのまま歩き出す。
◇
真奈は庭の隅にある大きな花壇の裏に身を潜めていた。
「まだ大丈夫……かな?」
しかし、ラザールの足音が近づいてくる。
(早すぎるよ!なんでこんなに速いの!?)
彼女は息を潜めたが、次の瞬間、ラザールの声が響いた。
「真奈、そこにいるな。」
「えっ!?なんでわかったの!?」
ラザールが顔を覗き込むと、真奈は驚きと悔しさで顔を赤らめた。
「お前の髪が光を反射していた。」
「そんな……!」
捕まえられた真奈は膨れっ面をしていたが、ラザールは満足げに微笑んでいた。
◇
捕まえられた真奈とイグナスが「鬼」となり、次のラウンドが始まる。
「よーし、次こそ見つけるぞ!」
「王様、今度は逃げ切れるか?」
ラザールは大きな柱の陰に身を隠しながらも、真奈が近づいてくるのを感じていた。
「いた!」
真奈の声が響き、彼は軽く身を翻して逃げる。
「逃げるのずるい!」
「捕まえられるなら、やってみろ。」
そのやり取りを見て、イグナスが大笑いした。
「お前たち、本当に仲がいいな!」
◇
こうして、かくれんぼは何度も何度も繰り返された。紅い月の下、笑い声が途絶えることはなかった。魔界の住人たちは皆、最初は戸惑っていたが、次第にその遊びを心から楽しむようになっていた。
「これ、人間界の遊びも悪くないな。」
ラザールがつぶやくと、真奈は得意げに笑った。
「でしょ?次は別の遊びも教えてあげる!」
その言葉に、イグナスが目を輝かせた。
「それなら次は何をやる?俺はもっと走り回れる遊びがいいな!」
真奈とラザール、そしてイグナス。三人の心が通じ合う瞬間が、魔界の夜を温かく包んでいた。
——おしまい——