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SS02 新たなる命 ~魔界の母となる日~

紅い月が薄明に沈む夜、魔界の城にひとつの小さな希望が芽生える。

ラザール=ヴァルディアと篠原真奈の間に宿った新たな命。それは異世界と魔界を繋ぐ象徴として、ふたりだけでなく魔界全体に大きな影響を与える出来事となった。

真奈がその兆候に気づいたのは、身体のだるさや眠気が続き、いつもの食べ物に違和感を覚えるようになった頃だった。

「何だか最近、すぐに疲れちゃう……。」

侍女が気遣うように紅茶を差し出し、ラザールも心配そうに真奈を見つめていた。

「医師を呼ぶべきだ。」

ラザールの言葉に、真奈は首を横に振った。

「そんな大げさなことじゃないと思うよ。ただ、ちょっと疲れてるだけだから……。」

だが、彼女の様子に異変を感じたラザールは、念のため医師を呼び寄せた。

診察の結果、真奈に告げられたのは思いも寄らない言葉だった。

「おめでとうございます、真奈様。新しい命が宿っています。」

真奈は驚きで目を丸くし、隣にいたラザールも一瞬言葉を失った。

「私たちに……赤ちゃんが……?」

震える声でそう呟いた真奈の手を、ラザールはしっかりと握りしめた。その瞳には驚きと喜び、そしてわずかな戸惑いが混ざっていたが、やがて静かな決意が宿った。

「真奈、ありがとう。お前とこの子は、私が必ず守る。」

真奈の妊娠が告げられると、城内だけでなく魔界全体が祝福に包まれた。異世界から来た少女と魔界の王子の間に生まれる子供。それは魔族たちにとって新たな希望と未来を象徴する存在だった。

一方で、真奈にとって初めての妊娠は戸惑いの連続だった。

「うぅ、朝がつらい……。」

妊娠初期のつわりに悩まされる彼女を、侍女たちは献身的に支えた。イグナスも彼なりに気を遣い、「妊婦には笑いが必要だ!」と軽口を叩いて真奈を元気づけようとしたが、ある日ラザールに睨まれて黙る羽目に。

「静かにしていろ、イグナス。真奈を疲れさせるな。」

「へいへい、王様には敵いませんね。」

やがて月日は流れ、真奈のお腹は大きく膨らんでいった。出産が近づくにつれ、ラザールは一層彼女を気遣い、側を離れることが少なくなった。

「真奈、何かあればすぐに呼べ。」

「ラザール、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

真奈は笑顔を見せるものの、ラザールの気持ちは変わらなかった。

「お前も、この子も私のすべてだ。何があっても守り抜く。」

出産当日、夜空に紅い月が高く昇る中、真奈は城の一室で陣痛に耐えていた。侍女や医師たちが手際よく準備を進める中、ラザールは部屋の外で緊張した様子で立ち尽くしていた。

「王様、こちらは我々にお任せください。」

そう言われても落ち着かないラザールに、イグナスが肩を叩いて声を掛けた。

「大丈夫だって。真奈はお前が想像してるよりずっと強い女だ。それに、俺たちみんながついてる。」

ラザールは静かに頷き、紅い瞳を閉じた。

数時間後、部屋の中から赤ん坊の泣き声が響き渡った。

ラザールが部屋に入ると、真奈は疲れ切りながらも幸せそうな表情で赤ん坊を抱いていた。

「ラザール……見て、この子……私たちの……。」

彼女の腕の中には、小さな角を持つ赤ん坊がいた。紅い瞳とふわふわとした黒髪は、ラザールによく似ている。その姿を見た瞬間、ラザールの胸の中に湧き上がるものがあった。それは王としての誇り以上に、父としての感情だった。

「真奈……ありがとう。この子は、魔界とお前の絆の証だ。」

ラザールはそっと赤ん坊の頬に触れ、優しく微笑んだ。その表情を見た真奈もまた、安心して微笑み返した。

その後、赤ん坊には魔界の言葉で「調和」を意味する名前が贈られた。その名を聞いた魔族たちは、未来への希望を胸に新たな時代の到来を感じた。

出産から数週間後、真奈とラザールは赤ん坊を抱きながら城のバルコニーに立っていた。夜空には紅い月が優しく輝き、魔界全体を照らしていた。

「この子が生まれて、魔界も少しずつ変わる気がする。」

真奈がそう呟くと、ラザールが静かに頷いた。

「この子の存在が、魔界に新たな未来をもたらす。そして、それを支えるのがお前と私だ。」

ラザールの力強い言葉に、真奈は安心して肩を寄せた。

ふたりとひとりの新しい家族が見つめる未来。それは、異世界と魔界を繋ぐ希望の象徴として、紅い月の下に輝いていた。

——おしまい——


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